お祭り
幼馴染視点になります。
路地から出ると一気に賑やかになる。屋台から出る音や香り、呼び込みの声、それに応える声や負けじと会話している人々。
まずはセツが好きだった祭り限定の菓子が売っている屋台に向かう。
「セツここの屋台はどうだ?ほら、これとかいいんじゃないか?」
屋台に並べられている色とりどりの可愛い形をした菓子を前にさっきまでの暗い表情はもうない。どれを買おうか真剣な表情で見つめている。それを見て少しだけホッとした。
(セツがもう少し大人だったら、こんな事じゃ騙されてはくれなかったな)
「もし決められないなら全部一つずつ買ってもいいぞ!」
「!!」
セツは目が零れ落ちそうなほど見開いてこちらを向いた。
「ハハッ。祭りだからな!今日と明日は特別だぞ!どうする?」
結局セツは俺が勧めた菓子を一つだけ買って大事そうに抱えた。
「イクスありがとう。たべるのがたのしみ!」
「本当にそれだけで良かったのか?迷ったのも買えば良かったのに」
セツは嬉しそうにはにかみながら持っている菓子を見た。
「ううん。そんなにたくさん食べきれないから」
祭りだと言うのに遠慮しているセツを見ると胸が痛くなった。今からでも屋台の商品を全て買い占めるべきか?と迷ったが、きっとセツは他の子供が菓子を買えなくなる事を気にするだろう。セツは清浄な空気を撒いているかのように俺の腐りきった性根もセツのお陰で浄化されていくような気がする。俺が感極まっていると、セツは隣の屋台にも興味がありそうだった。
「セツ隣の屋台も見てみるか!腹が減ったらすぐ言うんだぞ」
「わあ、いいの?今はまだおなかへってないよ」
隣の屋台には綺麗な色のお守りが売っていた。色によって種類が違うらしく13種類もバリエーションがある。
「これはお守りだな。欲しいのか?」
「ううん。きれいな色が並んでいたから気になっただけ。お守りだったのかぁ」
「まあ気休めみたいなものだな。一応付けておくと安心出来るとか」
通りの反対側に遊べる屋台があるのを見つけた。
「セツ、ちょっと遊んでみないか?きっと楽しいぞ」
セツが人混みで揉みくちゃにされないように、抱き上げて屋台の前まで移動して降ろしてやる。
「ほら丁度遊ぶ人がいるから見てるといいぞ」
段になっている棚に色々な小物が置かれている。その小物に向かって小さな軽いボールを投げる。チャンスは3回で、小物が落ちればそれを持って帰れるという屋台だ。挑戦者は大きなぬいぐるみを狙っていたが、どう考えてもボールの大きさと重さでは落とせそうに無い。案の定何も手に出来ずに終わっていた。
「どうだ?セツもやってみないか?」
「でもぼく、やった事ないし…ぜんぜんあたらないかも…」
セツは自分にはとても無理だと思っているのか、ビビッている。
「ハハッ!こういうのは当たらなくても楽しめればそれでいいんだよ。セツは真面目だな。」
店主に金を払いボールを受け取ると、セツに渡した。しゃがんでセツにだけ聞こえる声でネタバラシをした。
「大丈夫。こういうのは景品を持っていかれないように中々落ちないようになってるんだ。外してもセツだけじゃない」
その言葉でやる気になったのか、真剣な表情でどれを狙うかを見ている。しばらく迷っていたが、真ん中の端にある小さい猫の置物に決めたようだ。ボールを手にして狙いを定めたものの、セツには遠すぎたようで景品に届かなかった。
「あの、イクス…ぼく、やっぱりむりかもしれない」
すっかり自信を失ってしまった。この屋台はセツにはまだ早すぎたのかもしれない。
「じゃあ俺と一緒に投げるか。手を離すタイミングはセツに任せたぞ」
ボールを握っているセツの手首を上から軽く握って腕を動かした。セツが上手くタイミングを合わせてボールを放ると見事に置物に命中したが、少し位置がズレたものの落ちる事は無かった。
「上手いぞ!次もあの置物を狙って投げるぞ」
最後のボールを握って置物に向かって投げるとまた命中した。それでも置物は落ちなかった。あと何回挑戦したらあれは落ちるかと考えていたらセツが満面の笑顔で振り向いた。
「ありがとうイクス!ぼくでも当てられた!」
セツはどうしても置物が欲しい訳では無かったようだ。満足そうにしている様子が見られたのは嬉しい。
「ああ!タイミングバッチリだったな。上手かったぞ!まだやるか?あれを落とすまで遊んでもいいぞ?」
セツの頭を撫でながら聞いてみると、俺の両親へのお土産を見たいと言ってきた。祭りではしゃいでいても、ここにいない俺の両親の事を考えているセツは本当に凄い奴だ。俺がこんな歳の頃は自分が楽しむ事しか考えていなかったと思う。
セツにも何も考えずに祭りを楽しんでもらいたかったが、きっとセツがセツである以上は無理なんだろうとも思う。
それなら俺はどうしたらもっとセツを甘やかせるかを悩む事にした。




