再会
夏休みになって1週間。
夏休みの課題を少しずつ片付けながら、ぐーたらと過ごしていた。
「お姉ちゃん、りゅう兄ちゃんと遊ばないの?」
桃花が唐突に聞いてくる。
「え、いや、約束とかしてないし」
「連絡しなよ」
「連絡先知らないし」
「まじ? 友達なのに?」
「う、うん。そういうタイミングなかったし」
呆れたように肩を落とす桃花。
「タイミングは待つんじゃなくて作るんだよ、お姉ちゃん」
さすが、グイグイ系女子は違うなー。
我が妹ながら、感心する。
「でも、実家の手伝いするって言ってたし、忙しいんじゃないかな」
「よし、とりあえず島崎ベーカリー行ってみよ」
そう言って、私の手を引っ張る桃花。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
こうして、私と桃花は島崎くんに会いに、いや、パンを買いに島崎ベーカリーに向かった。
お店の扉を開けると、レジに立っている男性がこちらを見た。
「あ、りゅう兄ちゃんいたね」
桃花が小声で私に囁く。
エプロン姿で、バンダナを巻いて髪をまとめている。
初めて見る働く彼は、いつもとまた雰囲気が違って、何と言うか、かっこいい。
いつも通りパンを選び、トレイに乗せていく。
「あ、メロンパン売り切れだ」
私が肩を落とすと、彼が奥の厨房へと引っ込む。
そして、メロンパンを一つ持って戻ってきた。
「これ、ちょっと形が悪いけど味は変わらねーから。こっそりカバンに入れとけ」
彼が私の耳元で囁く。
一瞬、体がビクッとする。
「いいの? お金は?」
「いいから」
「ありがとう」
私は彼からメロンパンを受け取り、カバンにしまった。
「りゅう兄ちゃん、お仕事いつまで?」
「昼には母親が戻ってくるから、もうちょいかな」
「お昼一緒に食べよ」
「おう、食いにいくか」
これまた桃花の唐突な提案により、私と桃花と島崎くんでお昼を食べに、近くのファミレスに向かった。
なのだが、店の前まで来たところで、桃花がわざとらしく言った。
「あ、私、用事があるんだった。りゅう兄ちゃん、ごめん。お姉ちゃんよろしく」
「は? 何言ってんの、桃花。あんたが誘ったんでしょ」
「ごめんってば。じゃあ、あとはお若いおふたりで」
「お前の方が若いだろうが」
そう突っ込む島崎くんをスルーして、桃花は去っていってしまった。
二人取り残され、私たちは呆然とする。
あの子、もしかして、いや、もしかしなくてもわざとやってる?
私と島崎くんをどうしたいんだ?
急に2人っきりにされても困る。
「ごめんね、島崎くん。全く何考えてんだか、あの子」
苦笑いで沈黙を紛らわせる私。
「とりあえず入ろうぜ。腹減った」
そう言って、彼がファミレスに入っていく。
よかった。
じゃあ帰ると言われたらどうしようかと思った。
「うん」
私も、彼の後を追う。
席に通され、メニューを広げる。
なんだろう。
やっぱり正面に座ると、ちょっと緊張する。
こないだの図書館での勉強会から、私、なんかおかしい。
「俺、日替わりにするわ」
彼が、エビフライとハンバーグとサラダがワンプレートに乗ったものを指差す。
「じゃあ、私もそれにしようかな」
彼が店員さんを呼び、注文してくれる。
「パンじゃなくてライスでよかったの?」
「俺だってライスも食うよ」
「パン以外食べてるの、ほとんど見たことないから」
「そんな偏食じゃねーわ」
思わず吹き出す。
やっぱり、彼と話すのは楽しい。
でも、なんだかそわそわして落ち着かない様子の彼。
何か言いたいことがあるのかな?
もしかして、彼も緊張してる?
んなわけないか。
その時、彼が思い切ったように口を開いた。
「あのさ、こないだの夏祭り、どうだった? 変なやつに絡まれたりしなかったか?」
心配してくれてたんだ。
「あー、なんか目つきの悪い男子に絡まれたけど、小林先輩が助けてくれたよ」
「へー。よかったな」
よかったって言ってくれてる割には、表情が曇っているような。
そこで、料理が運ばれてきて、会話が途切れる。
ハンバーグを一切れ食べ、なんとなく彼に質問をしてみる。
「島崎くんは、お祭りはあんまり好きじゃないの?」
「人混みは嫌いだな」
「あー、それはわかる。じゃあ、子供の頃からあんまり行ったことない感じ?」
「いや、妹がいた頃は、毎年連れて行かされてた」
あ、まずいこと聞いちゃった。
「そんな顔すんな。別に大丈夫だ。射的とか輪投げとかの景品に妹の好きなキャラクターのがあってさ。よく取らされてたわ。なんだっけな、ニャン吉先生とか言うやつ」
「ニャンタ先生ね」
「それ。春野、知ってんの?」
「え、まぁ、桃花が好きで」
あー、また隠しちゃった。
「やっぱ、小学生に人気なんだな」
「そ、そうみたいだね」
まぁ、彼が笑って妹の話をしてくれたし、いっか。
その後、私たちは日替わりランチをきれいに完食し、レストランを後にした。
「どうする? 帰るか?」
やっぱそうなるよね。
二人で遊びに行くって仲でもないか。
正直、もう少し話がしたい。一緒にいたい。
でも、そんなこと言えない。
「そうだね。今日は突然ごめんね。じゃあ、またね」
後ろ髪引かれる気持ちを抑えて、私は彼に背を向けた。
その時、懐かしい声が私を呼んだ。
「つむぎちゃん」
声のする方を見ると、そこにはかつての友が立っていた。




