バッティング
幼馴染視点になります。
「よし!セツ準備はいいか?祭りに行くぞ!」
「あい!いける!」
セツは言われる前に手を繋いで出掛ける準備は整っていた。
「じゃあ行くか!町に出るまで少し歩くから約束を思い出しながら行くぞ」
「わかった。まもれなかったらすぐに帰る!」
「そうだな。偉いぞ!」
セツと手を繋いで町への道をゆっくりと歩いていく。
「もし俺とはぐれたらどうするんだった?」
「んと、いちばん目立つまんなかのところに行く!」
「正解。じゃあ、知らない人が何か買ってくれるって言ったら?」
「いらない!ほしいのはイクスに言う!」
「正解。じゃあ、俺がここでちょっと待ってろって離れた時に、知らない人がイクスが探してるからおいでって言われたら?」
「えっと、しらない人にはついていかない。大声をだす!」
「凄いな!全部合ってる。もし一人になって何かあったらお店の大人に言うんだぞ?」
「わかった。町はこわい人がたくさんいる。だよね?」
「そうだ。セツは可愛いからな。連れて行きたくなっちゃうかもしれないしな。まぁ、俺が離れる事はないと思うけど一応な」
セツと話しながら歩いていると町の入り口に辿り着いた。初日という事もあって入り口付近でも既に人が沢山いる事が分かる。
「よし、じゃあまずは肩車するか。人混みに慣れてきたら一緒に歩こうな」
セツを肩車して町に入っていくと、賑やかな声や音楽がざわざわと聞こえてくる。色んな所で食べ物も売っているようで肉を焼く美味そうな匂いがしてきた。
「人が多くてうるさいけど大丈夫か?怖くないか?」
「だいじょうぶ。すごいいっぱい人がいるね!」
セツはこんなに沢山の人を見たのは初めてだと驚いている。
「ああ、祭りみたいなイベントは皆参加したがるからな。まずは集合場所の確認だな。はぐれたらあのでかいオブジェを目印にするんだぞ」
「すごく大きいね。あれはなに?」
町の広場には大きなオブジェが置かれている。教会のシンボルを枯れ草などで象ったもので、最終日には火をつけて燃やす物だ。
「教会のシンボルだな。町の連中は教会の信者が多いからな」
「イクスはちがうの?」
「ハッ、神なんている訳がない。もしいたとしても助けてくれない神なんかより悪魔の方がよっぽど有り難い存在だな」
「イクスは神さまがきらいなんだね。ぼくは悪魔はこわいな」
「セツには神も悪魔も必要ないだろ。何かあれば俺が何とかしてやるからな」
広場に着くと中心部だけあってとても混んでいる。
「セツ、もし一人になったらすぐにここに来るんだぞ。俺もはぐれたらすぐにここに来るからな」
「わかった。ここでイクスが来るまでまってる」
セツと祭りを回る前に集合場所の確認をしていると、キンキンと耳に響く声が聞こえてきた。
「まあ!!イクスじゃない!最近見なかったから心配してたのよ」
馴れ馴れしく腕に絡み付いて来た女は、忘れもしないセツを殺した一人だった。セツには絶対に会わせたく無かったのに、こいつらが祭りに来ない訳が無かった。
「おい、気安く触るな。お前に構ってる暇はない」
俺の返事など聞こえていないかのように纏わりついてくる。
「イクスと会えなくて寂しかった。これから一緒に楽しみましょうよ」
セツを肩車している今、手を振り払うのは難しい。万が一にもセツに怪我をさせる訳にはいかない。
「いつも一緒にいる奴らといけばいいだろう。俺はセツと二人だけで祭りを見る約束をしている」
そこで初めてセツの存在に気がついたのか、媚びたような気持ちの悪い顔から値踏みするような表情に変わった。
「その子は誰の子?一度その子を家に置いてきてもいいわよ?」
「ああ!?この子は俺の子だ!お前より優先するに決まっているだろう」
その返事が予想外過ぎたのか、口を開けて呆然としている隙に広場を出て人混みに紛れた。そのまま狭い路地にまで進むとセツを地面に降ろした。
「嫌な思いをさせてごめんな。肩車は目立つから手を繋いで歩こうか」
優しいセツは俺があの女と一緒に祭りに行きたいんじゃないかと思っているようで困ったような顔をしている。
「あの、おまつり見たし…もうおうちに帰ろうかな?」
「セツ待ってくれ。俺もセツと一緒に祭りを見るのを楽しみにしていたんだ。あの女の事は気にしないでほしい。ダメか?」
俺もセツと同じ位に楽しんでくれるだろう今日の事を楽しみにしていた。あんな女のせいでまたセツが辛い目に合うのだけは許せなかった。やっぱり町の奴らに会うと碌な事にならない。今まで町に寄り付かなかったのは正解だったと再び沸々と怒りが湧き上がって来る。
「でもあの人、イクスと一緒におまつり行きたいって…」
セツも本当は祭りに行きたいが、俺の邪魔もしたくないと複雑な気持ちなのかもしれない。
「あいつは俺じゃなくてもいいんだ。それに約束をしていたのは俺とセツだ。俺はセツと一緒にいたいんだ。セツの本当の気持ちも聞かせて欲しい」
祈るような気持ちでセツの顔をじっと見て聞いた。
「…ぼくもイクスとおまつりたのしみにしてた。…でも…」
追い詰めるつもりは無かったのにセツを泣かせてしまった。
セツを抱き上げて涙を拭いて気分を変えるように言った。
「ごめんな。折角楽しいお祭りだったのにな。とりあえずちょっとだけ見に行かないか?」
こんなに幼いのに、自分を後回しにして人を思いやる気持ちを持っている。
俺は昔からセツのこういう所が本当に好きだった。




