幼馴染の胸に芽生える感情
公爵家騎士団長の息子、ヒキャルは12歳。
幼い頃から騎士の訓練を受け、剣の扱いも身軽で的確だった。
公爵家の令嬢リディアとは幼馴染で、自然に隣へ立つことを何度も繰り返してきた。
だから――彼女の“隣”にいるのが自分でないことに、気づいてしまった。
最近。
侍従教育を受けたシンが、いつもリディアのそばにいる。
食事の準備、身支度の補助、書類の整理――
甲斐甲斐しく動くその姿は、年齢が1つ下とは思えないほど落ち着いていた。
リディアはそんなシンを、なぜか猫のように可愛がる。
頭を撫で、髪を整え、抱きしめたりもする。
シンは無表情のままだが、
“拒まない”ことが、逆に特別に見えてしまう。
ヒキャルは思う。
(おかしいな。
当たり前だった場所が、いつの間にか遠く感じる。)
ある日の庭。
リディアが読書をしている横で、
シンは静かに紅茶を淹れていた。
そこにヒキャルが近づくと、リディアはいつものように笑顔で迎えた。
けれど、自然とシンのほうへ視線が向く。
その様子を見て、
ヒキャルの胸はちくりと痛んだ。
大きな感情ではない。
けれど――
確かに“消せない色”を持っていた。
(自分は、彼女の幼馴染のはずなのに。)
(それなのに――なぜ、距離があるように思うんだろう?)
風が吹き抜ける庭で、
まだ誰も知らない想いが、静かに芽を出し始めた。




