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落ちこぼれ召喚士、最強竜を召喚してしまう  作者: サモト
第2部

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27/29

1話 ただいま!

※2026年6月末

第2部連載にあたり、オセロが小さい時の姿を設定変更しました。

(小さいトカゲ姿→小竜姿)

第1部もそれに合わせて改稿しております。ご注意ください。

 荷馬車に揺られながら、ユディはあたりを見渡した。

 都から鉄道に乗り、それから馬車に乗り換えて、半日以上。

 北東へ向かう道は、いつの間にか左右を山に挟まれていた。


 山肌には、濃い緑と明るい緑が幾重にも重なっている。針葉樹の深い色。その間に混じる、広葉樹の明るい色。

 谷底を流れる川は、夏の日差しを弾いて、きらきらと輝いていた。


 荷台の隅では、まだ魔力を帯びていない透明な魔石が、馬車の揺れに合わせて小さく鳴っている。

 『魔の山域』に近いこの土地は、良質な魔石の産地だ。


 その一方で、魔力が濃い土地柄ゆえに瘴気だまりが生まれやすく、魔獣も多い。


 荷台の四隅に魔獣避けの護符を見つけて、ユディは思わず顔をほころばせた。

 少し角ばった、几帳面な魔術文字。父の字だ。


 通り過ぎてきた集落の入口には、祖母の作った魔除け飾りも下がっていた。


 このあたりには、どこかしらに家族の仕事の跡がある。

 見慣れたものだが、とても懐かしく思えた。


「帰ってきたなあ……!」


 ユディは広い空に向かって、大きく伸びをした。


 そのひざの上で、小さな黒い竜がフーッと火を吹く。

 羽虫が一匹、ぷすりと焼けて地面に落ちた。


「帰ってきたな、虫と緑のワンダーランド。普通の虫がでかすぎて、魔獣かと思うっつーの」


 黒い小竜――オセロは、気だるげにしっぽを揺らす。

 つまらなさそうに、あたりを見回した。


「うわー、マジでなんにもねえ。寝るにはいいところだけど、寝る以外にすることねえ」


「そんなことないよ。空を飛ぶのにもいいところだよ。ここなら都と違って、オセロが大きくなっても迷惑がかからないし」


 ユディはなだめるように、オセロの背をなでた。


 高等学校へ入学して、初めての夏。こうして無事、契約獣と一緒に家路をたどっていることが幸せだった。

 長年、夢見てきた状況だ。


 契約獣がどれほどかわいげのないことを言っていても、つい頬がゆるんでしまう。


「お家についたら、オセロのベッドを作らなくちゃね」

「ワラとタオルなんて論外だからな。綿を詰めた絹のクッションでないと、俺は寝ねえぞ」


「綿の上に絹のスカーフをのせるくらいならできるよ。上にかけるものはいる?」

「おまえ、幻獣姿だとクソ甘いよな」


 そんなことを話しているうちに、荷馬車はユディの目的地へたどりついた。


 木と漆喰で作られた家々が点在する、のどかな村。

 家畜小屋ではウシやヤギが鳴き、庭先では子どもたちが遊んでいる。

 村内を流れる小川では水車が回り、ごとん、ごとんと、粉を挽く音がゆっくり時を刻んでいた。


「おじさん、乗せてくれてありがとうございました!」


 ユディは革鞄を背負い、腕にオセロを抱える。


「おう、気を付けてな」


 荷馬車を降り、ユディは村へと入った。

 さっそく、野菜かごを持ったおばさんに声を掛けられる。


「あら、ユディちゃん! お帰り。学校はどう?」

「元気でやってます」


 ユディも笑って返す。

 すると、おばさんはユディの腕の中をのぞきこんだ。


「それ、ユディちゃんの契約獣かい?」

「はい!」

「これは知ってるよ。小竜ってやつだろう?」


 ユディは否定しかねた。


 そういうことにしておいた方が、都合がいい。

 本当は炎竜で、しかも悪名高い暴竜オセロだなんて知られたら、村中が大騒ぎになる。


 愛玩用として人気の高い小竜であった方が平和だ。


「そうです」


 のどかな故郷の空気を守るため、ユディは誤解を放置した。

 おばさんは目尻を下げて、手を伸ばす。


「かわいいねえ。竜といっても、これだけ小さいと怖くないよ」

「いやっ、でもっ! 中身はしっかり竜なので! うっかり触らない方が!」


 ユディは、おばさんの指に噛みつこうとする契約獣を必死で抑えた。

 騒ぎが起きないうちに、そそくさとその場を離れる。


「わーっ、竜だぁ!」

「小竜だー!」

「火、吹ける? 飛べる? 魔獣やっつけられる?」


 今度は、子どもたちが目を輝かせて駆け寄ってきた。


「火も吹けるし、飛べるよ。魔獣もやっつけるよ。

 でも、小さくても危ないから、触るのは我慢してね」


 説明しながら、ユディは子どもたちの手が届かない位置にオセロを抱えあげた。

 子どもたちは聞き分けよく、うんうんとうなずく。


「知ってるよ。ハートマンじいちゃんに、竜はいきなり触っちゃダメっていわれてるもん」

「でもこの前、風龍触らせてくれた」

「こいつ、こんなにちっこいのに戦えるの?」


 素朴で無邪気な疑問だった。

