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自由都市イワフネ<5>

 自由都市イワフネの春祭り初日の朝、スーノ達一行はディーノに連れられ、街の中央広場にある個人所有の建物の三階のバルコニーにいた。そこからは、見物人でごった返している街の広場を一望できた。広場の周囲には、統一されたように同じ屋根の高さの建築物が立ち並んでいる。


「すごい人数集まってるね!!」


 杏奈がバルコニーの欄干から広場の人々に目を向ける。手すりから落ちそうなる位まで身を乗り出しているが、器用にバランスを取っておりその姿は危なげ無い。その隣では、リナが同じように広場を見ようとしているが、普通に立っているだけでは身長が低いため満足に覗き見ることが出来ず、杏奈の真似をして欄干によじ登り広場を見渡そうとする。


「すげーじゃん!うわっ!!」


 もっと見回そうと手すりに体重を預けて更に身を乗り出すリナだが、バランスを崩し、危うくバルコニーから転落しかける。それを予想していたように、背後に立っていた男、ディーノがリナの襟元を吊り上げる。


「アブねえだろ。落ちても知らんぞ」

「なんだよ、どうでもいいなら助けなきゃいいじゃん」


 不機嫌そうなディーノに、リナが襟元を掴んでいるディーノの手を鬱陶しそうに払って文句を言う。


「ばかやろ、お前はもうウチの団の一員で、しかもオレが指揮する九番隊の隊員なんだよ。勝手に怪我されたり、ましてや死なれちゃ、オレの責任問題になるんだ」


 九番隊隊長である自分に対して不平は許さないと、ディーノがリナの頭を小突く。殴られた頭に手をやって痛がるリナ。


「それにお前の右手の指4本はまだ折れている(、、、、、、、、、、)はずなんだよ。こんな目立つところで手すりに登ったりしたら辻褄が合わなくなるだろう」


 昨日メルケルファミリーのチンピラに骨折させられたリナの右手の指は、スーノの治癒魔法によりほぼ回復している。流石に完治したとは言えず、若干の痛みと動きのぎこちなさは残っているが、それも数日中に無くなるだろうと予想される。

 しかし、だからといってリナがその怪我の無い姿を公に見せるのは、非常によろしくない。なぜなら、それはイワフネの街の北半分を縄張りにしているメルケルファミリーの面子を潰すことになるからだ。自分達の縄張りで、スジを通さずに商売(スリ)をしていた子供に、きっちりと落とし前をつける。

 それは、裏の世界で生きる組織としては、絶対に譲ることのできない、面子の問題となる。始末をつけたはずの子供が五体満足でピンピンとして祭りを謳歌しているとなったら、メルケルファミリーの体面は丸潰れとなってしまう。そうなれば、再びリナの元にファミリーの者が処分に現われるだろうということは想像に難しく無い。


 ところで、メルケルファミリーは、裏の世界では過酷なファミリーとして名が通っている。自分達の縄張りで勝手な真似をする者には、厳しい処分を下すのが通例だ。リナのように身寄りの無い子供ならば、後腐れなく処理する(、、、、、、、)のが当然なのだが、なぜかリナは商売(スリ)道具の指を折られるだけで済んだ。その訳に実はディーノの行った裏の交渉があったというのは、彼だけの秘密である。


 ちなみにリナの右手は仰々しいギプスに固められているのだが、それもこの子供は制裁を受け不自由な生活をしています、というファミリーに対するポーズとなるため当分の間外すことは出来ない。それをリナが外せるのは、数ヶ月先のことになるだろう。

 確かに、そんな右手で軽々と手すりに登るのは、明らかにおかしい。


 そんなリナとディーノの言い合いを横目に見ながら、スーノはバルコニーから広場を見回す。広場には人々が既に大勢集まり、スーノ達から見て右手に視線を向けて、ザワザワと騒がしく今か今かと何かを待っていた。人々が注目している先、スーノたちのいるバルコニーの右手の気持ち下方には街の公会堂があった。その公会堂にも、バルコニーがあり、そこに程なくして自由都市イワフネの領主であるスガナ男爵とその孫娘であるフエヴェルが現われる予定となっている。


 スーノは隣にいる杏奈の表情を盗み見る。杏奈は広場の人々と同じように、今か今かと期待に胸を膨らませていた。そんな杏奈の姿を見て、スーノは隠れるようにして頬を緩ませた。


