自由都市イワフネ<6>
初めて原作キャラクターをきっちり登場させてみました。
街にもそのキャラクターにも捏造設定のオンパレードです。
申し訳ありません。
まあ、捏造設定は、今に始まったことではないですが。
たぶん、原作にはもうそのキャラクターさん出演しないよね。
安請け合いだろと、頼まれた仕事はしっかりやるのが、スーノの流儀だ。
だから現実世界では、時間的、能力的に出来そうもないことは、頼まれないように上手く立ち回っていたのも事実。しかし、今回の”この娘を匿う”という依頼は、そもそもこの街の人間では無く、それに伝手も殆ど無いスーノとっては少し無理がある仕事かもしれない。思い当たる頼りは<折剣傭兵団>ぐらいだが、、スーノは隊商が出発するまでは、その傭兵団の食客扱いの身である
そんなスーノが勝手に頼まれたことに関して、団に助けを求めるのは、筋が違うだろう。団を頼ることは出来ないし、とはいえ、それ以外にこの街で力になってもらえそうな組織は無い。
流石に、どうやっても無理がある依頼を受けてしまったかな?
ちょっと自分の流儀に反するような気もしているスーノだった。
この娘の勢いに流されたかな?とも思うが、不安げな顔色を一転させ、明るく晴れやかな表情を見せる娘、エルを見ていると、まあそれも仕方ないかと思えてくるのは、男の性というのか。
とにかくこの娘の今の格好は例の黒服連中に知られているし、なによりあまりにも目立つから、まずそれをどうにかしないと。幸いなことに、エルとスーノの背丈はほぼ同じ、体格はスーノのほうがガッチリしている。というよりも、エルの身体が華奢だというほうが正解だ。これならとりあえず大丈夫かな、スーノは魔法鞄から自分用の外套を取り出す。
ゲーム時代は当然キャラクターが寒さ暑さを感じることは無く、その外套も雰囲気重視で北の寒冷な地方で活動するときに装備していたモノだが、思わぬところで役に立った。その見た目は機能性重視の飾り気が無いもので、外套を受け取ったエルは怪訝そうな顔をする。
「これをどうするんですか」
「いやいやどうするって、上から羽織ってその目立つ衣装を隠すんだよ」
エルはスーノの言っている意味を図りかねているようで、きょとんとして首を傾げていた。そして自分の着ている衣装に目やって
「目立ちますか?屋敷では皆着ていましたが」
どうもこの娘は微妙にピントがズレているような気がする。スーノは額に人差し指を当てて、ため息をついた。
「キミの屋敷ではどうだか知れないけど、この街中では目立つよ」
そうですか、と、納得したのかどうかは分からないが、エルは外套に袖を通そうとするが、ドレスの上につけているエプロンのフリルやレースが邪魔になることに気づく。おもむろにエプロンを外し、それを当然のようにスーノに渡し外套を羽織った。そしてその場でくるりと一回りする。
「どうも重くて着心地がよくありませんね。この季節に着るにしては暑苦しいですし」
いやいや、それを着るのは着心地云々じゃなくて、目立たなくするためだから。
それに渡されたエプロンはどうするのかしら?もしかして僕が預かるのかな?たしかにエルは手ぶらで鞄も何も持っていないけど。
当惑した様子のスーノに、エルが微笑みかける。
「そうだわ、どうせなら新しい衣装を買いましょう。街の商店でお買い物をするなんて素敵です。それにお祭りで行って見たいところが沢山あるんです」
さぁ、とエルがスーノの手を取る。
いやいや、ちょっと待ってよ。キミは黒服の男達に追われているんだよね。それで匿って欲しいんだよね。お祭り見物ってどういうこと?
