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ブラっち、400回イキそうだってよ。

新章<藍の章>開始予告とあと5話で400話到達するのでフライング記念投稿です。


セリのディマーズ時代の話になります。



「ねえ、やめようよ。休暇中のレミケイド尾行するなんて、悪趣味だよ」


 セリは建物にへばりついてレミケイドを尾行するゼルヤに文句をぶつける。

 しかしゼルヤの視線はレミケイドの背中に釘付けだ。


「悪趣味? まさか。大切なミッションだよ。滅多に休暇を取らないやつが取るからこそ、生まれる隙を見つけるっていうね」


「……まさかレミケイドが信用できないの? もしかして毒持ちだから? なら私がゼルヤの背後を取ってる時点で終わってるよね? 私がレミケイドより(たち)の悪い毒持ちなのゼルヤだって聞いてるんでしょ? いいの? 私に警戒しなくて」


 振り返ってセリを見るゼルヤの顔には、普段のふざけた表情は少しもない。

 その目には非難の色が混じっている。


 街中で『毒持ち』という言葉を発することは、リリーパスでは特に忌避される言動のひとつである。ディマーズのメンバーが外で軽々しく口にしていい言葉ではないのだ。


「なによ、やる気?」


 不機嫌を隠そうともせず身構えたセリに、ゼルヤは大きなため息で答えた。


「やんねえよ。ただ面白くねえだけー。

 レミケイドはお前のことばっか特別扱いだし、お前のことばっか構ってる。いいよなー、()()()()特権ってやつか? ズルくねえ? ズルいな。ズルすぎだ。

 オレだって、他のやつらだってもっとレミケイドと距離縮めたくて色々やってんのに、ぽっと出のお前に全部持ってかれるし。あーもーやってらんねー」


 ふてくされるゼルヤをセリは冷たい目で見つめる。


「は? それとレミケイドを尾行することに何の関係があんのよ。意味わかんない」


「レミケイドは隙がなさすぎなんだよ。向こうの方がよっぽどオレらのこと信用してないっつーか、壁があるっつーか。

 もったいねーんだよ。すげー憧れられて、目標にされて、慕われてんのに……わざと避けてるっつーか、何考えてっか分かんないっつーか、それがもったいなくて、見ててイライラするっつーか……」


「んー、確かにレミケイドって何考えてるか分かんないよねー……」


 そう言いながらセリがレミケイドのいた場所に目を向けると、そこにレミケイドの姿はなかった。


 あれ? っと思ったその直後、セリの視界の端ではゼルヤがレミケイドに絞め落とされていた。


「うわ。さすがレミケイド、悔しいな、全然反応できなかったぁ。やっぱ尾行に気づいてた?」


 ゼルヤの意識が落ちる前に対処できなかったのはセリの失態だ。これがレミケイドではなく敵だったらと思うと冷や汗ものだ。


「ゼルヤが尾行するのは今に始まったことじゃない。俺に()()あれば、すぐに処理できるように警戒してるんだろう。ディマーズの(かがみ)だな。

 だがプライベートを一人で静かに過ごす権利はこちらにもある」


 当然だがレミケイドとしても不本意らしい。

 毒持ちだが、毒を制御できている以上は一般市民と同等の権利がある。それについてはセリも同意見だ。

 だがレミケイドが誤解している点は正そうと思った。


「人気者は大変だね。もうちょっとみんなと打ち解けたり、雑談とかでもすれば尾行の頻度も減るんじゃない?」


「雑談程度で俺への警戒が軽減するとはとても思えんな」


「違う違う、自分が毒持ちで警戒されてるって、ホントにそう思ってんの?

