おまけ 2
時間軸は後期授業開始くらい。
◆カラハ先生とオセロ
言ってもムダだろうとは思いつつ、召喚士のカラハ先生は暴竜に説教を垂れた。
「なぜミス=ハートマンの召喚や契約の邪魔をするのです」
「なんでって、俺はあいつの契約獣だから。
俺にもあいつが付き合う幻獣を選ぶ権利があるだろ?」
「ありません。契約獣にそんな権利まではありません」
「なあ、自分の身に置き換えてよく考えてみろよ。
一生一緒にいようって約束した相手が、次の日には違う相手を引っぱりこんでんだぜ? しかも毎日とっかえひっかえ。日々、色んなのに目移りしながら。
『あれ? 自分の立場は?』って思うだろ? 『自分って本命じゃないの?』って傷つくじゃん? 病むじゃん?」
「普通の幻獣は気にしません」
「フツーのやつらはな、がさつだから。神経が鋼鉄製だから。
俺は違うの、特別なの。
なんたってン千年独り身を貫き通して来た身持ちの堅い幻獣だから」
「ただあなたが召喚士のいうことを聞かない自己中なだけですよね」
「幻獣をとっかえひっかえされると、俺とのこともその程度の遊びなんだなって傷ついちゃうくらいウブだし」
「幻獣を呼ぶのは遊びでなく仕事ですけど」
「日々マジメにご主人様を見守ってるから、他の幻獣と親しくする場面見るとヤキモキしちゃうくらい純情だし」
「お待ちなさい。まさかミス=ハートマンを四六時中監視しているのですか」
「複数人契約なんてそんな誰でもオッケーみたいなはしたない真似は、ご主人様に懇願されてもしない芯からの清純派だし」
「本当にご主人様のことが好きな幻獣なら、負担をかけないよう複数人契約に応じるものです。
あなた、契約を結婚か何かと勘違いしていませんか?」
「勘違いどころかそれだと思ってるけど?
だって俺様、そのくらい気持ちがないとだれかのいいなりになんてならねーもん」
「……」
「けなげな俺様を応援したくなった?」
「いえ全く。とんだストーカードラゴンだと憂いています。
いっぺん退治されて記憶を無くした方が、ミス=ハートマンにもあなたにとっても最良でしょうね」
「ひっでー」
カラハ先生が杖をかまえたので、オセロはその場から逃走した。
◆ホイスト先生とオセロ
魔導士のホイスト先生は、保健室のベッドを占拠している幻獣を追い出して欲しいと頼まれて現場へ赴いた。
ベッドではハタ迷惑な暴竜が眠っていた。
(……枷を二つも三つもつけて。悪趣味な竜だな)
口には出さずに心の中で思うと、起きたオセロが勝手に語りだした。
「昔、俺にとっては一眠りの間の昔。契約ごっこした相手がいたんだよな」
(急になんの話だ?)
「そいつがさあ、まだ子供で枷なんて用意できないから。
枷の代わりに、リボンだの花輪だのおもちゃの指輪だのつけてくんの。
毎日毎日、一個ずつ。
周りが付けすぎってツッこんだらさあ、そいつ。
『だって大好きなんだもん!』
だってさ。
かわいーだろ?」
枷を見せつけられる。
ホイスト先生は、自分は何を見せつけられているのだろうと頭が痛くなった。
「知っての通り、俺は拘束されんの大嫌いだし、檻とか枷とか破壊対象でしかなかったんだけど。
長生きするもんだな。まさかこの年で束縛プレイに目覚めるとは思わなかったわ。
この不自由さがたまんないと思うようになるなんて。自分の新しい一面にびっくりしてる」
(そういうくだらん独り言は壁に向かってしゃべってろ!)
「ひがんでいいぞ、非モテ根暗センセ。
アレだろ? あの時攻撃してきたのって、授業中にイチャイチャすんなって怒ってたんだろ?
思う存分ねたんでいいぞ。
もちろん返り討ちにするけどな」
「やかましいわ!」
ホイスト先生がムチを振り上げると、オセロは笑いながら保健室を去っていった。
◆ヤース先生とオセロ
道具士のヤース先生は、主人の作業風景を見守っている暴竜をちょっとからかってやることにした。
「おまえさんさあ。あの子のこと好きなんだろ?」
「好きだけど? 好きすぎて、あいつが死んだ後、あいつをどうやって幻界に永住させるか考えまくってるけど?
魂だけになりゃ、幻界に永住できるもんなのか? 前例あんのかな? どう思う?」
臆面もなく怒涛の勢いで肯定されて、ヤース先生は面食らった。
「え? あ? ど、どうだろうな……?」
「知るわけねえよな、俺の百分の一も生きてねえんだから。
なんで今までそういう実験してこなかったんだ俺。腐るほど時間あったのに。
まあ仕方ねえよな。俺様、気に入る人間ができるなんて思ってなかったし。仕方ない仕方ない反省終わり。
うっし。うだうだ考えてねーでこれから実験しよ。あいつの寿命が来るまでには間に合わすぞー」
「その前に、本人に幻界に住む意志があるか確認取れよ……?」
暴竜はにやあ、と口を大きくゆがめた。
「俺が狙ったもん逃がすと思うか?」
くけけけけ、という笑い声を残して、オセロはどこへともなく消えた。
「……聞かなきゃよかった」
ヤース先生は後悔した。