エルの摩訶不思議な言動にスーノの思考は混乱しっぱなしだ。エルは、呆気にとられバカみたいに口を半開きにさせていたスーノの手を取った。スーノは手に持ったままのエプロンに気づいて、それを魔法鞄に仕舞おうと適当に畳むと、エプロンの胸に縫い上げられた紋章の刺繍が目に入った。
そして早く行きましょう、と急かすエルに、スーノは引きずられるように引っ張られていった。
◆
杏奈は、祭りを存分に楽しんでいた。朝のお姫様のお披露目の後は、買い物だ。街の商店はもちろん、通りには数多くの露店が出店され、それらを見て回るだけで時間があっという間に過ぎていってしまう。さらに嬉しかったのは、同行しているリナの存在だ。多分、この子は日々の生活に追われ、こんな風に楽しみでウインドウショッピングをするような経験が無かったのだろう。リナにとって、今まで生活してきた同じ街のはずなのに、その瞳に移っている風景は今までとは全く違っていた。それは”祭りだから”という理由だけでは無いに違いない。どの店に行っても、目を輝かせて興味を引かれているリナの姿を見ると、それが伝染したように杏奈の気持ちも昂ぶってくる。
(それに、実はリナは結構可愛いんだよね)
今までの荒んだ生活で、身嗜みに気をつけることなど無かったのだろう、髪もボサボサで着ている服も寒さを凌げればそれで十分と言いたげな、はっきり言ってボロだ。でも杏奈は、その中に開花するタイミングを図っている小さな蕾があることに気づいていた。
女の子は、そんな格好じゃダメ!!と杏奈は良さそう服や装飾品を見つけると、それをリナにあてがい品定めを楽しみ、気に入った品物を見つけると、それを買い与えようとする。
手持ちの予算はかなりある。それは元々はゲーム時代に杏奈の兄が稼いだものだ。ギルドホールの金庫に預ける直前だったのか、手持ちの金貨の量は思ったより多く、それは今までと、そしてこれからの杏奈の旅路で役に立つだろう。
(だから、ちょっとここで無駄遣いしてもいいよね、お兄ちゃん。)
リナは、いままの人生でそんな好意を受けた経験など無かったため、どうしていいか分からずオロオロすることしか出来ない。そんな姿もまた杏奈には可愛く見え、やっぱりいろいろなモノを勧めるのだった。
「どうこれ、可愛いでしょ。リナに似合うよ」
杏奈が店頭に陳列されているシルバーのカチューシャを手に取る。あてがってみると、リナの錆色の髪に良く似合う。
「ねえ、ディーノさん、どうかな?」
女性の買い物に付き合うのは男にとって、言うのは申し訳ないが苦痛に近いものがあり、それは女性の扱いが上手そうなディーノにとっても同じようだ。流石に朝から続く買い物の付き合いに飽きと疲れが見え出したディーノの返事はキレが無くなってきていた。
「ああ、いいんじゃね」
「なによ、ちゃんと見て言ってる?もう」
「はいはい、見てますよ~」
もうカンベンしてくれ、とディーノは適当に返事をする。横で杏奈が「もっと真面目に見てよ~」と不満げに言ってくるが、それを右から左に受け流して、周りを見渡しため息をついたその時、ディーノの視界遠くにに、見慣れた赤い髪の女性と白い大きな犬の姿が一瞬写る。んんっ?、とディーノは意識をその姿に向けた。
(犬連れだし、あれは多分スーノじゃないのか?でもスーノの着ているものが朝とは違うし、隣をブロンドの女が歩いていたが、あれは誰だ?)
だが、かすかに見えていたその姿は祭りの雑踏の中に消えていってしまった。
「さ、ディーノさん、次のお店行くよ~!!」
杏奈の勢いはとどまる所を知らない。リナもどこか戸惑いの表情を浮かべてはいるが、やはり気持ちが高揚しているようだ。そんな二人の姿に、ディーノは既に諦めの境地に達していた。
◆
買い物を終え、商店から出る時のスーノは、思っていたより気疲れして無いことに気がついた。現実世界ではスーノ・菅原直人は少ないながらも幾人かの女性と交際した経験もある。もっとも、あまり長く付き合いが続くことが無かったし、それほど深い関係になることは無かったのだが。その経験からすると、女性の買い物に付き合うと、それが終わる頃には精神的に疲れ切っていたのが常だった。だけれど、今回は何故かそれほど気にもならず、楽しく買い物ができたような気がするのは気のせいなのだろうか。多分、エルが普通の女性らしからぬところがあるのが理由かな?なんて思うスーノだが、エルの服選びに付き合っているうちに、自分も一着買うことになってしまったのは何故だろう?