 しかし、オセロにとっては侮辱だ。


 金色の目がぎらりと光る。

 小さな口が、大きく開かれた。


「オセロ、だめ!」


 ユディが止めるより早く、炎が吹き出した。

 大人の腕よりも太い、一直線の炎。

 それが子どもたちの頭上をかすめ、小川へぶつかる。


 じゅわっ、と水が爆ぜた。

 大量の白い蒸気が生まれ、霧のようにあたりへ立ちこめる。肌に感じる暑さが増した。


「ごめんね! 大丈夫!?」


 質問した男の子の帽子が、ほんの少し焦げていた。

 ユディは真っ青になったが、子どもたちは興奮に頬を赤くしていた。


「すっげえー!」

「ちっちゃいけど強い!」

「他、何ができるの!?」


 尊敬のまなざしが集まる。

 オセロは得意げに長い首を反らした。


「ほんとにごめんね! 続きはまた今度ね!」


 また何か起きないうちに、ユディは足早にその場を離れた。


 村に着いて、わずか五分。

 傷害未遂が二件。

 先行きが不安すぎる。


「オセロ……」

「なんだよ」

「お願いだから、村の中で乱暴はしないで」


 ユディは真剣に訴えた。


「家に帰ったら、家族にオセロを紹介するけど。

 その……オセロって、評判がよくないと思うの」


「人間の評価なんてどうでもいいし」

「オセロは良くても、私は良くないの!」


 ユディはいったん、石垣の上にオセロを置いた。


「まだ半人前の私が、オセロと契約したなんて知ったら、お父さんもお母さんも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんな絶対びっくりする。反対されると思う」


「それがなんだよ」


 オセロは鼻を鳴らした。


「おまえの親が反対したからって、なんか関係あるわけ? そいつらが契約を切れるわけでもねえのに」


 その通りだった。

 召喚士協会ですら認めざるを得なかった契約だ。

 家族が反対したところで、どうにもならない。


「それとも、何?」


 オセロがぐっと身を低くする。


「家族に反対されたら、おまえ、契約を切るわけ?」


 金色の瞳が剣呑に光った。

 ユディはぶんぶんと首を横に振る。


「切らないよ! ……そういうことじゃなくて」


 必死に言葉を探した。


「私は、オセロと契約できてうれしいよ」

「当然だな」


「だから、家族にちゃんと説明したいの。

 脅されたり、無理やり契約させられたりしたわけじゃないって」


 ユディは石垣の前にしゃがみ、オセロと目線を合わせた。


「オセロは怖いだけじゃなくて、みんなを助けてくれる幻獣だって、分かってほしい。

 そのためには、第一印象が大事だと思うの」

「ほー」


「オセロは、やたらむやみに暴れるわけじゃない。

 ちゃんと契約獣になれる存在だって、理解してもらいたい」

「ふーん」


「だから、しばらく小竜のフリをして。

 暴竜オセロだってことは内緒にして。

 おとなしくしていて」


 石垣の上で、オセロは黙った。

 そばに生えている木の幹に、角をすりつける。


「……俺は俺にしかなれねえよ。取り繕ったところで、どうせボロが出る」

「分かってるよ。ずっととは言わないよ。最初だけでいいから!」


 ユディはじっと、金色の瞳を見つめた。

 しばらくして、オセロがふいっと視線を逸らす。


「ハイハイ。可能な範囲で、前向きに善処いたしますぅ〜」

「まじめに話してるんだよ」


 不安な返事だった。

 けれど、とりあえずユディは満足することにした。

 オセロを抱え、また歩き出す。


「なんか獣臭えな」


 不意に、オセロが風上へ鼻先を向けた。


 山際で、村人たちが害獣除けの柵を補修していた。


 その中に、頭一つ分ほど背の高い青年が混じっている。

 体つきはたくましく、両肩にはずっしりとした木杭の束を一つずつ担いでいた。


 人間ではない。

 ユディの父親の契約獣、人狼のダイスだ。


「ダイスー!」


 ユディは嬉しくなって手を振った。

 青年がすぐに振り向く。

 三角形の獣耳と、灰色のしっぽがピンと上を向いた。


「お嬢さん!」


 木杭を下ろし、ダイスはこちらへ駆けてくる。

 しかし、その進路には、地面をついばむニワトリたちがいた。


「こけっ!?」


 突然迫ってきた人狼に驚き、ニワトリたちは一斉に羽ばたいた。

 白い羽がぱっと舞い上がる。


「あっ、わっ」

「ダイス、動かないで!」


 ダイスは指示通り止まった。

 けれど、ニワトリたちはまだ逃げまどっている。

 補修中の柵をすり抜け、そのまま山の方へ逃げていこうとしていた。


「オセロ、ニワトリたちが散らないように、魔法で囲って!」

「へいへい」


 オセロは退屈そうにしっぽを振った。


 ユディは、小さな結界でニワトリを囲むつもりだった。

 透明な膜を張って、逃げ道をふさぐくらいの、やさしい魔法だ。


 だが、オセロのしたことは違った。

 地面が、ドン、と低く鳴る。


「え?」


 土が盛り上がる。

 次の瞬間、ニワトリたちの周囲に巨大な土壁がせり上がった。


 ドン! ドン! ドン!