「来た来た!!」


 杏奈が興奮した声を上げる。そしてその杏奈の声が掻き消されるほどのどよめきが、広場の群集から沸き立った。











「お姫様、可愛かったね~」


 杏奈が目を閉じ、何かに酔うようにその時の光景を脳裏に浮かべる。

 このバルコニーから見ると、領主一家のの現れた公会堂のバルコニーは若干低い位置にあり、気持ち上から見るように角度がついていたため正確には分からないが、背の高さはどうだろうスーノと同じくらいか。輝くようなブロンドの髪を結い上げ、髪には宝石を鏤めたティアラが飾り付けられていた。ドレスはキラキラと輝く青に染められたシルクで、コルセットで締め上げているのか、ウエストは驚くほど細く、世の女性皆が羨望する体型と言って良いだろう。その見た目は<絵に書いたようなお姫様>といって良いもので、杏奈が事前に想像していたそのものといって間違いなかった。


 広場の人々は、興奮冷めやらぬといった雰囲気でざわめいている。祭りは始まったばかり、まだまだ楽しめるイベントはたくさんある。それを期待するように、群集は徐々に四散していった。


「そうか、あんなの派手なだけだよ。杏奈のほうがずっと綺麗だ」


 先ほどからリナは、口を尖らせて先ほど群集の前に現れたフエヴェル姫のことを、無理やりに気に食わないところをあげつらうように貶していた。

 ブロンドの髪だって、なんか派手でドギついし、杏奈の髪色のほうが透けるよな金色で、ずっと綺麗だ。などと。

 スーノは、その姿を後ろから眺める。いろいろ難癖をつけて扱き下ろすリナだが、フエヴェル姫が公会堂のバルコニーに現れた時、その姿を陶酔しながら目を輝かせて見つめていたのをスーノは知っている。そしてその後、何かに気づいたような顔を見せ、顔を伏せていたことも。


 仕方ないよな。スーノは考える。

 出生は誰も選べない。あの姫のように領主の姫として生まれ、多くの者に傅かれ豪勢な邸宅に住み綺麗な衣装や豪華な装備品を与えられる者もいれば、住む家も無くその日その日の糊口を凌ぐことに汲々とする生活を送る者もいる。確かに、それはどの階級の家に生まれたのか、で決まってしまうことだ。生まれに恵まれなかった者が、恵まれた者の姿を見て簡単に納得することなど中々出来ないだろう。

 スーノや杏奈を含め、冒険者が生きてきた21世紀初頭の日本であっても、出生でその後の人生がある程度決まってしまうというのは変わらない。それでも、全くチャンスが無い訳では無く、才能と努力次第で成り上がることが出来なくはなかった。

 しかし、明確な階級社会であるこの世界では、成り上がることなど夢物語だ。今の日本人の子供達が感じる不公平感など、リナのような立場の子供が向き合わなければならないこの世界の残酷さとは比べようも無い。


 杏奈もそんなリナの姿に何か感じるものがあったのか、リナに向き合って声を掛ける。


「ねえ、せっかくだから一緒に祭りを回ろう!!」


 リナは驚いたように杏奈の顔を見上げる。まぶたを瞬かせながら「でも・・・」と不安そうに呟いて、その視線をディーノのほうに向ける。ディーノは肩を竦めて、苦笑いを見せる。その顔は「しょうがないな」と言っているようだ。杏奈は、ちらっとディーノの顔を見遣り、


「さあ、行くよ。ほらディーノさんも一緒に!!」


 とリナの左手を握って、ディーノを急かす。


 ちゃんと周りの空気を読んでいるんだな。スーノは関心し、ディーノに「僕はこのまま宿に帰っておとなしくしているよ」と伝えた。


「じゃ、オレはお嬢さん方のエスコートと洒落込みますか。宿にはいるから(、、、、、)よろしく」


 監視役がいることはは分かっているんだろ、と目で語ってくるディーノを見て、スーノは片手を上げて答えた。

 そんなディーノの肩を押して杏奈が部屋を出て行く。リナも祭りを楽しめることの嬉しさを隠せないようで、華やいだ雰囲気が見て取れる。


「じゃ、行って来ます」


 そう杏奈が言って、三人は消えていった。


 さてどうしますか。スーノは隣のエンジに視線を向けた。そういえば、お前と二人きりになるのは久しぶりだね。エンジも同じことを考えていたのか、はっはっと舌を出してピンと立てた耳をスーノに向けていた。

