第22話 ヒーローは遅れてやってくる
「バルトロさんダメだ! もう門がもたない!」
「あきらめるなっ! ここを破られたら村は終わりだ!」
ベルタの村に、バルトロの悲痛な叫び声が響いた。
太い丸太でできた門の内側には大勢の男たちが身を固め合って、外から門を押し壊そうとしてくる侵入者を防いでいる。
門の向こうから聞こえてくるのは、人ならぬものの不気味な咆哮。
飢えた獣のようなおぞましい唸り声が、びりびりと空気を震わせる。
(くそ、なんとしてもここを死守せねば)
今、門の向こうにいるのは数十を超える獣の魔物だ。
バルトロや村人たちがいつも通り平穏に暮らしていたところ、森の向こうから突如して現れ、いきなり襲われたのだ。
幸いその存在にいち早く気づくことができ、どうにか門で食い止めることができた。
だが魔物たちの力は凄まじく、門が破壊されるのは時間の問題であった。
村の男たちが総出になって門を押さえているが徐々に押し込まれている。
また他の者たちは塀の外に向かって弧を描くように弓を放っているが、魔物相手にあまり効果はない。
もしもひとたび門が破られたら村はおしまいだろう。
農夫と女子供、高齢者だけの村で強靭な魔物に太刀打ちする術はなく、おそらく全滅は免れない。
村長として、そして家族を守る父として、それだけは絶対に避けなければならなかった。
(こんなことになるなら、やはりあのとき村を離れるべきだったのか)
激しくきしむ門を押さえながら、バルトロは一週間前のある出来事を思い出していた。
それはリヒトやガンツたちを見送ってから数日後のことである。
ある貴族家の使者を名乗る男が村に現れた。
その貴族はベルタの村から少し離れた土地を治めている子爵家であり、どこの貴族の配下にもなかったこの村を買い取りたいと持ちかけてきた。
大した人口も特産品もなく、地理的な重要性もないこの村を貴族が買い取る理由など普通に考えれば思いつかない。
不審に思ったバルトロはその理由を訊ねたが、使者からまともな回答は得られなかった。
最終的に村からの強制的な立ち退きを要求されたバルトロは、当然土地を手放すわけにはいかず、その使者を追い払うことにした。
ただ、使者を帰した後もバルトロはその理由がずっと気になっていた。
何日も考えた末、唯一頭に浮かんだのは村を離れていった長女の言葉。
『この村の地下には大量の魔鉱石が埋まっている』
昔から執拗に魔鉱石の話を持ち出してきた娘。
最初のうちは特に気にかけなかったが、やがて魔鉱石を掘り出すと言って村の仕事をサボることが多くなり、ときにキツくあたったこともあった。
だが、もし仮に。あの言葉が本当であれば。
冒険者や商人にとって高価な魔鉱石が本当にあるとすれば。
何者かがこの土地に目をつけたとしてもおかしくはない。
事件が起きたのは、そう思っていた矢先だった。
使者を追い払ってから一週間が経った今、普段は魔物などいないはずの近隣の森から突然魔物の群れが現れたのだ。
どれほど冷静に考えても、裏で子爵家が糸を引いているとしか考えられない。
今にも崩壊しそうな門を背中で必死に抑えながらバルトロは激しく後悔した。
ここで村を壊滅させるくらいだったら、たとえ理不尽に土地を奪われようとも、村を明け渡して逃げた方がマシだったのではないか。
そもそも、自分がもっと娘の話を真面目に聞いておけばこんなことにはならなかったのではないか。
今さら何を考えたところでもう遅い。
(ああ、神よ)
ふと、バルトロは祈るように空を仰いだ。
そこにはまるで村の行く末を暗示するかのような、どんよりとした暗雲が広がっていた。
ここまでかと覚悟を決めた――そのとき。
突然、目の前の空間に眩い光が広がった。
(なんだ、あれは……)
思わず目を細めながら、その光を見つめる。
暗雲を切り裂くようなその光はまたたく間に膨れ上がっていく。
そして次の瞬間――
「「ぎゃああああぁぁぁっ!!」」
空から、少年と少女が降ってきた。