そんなことを考えながら、隣を歩くエルの姿を見る。その姿は華やかな青色のワンピースに丈の短い白のボレロ。首元の金の首飾りと青のワンピースの色の取り合わせが絶妙だ。もちろんブロンドの髪色とも。ブロンドの背中まで伸びている長い髪も少し見た目を変えようと、後頭部で纏め所謂ポニーテイルの形に変えていた。
そしてまじまじと自分の姿を見る。グレーのチェックのテーラードジャケットに白のインナー、ボトムはブルーのデニム。
へ~、ファンタジー風じゃ無くて、こんな現実っぽい服が売ってるんだ。
と興味ありげに眺めていたら、エルの攻勢に遭い、なし崩しで購入しその場で着替えることになってしまった。色はエルの見立てだ。自分が選んだワンピースの青とデニムの色を合わせたのだろう。本当は襟元が寂しいと、臙脂色の派手なバンダナを首にさせようとしていたが、流石にそれは恥ずかしいと固辞するスーノだった。
「赤の御髪と合って、良く似合っていたのに、残念です」
ちなみに支払いは、全額スーノだ。結構な金額が飛んでいったが、まあ仕方ない。
何故なら、そもそもエルは財布を持っていなかったからだ。金も持たずに服を買おうとしていたのか、なんともまあ、浮世離れした少女だ。と呆れるというか、なんというか。でも、なぜかそれがイヤらしく思えないのはどうしてだろう。
僕は何をやっているのかな?そんなことを考えながら、横にいるエンジに情け無い顔を向けるが、エンジはチラリとスーノを見遣ると、興味なさそうな態度を取るだけだった。
さて、この後はどうするか。宿に匿うのもいいが、何かあったら宿を紹介してくれた傭兵団に迷惑が掛かってしまうし・・・
「お祭りで、大道芸人が集まっていると聞きました。是非見たいです!!」
軽く頭痛を感じたような気がしてくる。スーノは目を覆うように手を押さえて、顔を伏せる。
いったい僕は何をしているんだろう。この思いを抱くのは何回目か・・・
しかし、そんな考えも、エルの期待に満ちた輝くような笑顔を見えると、綺麗に消え去ってしまった。まあ、どうでもいいか。今日一日、この娘に付き合おう。
「承知いたしましたお嬢様。このスーノめがご案内いたしますので、お手を拝借」
意図的に仰々しく相手をしたのだが、エルはそのスーノの対応に何の疑問も持たないようで、さも当然のことだと、差し出したスーノの手を取った。
祭りの期間、イワフネの街の中央通りは馬車や馬などの通行は制限され、いわゆる歩行者天国のような状況になっている。そしてその一角が仕切られ、そこでは多くの大道芸人が各自、自慢の芸を披露しており、ちょっとしたサーカスのような風景を見せていた。
それらを目にして、瞳を輝かせているエル。目の前を足の長さだけで二メートルはある男達が手を振りながら歩いている。そしてその長い足を器用に使って、ダンスを披露していた。エルは目を丸くしてそれを見つめていた。
「あの方達は本当にあのような足の長さなのですか?」
「もちろん、当然そうだよ。あれはエッゾの征服帝アル=ラーディルが興した機械帝国の末裔の者たちで、その長い足を生かして野山を信じがたい速度で走り回り、未開の地だったエッゾを平定していったそうだ。今でもかの国には彼らの住まう集落があるらしいよ」
もっともらしく話しているがその口元がヒクヒクと痙攣し笑いを堪えているのが丸分かりなスーノの顔を見て、エルにもその説明が真っ赤な出鱈目だと気づいた。頬を膨らませ、機嫌を損ねるエルを見て、堪えられなくなり、声を上げて噴出し笑うスーノ。あれは竹馬だよと、笑いながら説明する。
スーノ様は酷いです!!とエルは抗議の声を上げるが、スーノの笑い顔を見て怒りの感情が和らいでしまったのか、最後にはエルも一緒に笑い出していた。