 久しぶりに、二人でのんびりしますか。スーノが歩き出すとエンジも一歩遅れてその後を着いていった。










 広場からの帰り道、やはり街は祭り目当ての人々でごった返していた。隣を歩いているのは、顔や手足など露出しているところ全てが毛で覆われている猫人族の男女だ。ジロジロ見るのは失礼だろうから出来ないが、そのモフモフには非常に興味がある。

 子供の頃実家でずっと犬を飼っていた。そのうえこの世界でも山犬のエンジと契約するぐらいのスーノだけに、当然のごとく動物好きである。猫人族の毛皮の触り心地はどんなものなんだろうか?興味が尽きないが、流石に全く面識の無い大地人の猫人族のかたに「毛皮に触らせてください」などと頼むことはとてもできない。

 さらに、前からは孤尾族の女性が歩いてきた。


 うわ~、尻尾ふわふわだよ。触りて~


 視線は、孤尾族の女性の尻尾に釘付けなのだが、恥ずかしいのでそれを鉄の意志で引き剥がす。そんなスーノの考えていることがまるで読めているかのように、エンジがスーノに身体をよせ、「そんなのよりおれのけがわをなでろ」と要求してくる。

 そういえば、最近はエンジのモフモフは杏奈に譲りっぱなしだったなぁ。そんなことをスーノは思い出す。スーノはエンジの頭を撫でて、宿に帰ったらこの欲求不満をエンジの毛皮モフモフし放題で解消してやる!!と心に決めていた。


 そんな妄想を膨らましていると、背後から走ってきた誰かが、スーノの肩にぶつかってきた。そしてそのまま転倒する。おっと、とバランスを崩したスーノが背後に振り返ると、そこにはメイド服の少女が倒れていた。


「大丈夫かい」


 スーノはその少女を助け起こそうと手を差し出すと、メイド服の女性がスーノを見る。相手が女性だということに安心したようで、女性はスーノの手を取った。その手を取ったメイド服の少女をスーノは引き起こす。


 ん?


 握った手の感触が予想外のものだったのがスーノの心に引っかかる。が、そんなスーノの様子は気にも留めずに、スーノを急かすようにメイド服の少女がスーノの手を両手で強く握り、訴えてきた。


「悪漢に追われているんです。お願いです。助けてください!!」


 その言葉を聞いたスーノが、背後の通りに目をやる。そこには三人ほどの黒帽黒服の男が、キョロキョロと周囲を見回しており、そしてスーノに縋り付いているメイド服の少女を見つける。

 黒服が駆け出す。

 「お願いします」メイド服の女性の切実な視線が、スーノに着き刺さる。


 なんかこの街に来て、トラブルばかりだなぁ・・・とか考えるが、スーノも本当は男。少女から助けを求められてそれを無碍にするのはなんともかっこ悪い。よし、と、一瞬エンジに目配せをして、メイド服の少女の手を引いて男達から逃げる方向に走り出した。

 エンジは走り出したスーノに反して、その場に立ち止まっている。そして黒服の先頭の男が目前に来た瞬間、踏み出して黒服の目の前に飛び出した。エンジに衝突して転倒する黒服。後ろの黒服二人も、その混乱にその進路を妨害され、その場に急停止した。


 転倒した黒服は邪魔をしたエンジのことなど全く興味ないように無視して、メイド服の少女を追跡しようと立ち上がろうとする。だが、その行く先をエンジが遮る。

 牙をむき出しにして唸り声を上げるエンジの姿に、黒服たちの腰が引ける。鼻の上に皺を寄せ、歯茎すら見えるぐらいに牙を剥いたエンジの顔つきは、まるで獲物を目の前にした捕食者のよう。黒服の男全てに敵意を向けて、お前達を逃がすもんか!!というくらいに、赤い目を見開いて黒服を凝視する。


 その光景を傍から見たものからすれば、ぶつかってきた男に野良犬が怒っているように見えるだろう。エンジも、そのシチュエーションを想定して、そう見えるように始めから演技をしている。

 だが演技と言えども、一メートルほどの大型犬が歯を剥きだしにして威嚇する姿を、警戒せずに無視できる人間はそうはいないだろう。黒服もエンジの威嚇にその場を動けずにいた。