 分厚い土壁が、ニワトリたちをぐるりと囲い込む。


「こけえええええっ!」


 中からニワトリたちの悲鳴が響いた。

 村人たちは、人の背丈より高い囲いをぽかんと見上げる。


「出られるもんなら出てみやがれ、二足歩行鳥」

「違う! こんな監獄みたいな囲いを作ってほしかったわけじゃない!」


 騒ぎはそれで終わらなかった。

 土壁がせり上がった衝撃と土煙に、近くにいた牛が目をむいた。

 あわあわと前足を泳がせる。


「――あ」


 ユディの嫌な予感は当たった。

 興奮した牛が、村の中心に向かって爆走しはじめた。


「モオオ――――ッ!」

「うわああああ――――っ!」


 人々は悲鳴を上げて、左右に飛び退く。


「ああっ、牛! 捕まえなくちゃ!」


 ユディはオセロを下ろし、背負っていた革鞄から杖を抜いた。

 牛を追いかけて駆けだす。


「止まって、止まってえええ!」

「とろくせえな」


 バサ、と黒い翼が羽ばたいた。


 小さな体が空中で膨れ上がる。村に大きな影が落ちた。


 硬いうろこに鎧われた巨躯。太く鋭い爪の生えた四肢。

 ぎょろりとした金色の目が、地上を見下ろす。


 漆黒の竜が、小さな村の空を支配した。


「りゅっ、竜だーっ!」


 悲鳴に似た声が、あちこちで上がった。


「あんなの、見たことないぞ!」

「ハートマンさんのところのか!?」


 どよめく地上をよそに、黒い竜はふわりと舞い降りた。

 暴走する牛の前に降り立ち、進路をふさぐ。


「ブォッ!」


 壁のような巨体を前に、牛は急停止した。

 勢いあまって鼻先をぶつけたが、ケガはない。

 ただ、巨大な竜の出現に腰を抜かし、その場にへたり込んでしまった。


「ほれ。捕まえたぞ」

「あり、がとう」


 弾む息を整えながら、ユディは礼を言った。

 牛はおとなしくなった。

 しかし、周囲は大騒ぎだ。


 土壁の中では、まだニワトリたちがこけこけ鳴いている。

 ダイスは竜を見上げたまま固まっていた。

 村人たちはホウキやら鋤やらを握りしめ、右往左往。


 数人が、村の共同倉庫へ駆けこんでいく。


「ハートマンさん! ハートマンさん!」

「竜が! 竜がいるんだけど!」


 引っ張られるようにして出てきたのは、腰に杖を下げた男性だった。


 生成りのシャツは土で汚れているが、清潔感がある。茶色の髪は短く整えられ、革靴もよく手入れされていた。


 誠実そうで、たとえ役場にいても違和感のない人物――ユディの父親、ルークだ。


「あれ呼んだの、ルークさん!?」

「いや、僕はあんなの呼んでないけど……お義父さんか?」


 ルークは腰の杖に手をやりながら、竜との距離を慎重に詰めた。

 そして、丁重に問いかける。


「失礼ですが、炎竜殿。どなたに召喚を?」

「こいつ」


 オセロは鼻先で、足元のユディを示した。

 ルークの穏やかなはしばみ色の目が、軽く見開かれる。


「ユディ! 帰ってたのか」

「う、うん……ただいま」


 ユディはおずおずと、オセロの影から出た。


「それで……これは?」


 ルークは改めて黒竜を見上げる。


「……わ、私の契約獣」

「かわいく無害でおとなしい竜だぞ」

「ちょっ――!」


 オセロはユディに鼻先を押しつけてアピールした。


 だが、完全に逆効果だ。

 不審者が自分を怪しくないと主張したところで、うさんくささが増すだけである。

 父親はうろんげにした。


「……黒いな」

「う、うん! 黒いよ!」


 隠せるわけもないのに、ユディはオセロの体を隠そうと前へ出た。


 まったく他の色が混じっていない、漆黒のうろこ。

 黒竜は他にもいるが、これほど純粋な黒色の竜は、世界に一頭しかいない。

 ベテラン召喚士である父が、その正体に気づかないわけがない。


「あの、その、これは――」


 予定していた紹介の段取りは、完全に崩れていた。

 魔法はハデに使ってしまっている。

 大きくなってしまっては小竜だなんてごまかせない。


 ユディは言葉を探してまごつく。

 その横で、オセロがバサッと翼を広げた。


「出会えた僥倖(ぎょうこう)に感謝しろ。平伏せ愚民。幻界最強幻獣オセロ様だ」

「かわいさも無害さもおとなしさもゼロの名乗り!」

「……娘が……暴竜を連れて帰ってきた……」


 ルークはショックのあまり倒れた。


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― 新着の感想 ―
やっぱり『大人しく』は無理だったかー(ノ∀`)アチャー ユディパパどんまい!!
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