ほかにも、どこから連れてきたのか、象やキリンらしき動物を見世物にしている者達もいる。スーノの記憶には無かったが、きっとゲーム時代にもこのようなまものがいたのだろう。
「この動物は屋敷に連れてこられて、見たことがあります」
「見たことあるんじゃ、今見ても楽しく無いかな」
「そんなことありません。今この場で見ているほうが、屋敷で見たときの何十倍も楽しいです!!」
弾ける様な笑顔を見せるエル。その顔を横目に見て、ドキリとスーノの鼓動が早くなる。
いやいや、何を考えてる。落ち着け。
会話が弾むと、時間の経過を忘れてしまうものだ。祭りの活気に目を取られていると、気づかず結構な距離を歩いていた。
そして二人と一頭は南北に走っている中央通りの北の端にある石造りの池にたどり着く。その泉の周りを大勢の人が取り囲んでいる。かなり人気のある観光スポットなのだろう。泉には石造りの彫刻が掘り込まれている。そのモチーフは何なのだろうか。やはりこのセルデシアの神ユーララ神なのか。それともこの世界の古代に栄え滅んだアルブ族の姿なのか。
それよりもスーノにとって職業柄興味があるのは泉のほうだ。街の中に泉が湧いているんだ、スーノが興味深そうに覗き込んでいると、エルが得意げに話し出した。
「いえ、これはイワフネの街の上水道の終着点です」
「上水道!!やっぱりこの街には上水道が在ったんだ。下水があるのは想像がついたけど、上水道もあるとは・・・この水はどこから送られてくるの!?」
興奮した口調で、スーノはエルに尋ねる。その様子に驚いたように目を見張るエル。
「いや、ホントの仕事、っていったらおかしいけど、僕はこういう土木の仕事もやっているんだよ。興味がある話題だったんで、ごめんね」
「いえ、すこし驚いてしまっただけですから、大丈夫です」
驚かせてしまい申し訳ないと反省し頭を下げるスーノに、エルはそんなこと無いと首を横に振った。
「確か、南の山岳地帯の水源から導いていると聞いています。もともとは、はるか昔の古のアルブ族が建造した施設を利用しているそうですし」
なるほど、と頷いてスーノは一人思索の海に漕ぎ出す。現実世界と同じような気候なら、山岳地帯に降る雨量で十分街の必要分の水を確保できるか・・・・
「スーノ様!!」
考え込んでいたスーノの耳にエルの呼びかけが飛び込んだ。
「もう、さっきから何回もお名前を呼んでいるのに、なにか難しい顔で考え込んでしまって、どこか別の世界に行ってしまわれたのかと思いましたわ」
「ごめん、で、なに」
「この泉には、二人の男女が一緒に一枚ずつコインを後ろ向きで投げ込むと願いが叶うという言い伝えがあるんです」
エルは、伏せ目がちでこちらを覗き込む。
「もしかしたら、僕と一緒にやりたいの?」
「だめですか」
もじもじとしているエルを見て、スーノも、なにかくすぐったいような気持ちになってきた。
「男女なんでしょ、一応僕は女なんだけど、いいのかな」
「はい!!お願いします!!」
その微笑みは花が咲いたようだった。この娘は気持ちを隠すことが出来ないんだろうな。現実の年齢で言えば、自分より十歳以上も年下の娘の嬉しそうな態度を見てスーノは微笑ましく思う。
そして財布から金貨を二枚取り出し、一枚をエルに渡す。泉に背を向け、エルと息を合わせて、金貨を背中越しに投げ入れた。数秒の時間の後、ポチャンという水音が二回連続して聴こえてくる。
スーノが隣のエルを様子を覗くと、エルはじっと目を瞑っていた。閉じられた瞳の金色の豊かな睫がかすかに震えている。その閉じた瞳の奥で何を考えているのか?