 エンジは横目にスーノたちの姿を探す。その姿は通りの先、既に見えなくなりかけている。このくらいで自分の役目は果たせただろう。そう判断したエンジは、黒服達に向けて、全力で咆哮を放った。


 エンジの本当の姿は巨体を誇る山犬であり、街を徘徊しているただの大型犬とは訳が違う。今の姿は一メートルの身体だが本来は体長三メートルの犬としてはありえないほどの巨躯だ。その咆哮には本来の力滲み出ているのだろう、その咆哮の威圧感に黒服達の身体が萎縮して動きが止まった。

 その様子を確認したエンジは、怒りを剥き出しにしていた表情をあっさり消して、涼しい顔でその場から風のように走り去った。


 呆気に取られた黒服達が我を取り戻したときには、エンジの姿はもちろんスーノとメイド服の女性の姿も綺麗さっぱり跡形も無く消えていた。地団駄を踏む黒服たち。その中の一人が指示を出し、消えたメイド服の少女を探し出そうとしているのだろう、黒服が祭りの雑踏の中に散っていった。












 メイド服の女性の手を引いて、スーノは狭い路地をを走りぬける。どうもこの街の裏路地には縁があるな。スーノはそんなことを考えるが、それよりも今はもっと気になることがある。

 5分ほど裏路地を走り、もうこれなら黒服を撒いただろうと背後を確認し、裏路地に立ち止まるスーノ。メイド服の少女は息も絶え絶え、酸欠で顔色が青くなり、呼吸をするのが苦しそうだ。そんな少女の姿を見て、スーノは運良く外していなかった腰の魔法鞄から革の水筒を取り出し、女性に差し出した。

 走る様子から、普段は運動などしない人なのだろうとスーノは予想していた。そして、おそらく喉はカラカラに渇き、受け取った水筒の蓋を開けるのももどかしく、浴びるように口をつけるだろうと考えていたスーノだったが、その少女は呼吸が落ち着くまで待ち、その後丁寧に水筒の蓋を取りゆっくりと水筒から水を飲んでいた。

 野趣溢れる革の水筒を、あたかもワイングラスを傾けるがごとく上品に手に持って水を飲む姿は、全く似合わない。そんな姿を見て、首を傾げるスーノ。メイド服の少女は、飲み終わった水筒の蓋を閉め、スーノに返す。


「ありがとう。助かりました。」


 あれだけ息を切らし、汗も掻いたはずなのに、もう少女の様子からは既にそんな気配はかけらも無い。さらに、黒服から助けて貰い、少女が感謝の言葉を掛けてきているのは分かるのだが、その立ち振る舞いは感謝の雰囲気が無いというか、助けるのが当たり前、といった空気すら読み取れた。さらにさらに不思議なのは、その態度からは悪意が全く感じられず、そしてそのような要求を主張されても、スーノ自身全く不愉快に思わないことだ。

 そのようなことを感じて、狐につままれたような気持ちになるスーノだったが、そんなスーノを観察していた少女が話しかけてくる。

 

「もしかすると、あなたは冒険者ではありませんか」

「ああ、そうだけど」

「やはりそうですか。わたくしは冒険者の方とお話をするのが初めてなのです」


 この世界の大地人が冒険者とどのように付き合っていたのか、今のスーノに分からない。ゲーム時代なら、NPCは決まりきった返答しか出来ない、ある意味ロボットのような存在だった。

 この世界に転移してきた当初、スーノは大地人=NPCと見做していた。しかし、初めて滞在した村の村人、それにこのイワフネの街で出会った多くの大地人との付き合いの中、その考えが誤っているのではないか、とスーノも自覚し始めている。

 そして、その認識は新たな問題も含んでいる。そのひとつが、大地人側から見て冒険者、ゲーム時代で言うのならプレーヤーと言う存在はどう見えていたのか、と言うことだ。

 そういえば、今までそのことを大地人に尋ねたことは無かったな。


 そんなことを考え込んでいるスーノに、メイド服の少女から声が掛けられる。


「あなたにお願いがあります」


 暗い裏路地で背筋を伸ばして姿勢良く立っている姿は、どうにも不似合いだ。しかし、そのような態度で話してこられると、何故かスーノのほうが腰が引けていくのはなぜだろう。


