王子妃教育の日々と、気付いた想い
王宮での生活は、最初こそ窮屈だった。
食事の所作、礼節、外交の言葉づかい。
少女には難しい政治の駆け引きまで――
毎日が、息付く暇もないほど忙しかった。
それでも、アイキムはいつも傍にいた。
授業で疲れた日は、
小さな花を一輪だけ贈ってくれた。
失敗して落ち込んだ時は、
「それも成長の一つですよ」と優しく笑った。
――過剰にならない範囲で。
“優しすぎない優しさ”を、絶妙に保ちながら。
政治や家の立場が絡まない“個人としての好意”を
少しずつ、少しずつ――
アイキムは丁寧に積み重ねてくれた。
……そんな日々の中、
リディアはふと思うことが増えた。
(この人は、本当に私を大切に想ってくれているのかもしれない。
ただ、英雄そして聖女だから
王子妃として選んだわけじゃなくて――
“私”を、見てくれているのかもしれない)
そう思えるようになったのは、
アイキムが暗殺未遂に遭った日からだ。
***
深夜。
王宮に緊急の知らせが届いた――
アイキムが“狙われた”。
すぐ駆けつけた時には、
彼はすでに血を流していた。
眠るように横たわる姿を見た瞬間、
リディアの心は張り裂けそうになった。
「……いや……いやよ……!」
聖魔法を発動させようとするが、
声が震えてうまく言葉にならない。
肩が震える。手も震える。
アイキムの胸元についた血を見て――
言葉が、溢れた。
「……どうして、
あなたが傷つかなければいけないの……!」
あたたかな光が、部屋を満たした。
力があふれた。
――“気合い”よりも、ずっと強い感情が背中を押した。
ふと、
眠るアイキムの睫毛が震えた。
その青い瞳が、ゆっくりと開く。
「……リディア……?」
「よかった……よかった……っ!」
「俺のために…泣いて……くれるのですか」
その言葉に、胸が高鳴った。
ぎゅっと、強く。
逃げ場もなく。
苦しいほどに。
――その時、わかった。
私は……
この人を、愛している。
笑ったアイキムの指先が
そっと、リディアの頬を拭った。
その温度が――
恋の熱に変わるまで
時間は、必要なかった。
(もう迷わない。
私は――歩いていける。
この人と、共に。)
そして、静かに夜が明けた。
結婚式まで、残りひと月。
少女は――王子妃になる覚悟を
胸の奥で、そっと固めた。