スーノはそんなことを気にしている自分に気づき、そしてそんな自分に驚いていた。
歩き続け、最後にたどり着いたのは、イワフネの街の海岸線、石を積み上げて整備された船着場だった。水平線に沈み行く夕日が世界の全てを紅に染めていく。
港に下りる階段に座り込んでいるエルの元に、スーノが駆け寄っていく。すでにエルの隣にはエンジがしゃがみ込んでいた。エルは、そのエンジの頭を気持ちよさそうに撫でている。エルはいつのまにかエンジを怖がらなくなっていたようだ。
スーノは紙のコップを差し出す。そこには仄かに黄色に染まったふわふわの氷菓子が盛られていた。
「夏ミカンのジェラートだってさ」
スーノは、一緒に歩いていたエルの視線がひとつの露天に向いていたのに気づいていた。
スーノの差し出すカップをエルは受け取った。
「あっ・・・ありがとうございます」
そう答えるエルの顔が赤く染まっていたのは、夕日のせいだったのだろうか。
エルの隣に腰掛るスーノ。沈み行く夕日がやたら大きく見えた。
イワフネの街の冬は長い。この地域は降雪量も多く、長い冬の間、人々は春の到来を一日千秋の思いで待っている。だからこそ、春の到来に合わせたこの祭りは、この街の人々にとっては待ち焦がれたものとなっている。今はまだ五月初旬、日中に日が照っていれば汗を掻くほど気温は上がることもあるが、日が沈めばまだまだ気温の低下は激しい。
この気温でジェラートはキツいなともスーノは思うが、あの露天では、皆競うように買い求め嬉しそうに食べていた。この街の人たちは夏が待ちきれないのだろうか。雪国の人の思いを見たような気がする。
護岸には、スーノたちと同様に座って夕日を眺める人たちがポツリポツリといた。祭りが終われば、この街の人々にとってまた仕事に追われる日々がやってくる。この祭りの終了が、ちょうどこの地域で主に栽培されている稲作の田植えの時期の始まりとなっている。そして農業に携わる人だけでなく、街で仕事をする商人にとっても、この祭りが今年の本格的な商売の始まりとなるだろう。
木のスプーンでジェラートを掬い口に運ぶ。残念ながらそのジェラートにも味は無く、スーノにとってはただの冷たくて色の付いた細かく滑らかな氷でしかなかった。大地人にとってもそれが当然なのだろう、そんな味気ないジェラートだったが、それを口に運ぶエルの表情は喜んでいるように見えた。
そしてそれだけでスーノにとっては十分だった。
「いつからわたくしの正体に気づいていましたか?」
エルの視線は夕日に向けられたままだった。
「そうだな、初めて会った時になんとなくそんな気がしていたよ」
「そんなに早く」
「そうだね、キミが初めに着ていたメイド服のエプロンの紋章がきっかけかな。それってイワフネの街の紋章でもあるけれど、多分領主のスガナ男爵家の家紋でもあるんでしょ」
スーノの言葉に頷くエル。イワフネの街の所々に刻まれている紋章、おそらくイワフネの街の紋章なのだろう、それは街に入るあの門にも刻まれていた。そしてそれはスガナ男爵家の家紋でもあった。
「そしてキミの胸元の首飾りの金細工の紋様」
そのデザインは、イワフネの街の紋章のデザインをアレンジしたような紋章に見えた。
「それって、もしかして男爵家の特別の紋章じゃないかな?」
フエヴェル姫のお披露目のとき、スーノのいたバルコニーは領主一族のいたバルコニーとそれほど距離が離れてはいなかった。
そして冒険者の視力は大地人とは段違いに良い。その時スーノは、フエヴェル姫の宝石に彩られた胸元の首飾りや髪のティアラに、今エルがしているの金細工の首飾りと同じデザインの紋章が描かれていたのを見ていた。
「はい、これは当家の者のプライベートな家紋です。この家紋は公表しておりませんので、殆ど知られておりません。ですので、まさかこれが原因になるなんて」