「わたくしは先程の男達に追われています。どうか匿っていただけないでしょうか」


 少女のその言葉に、スーノは改めてその少女に目を向け、少し失礼かなとも思ったが、頭からつま先までまじまじと見た。

 ウェーブが掛かった濃いブロンドの髪に青い瞳。首元には金細工のシンプルな首飾りが見える。着ている衣装は黒い飾り気の無い、それでも生地と仕立ては極上の漆黒のドレスに白のエプロン。白の襟元と白のカフス。ブロンドの頭には白いレースのヘッドドレスを被っていて、これはどう見てもメイドだろう。

 それもオタク的な文脈で言うところのメイドではなく、18~19世紀当時の本当のヨーロッパ貴族など上流階級の屋敷で雇われていたハウスキーパー等々の家事使用人であるメイドだ。


 なるほどね。訳有りというわけだ。

 スーノは納得する。だけれど・・・


「分かった、と言いたいところだけど、残念ながら僕もこの街の人間じゃないから、匿うことは出来ないよ」


 それを耳にした少女は肩を落として落胆した。だが気落ちしていたのは少しの間だけで、すぐに顔を上げてスーノに言い寄る。


「それでも、今日一日だけでいいですから、わたくしを守っていただけ無いでしょうか」


 その切実な思いを訴える少女の勢いに、スーノは押される。

 さてどうするか・・・スーノはじっと見つめてくる少女の視線の力に圧倒されるが、それに負けないようにその瞳を見つめ返す。

 ウェービーなブロンドの髪は長く、腰くらいまでの伸びている。前髪も長く額の真ん中で分けられ、左右に綺麗に流され、その美しいブロンドは首元の金細工の首飾りに引けを取らない輝きを見せていた。肌理細やかな綿の生地の黒のドレスの上から白く清潔なエプロンを纏っている。華美とまでは言えないがフリルとレースに装飾されているエプロンの胸元には、おそらく奉公している家の家紋であろう紋章が細やかな刺繍で縫い上げられていた。


 最近、自分は頼まれると断れない性格なんじゃないかと思えてきた。でも、現実世界の会社じゃ無理な仕事からは適当に上手く逃げていたんだよなぁ。そうか、綺麗な女性や魅力的な少女からの頼みごとが断れないだけか。それなら分かる。


「ああ、良いよ。今日一日どうにかしてみよう」


 ちょっと安請け合いにもほどがあるかな?と、気にもしたが、まあ、どうにかなるだろう。

 スーノのその返事に、少女は表情を明るくして、メイド服の長いスカートの裾を摘み軽く持ち上げ、右足を後ろに引いて膝を深く曲げて腰を落とし頭を深々と下げた。


 こりゃ、参ったな。


 その少女の振る舞いをスーノは頭を掻きながら見ていた。ここまでされちゃ、ちょっとは頑張らないと・・・そしてその場に、別行動だったエンジが相変わらず音も立てずに帰ってきた。エンジの姿をみた少女が一瞬身を固くして、緊張したのがスーノには分かった。


「大丈夫。この子は良い子だよ。絶対襲ったりしないから」


 にこやかに笑みを見せて、傍に来たエンジの首元を撫でているスーノ。エンジを見る少女の顔は不安げな色がありありと浮んでいた。


「わたくし、こんな大きな犬をこんなに間近で見た経験が無かったもので・・・本当に大丈夫ですの?」

「ああ、絶対」


 スーノの言葉に、少女は恐る恐るエンジの傍に寄り、その頭に手を伸ばす。こういう自分を怖がっている人間の相手がどんどん上手くなっていくな。スーノがそう思うほど、エンジは行儀良くして少女の行動に過敏に反応せずに大人しくしていた。大人しく頭を撫でられているエンジを見て、この犬は暴れたりしないと理解したようにも見えるが、それでもやはり怖いのだろう、その動きからどうにもぎこちなさが抜けない。


「さて、いつまでも自己紹介すらしないのはマズいかな。僕はスーノ。あなたが仰る通り冒険者だ。そしてこの子はエンジ。僕の友達」


 スーノがエンジを手元に招き寄せて首を撫でながら紹介する。エンジがくすぐったそうに顔をスーノに押し付けてくる。


「わたくしは、・・・エルです。よろしくお願いします」


 何かを考えるように一瞬言葉が止まったが、少女、エルは先程よりは簡単に、軽く右ひざを曲げる位の挨拶をする。

 そして顔を上げると、スーノに微笑を見せる。それは、何かを恥らうような、微妙な微笑みだった。


今回と次回の二話、当初のプロットに無かったストーリーを捻じ込んでみました。

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