 仲良くなりたいだけみたいだよ、みんな。

 毒持ちへの警戒心っていうのは私に対してだってば。

 私に対してと、レミケイドに対してのみんなの雰囲気は全然違うよ。みんなレミケイドのこと好きだって思ってるし、仲間だって思ってるよ」


 意識を失ったゼルヤからセリへと視線を移すレミケイドの表情は、相変わらずの無表情だが、わずかに細めた目からは懐疑的な意思が見えた。


「その根拠はどこから来る」


「完全によそ者で警戒されてる、レミケイドより何倍も(たち)の悪い毒持ちの主観」


 自虐混じりにおどけて答えたセリへ、レミケイドは冷たく一言吐き捨てた。


「話にならない」


 その声の低さからレミケイドの機嫌が良くないことを感じ取ったセリは、ふざけるのをやめ、少し真面目な声でレミケイドへ伝えた。


「ゼルヤのこと、嫌わないであげてよ。

 たぶん、レミケイドがみんなと仲良くなれるきっかけを探してるんだと思うんだ。

 さっきヤキモチ焼かれちゃった。私がレミケイドと仲が良すぎるって」


「意味がわからない」


「まあそう言わないでよ。

 んー、そうだな……、もうちょっとレミケイドの意地悪な部分をみんなに見せたら? 私には結構厳しいこと言うじゃん?

 でもディマーズのみんなには、慎重に言葉を選んで、丁寧に接してる。本当は辛辣で毒舌なのに」


「君が俺を苛立たせるのがうまいだけだろう。君は自分の置かれた立場の自覚がなさすぎる。ディマーズの彼らは自戒できているから指摘の必要がない。だから言わないだけだ。

 そして休暇中だから聞き逃そうとしていたが、外での軽率な発言が多すぎる。君に何度説明した。何故覚えない。覚える気がないのか。本当に覚えていないのか。わざと言っているのか」


 説教モード突入の予感を感じて、セリは急いで話題を元に戻した。


「そうそう! そんな感じでみんなにもイライラをぶつけたり、怒ったっていいと思うけどなあ!

 レミケイド、私に教えてくれたじゃん。一人で抱え込むなって。

 レミケイドもさ、もっと感情を抱え込まないでさ、たまには人にぶつけてもいいと思うよ。

 どう? 試しにまずはゼルヤから。

 尾行することについて直接文句でも言ってみたら?」


 ここだけの話で流されそうな気がして、セリはもう一度ダメ押しで無言のレミケイドへ一声かけた。


「喜んで聞いてくれると思うよ。……ね?」


「……考えておこう」


 レミケイドが去って、十分に距離が取れたところで、セリは気を失ってるゼルヤに声をかけた。


「……ってことでフォローしてみたけど、これで満足?」


 気を失っているはずのゼルヤの口がにやりと笑い、「上出来」と返事が出た。


「気絶の真似うまいね。ホントに落ちたと思ったよ。あの一瞬でよく反応できたね。レミケイドが近づく気配、もしかして気づいてたの?」


 ゼルヤは首を横に振った。

 少しめまいがあるらしく、気分は良くなさそうだ。


「ギリ落ちる寸前で向こうが止めた。だからオレが寝たフリしてんの、たぶんレミケイドにバレバレ」


 すっかり尾行のやりとりに慣れた二人の距離感にセリは舌をまく。十分に信頼し合えていると思うのだが、それでもゼルヤは物足りないようだ。


「二人の心の距離は縮まりそう?」


 呆れ半分で投げかけられた問いに、ゼルヤは満足そうにうなづいた。


「まあな。んでオレとブラっちの距離も縮まりそう」


「……は? ブラ……っち?」


「ブラッド・バスじゃあんまりにも物騒なあだ名だから、オレはかわいくブラっちって呼んでやるよ。ちょっと友達っぽくなっただろ?」


「んー……どうせならもっとかわいい呼び方がいいなあ」


「ならもっとかわいげがある行動しないとだな」


 ゼルヤの言葉を聞いた瞬間、セリの記憶の中でムカつくやつのムカつく顔とムカつく台詞が再現され、セリの頬が自然に膨れた。


「……ねえ、やっぱり私ってかわいげのない女なの?」


「お? なになに? ブラっちにもそういう悩みあんの? いいねいいね! オレの知り合いにそういう話大好きなやついるから紹介するって!  つーか今からそいつんとこ遊び行かない? 行くか! よし決定!」


「ゼルヤ、休暇なのはレミケイドだけで私たちは仕事中だってば。そんなことしてるとレミケイドに説教くらうよ。

 ……まあ、一回くらってみてよ。す……っごぉぉぉくネチネチ長いんだから」


「そんときゃブラっちも一緒な」




 ディマーズの黒い制服を着た二人が、リリーパスの街を歩いていく。


 ふざけてやる気のないように見えていても、常に要所に目は光らせている。


 リリーパスの治安を守るため、ディマーズはいつも警戒を怠らない。



 リリーパスの街は今日も平和である。


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