「でも、まあ初めは怪しいかな?って思うくらいだったけど、一番の決め手は、あの時撒いたはずの黒服たちの動向かな?実は彼らはすぐに僕達のことを見つけていたんだよ。今も見えないところで監視しているし。でも再び見つけた時すぐにエルを助けに来なかったのは何故かな?とかね。黒服達にも立場とか役目とか想いとかあるんだろうな、とかいろいろに考えると、候補に挙がるのは・・・ね」
ちなみに余談だが、黒服たちの動向を発見したのはもちろんスーノではない。見つけたのは鋭敏な索敵能力をもっているエンジだった。スーノはエンジからそのことを教えられていた。
エルは夕日から視線を外さない。その横顔はどこか寂しげだ。
「わたくしは今年の夏にイースタルの社交界にお披露目となることが決まりました。それはとても誇らしいことです。子供の頃からわたくしは社交界に憧れてきましたから」
「それに私も男爵家の一員。自らの責務から逃げることは許されません」
「でもどこかで、普通の街娘のように街で遊んだり、友達をつくったりというような経験をしたいと思っていました。贅沢かもしれませんが社交界に憧れる<わたくし>と並ぶように普通に憧れている<わたくし>もいるんです」
エルのような身分の娘が自由に街を出歩くなど、許されることでは無いのだろう。そして屋敷では監視の目が厳しくそれを掻い潜って抜け出すことなど不可能だろう。だが、領民へのお披露目の時、この機会が監視の目を縫って自由を勝ち得る唯一のチャンスであり、そして彼女はそのチャンスを逃さなかった。
「侍女の制服を準備までして抜け出したのに、あんなに簡単に見つかってしまうなんて、あの時スーノ様と出会わなかったら・・・」
エルはスーノに向き合う。そしてその瞳を見つめた。
「今日はお付き合いいただいて、ありがとうございました。本当に楽しかった。今日の思い出は一生の宝物です」
エルの瞳が夕日を反射して煌いていた。潤んでいるように見えるのはスーノの気のせいだろうか。エルはおもむろに首の後ろの首飾りの留め金に手を伸ばして外す。そして外した金細工の首飾りを、スーノの手に握らせた。
「これはスーノさんお譲りします。この首飾りは、楽しかった今日の思い出の証拠です。明日になってもこの首飾りがわたくしの宝石箱から無くなっているのなら、今日という日が現実にあったという証」
スーノもエルの手を握り返した。
「ああ、僕もこの首飾りを見て今日のことを思い出すよ」
その言葉を聴いたときのエルの表情をスーノは忘れない。
「本当は、素敵な男性とこんな風に一日過ごしたかったかな」
「そればっかりはゴメン」
「ふふ、良いんです。スーノ様のことは何故か男性のように思えてましたから」
そうだろうね。本当は男だからね。そんなことを言っても、同じ冒険者ならまだしも、大地人には決して信じてもらえることはないだろう。だから、スーノがそれを告白することは無い。
出会った時と同じように、スカートの裾を摘み片足を引き腰を落として頭を深く下げるエル。夕日に照らされたその姿は優雅で美しかった。
そしてエルは護岸の階段を上ってゆく。その先には黒服の男が待機していた。
「エル!!」
スーノの呼びかけに、エルが振り返る。
「僕が今日一緒に過ごしたのは、エルだ。フエヴェルというイワフネ領主の孫娘じゃない。エルと言うただの娘だ!!」
逆光になっていて良く見えないが、エルは両手を口にあてスーノを見ていた。
スーノは右手を掲げる。そこにはエルから貰った首飾りがあった。夕日を浴びて、首飾りがキラキラと光り輝く。
「キミは僕の友達だ」
逆光になっているため、その時エルがどんな表情をしていたのか、スーノには分からなかったし、今後分かる日が来ることも無いだろう。
それでも良いとスーノは思っていた。
黒服に連れられたエルの姿が小さくなっていく。それと入れ替わるように、二人の男が現れた。
一人は黒服の男達の一人、かなり年齢を重ねた男のようだ。もう一人は、<折剣傭兵団>団長のエンリコ=バッソ。黒服の男が足を止め、遠くから分かるくらいに腰を曲げ頭を下げた。そしてエルの後を追っていった。
スーノの横にエンリコが歩いて近づく。
「彼は男爵家の裏の護衛を任されている組織の長だ。だから君の前に顔を出すわけにはいかないことを許して欲しいと言っていたよ」
「そんなこと、いいんです。こっちこそ姫君を連れまわして、犯罪者としてとらわれてもおかしくなかったのですから」
いつもは険しい顔しか見せないエンリコが口元を綻ばせ、かすかに笑っていた。
「私も仕事柄、領主家との付き合いもあってね。実は君が姫君と一緒に街にいるという情報は、昼前には聞かされていたのだよ」
フエヴェル姫が祭りを楽しみたいという希望を持っていたことは、黒服達も知っていた。もちろん当主であるスガナ男爵がそれを許可することは無かったのだが、ある意味姫君の逃亡という事態は、彼らにとっても想定内だった。
「長である彼は、もう何十年も男爵家の護衛をしていてね、姫のことは生まれた頃から見てきているんだ。情もあって姫の希望もかなえてやりたい、しかし当主の意向に逆らうことは彼の選択としてはありえない。と板ばさみになっていたところに、姫の逃亡に君の存在だ」
エンリコがスーノを指差して頬を緩ませる。
「実は君たちの存在はこの街のある筋の中では、有名なんだよ。こう言っては何だが、我が団が後見人となっていることもだ」
護衛の長がこの街で唯一の冒険者の一人であるスーノ、しかも勝手知ったる<折剣傭兵団>がその者の後見となっているとなれば、身元も信用できる。
「言い方は悪いが、君を利用したといってもいいかもしれないな」
気分を損ねたかね?と尋ねてくるエンリコ。スーノは両手を広げ苦笑を見せた。
「気分を損ねるなんてありえないですよ。僕も十分楽しみました。姫様も楽しんでいただけたようですし、それで良いんじゃないですか」
「そうか」とエンリコは小さく頷いた。
「祭りは夜が本番だ。楽しんでくれ」
エンリコはそういって、帰っていった。
入れ替わるように残されたスーノの元に杏奈とリナが現れる。
「スーノさん、なにかあったの?格好も朝とは全然違うし」
「いや、なんでもないよ。それより祭りは楽しめたかい!!」
スーノは、気分を変えようと、明るく大きな声を出した。それは少し無理があるように見えたが、そんな見方すら勢いで変えてしまおうとするくらいに。
「うん、十分に!!見てリナ可愛いでしょ!!」
恥ずかしげにスーノの前に出るリナ。朝見た時とはまるで違う姿に変貌したリナに、スーノは目を見張った。着ている服も髪型も全てが変わっていた。
「さあ、祭りは夜が本番だ。僕も行くから、一緒に楽しもう」
誰かが言った言葉を繰り返して、スーノはイワフネの街の中心に向けて歩き出す。その跡に続く杏奈とリナ。少し遅れてエンジが、ヨッコラショと言うように、重い腰を上げ跡をついていった。
この話を考えて、フエヴェルのキャラクター設定を調べたら、まあ原作とアニメで外観が正反対?困った挙句ぐぐる先生で調べると、やっぱりフエヴェルとアプレッタがあべこべになっているサイトがでてくるでてくる(汗
どちらが正解なんでしょうか?
とりあえずこっちかなとブロンドのひっつめ娘さんのほうをフエヴェルさんとしときましたが、ほんとかな?
アニメの設定資料集を持っている方は正解をお分かりなんでしょうか?
しかしまあ、我ながらクサいお話です。
後で読んだら身もだえして消去したくなるほどの。その恥ずかしさも楽しんでいます。




