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セリ、もうすぐ300回イっちゃうってよ。

セリがディマーズの休暇中ってことでお願いします。



 セリがエヌセッズの酒場に顔を出すと、目当ての相手はすぐに見つかった。

 ボルターはいつもの奥の部屋ではなく、カウンターで仲間たちと雑談をしながらグラスを磨いていた。


 セリはまっすぐボルターのいるカウンターに向かう。


「ねえボルター、それ終わったらヒマ? 

 あのさ……『手当て』教えて欲しいんだけど……」


 ボルターは手を止め、真剣な表情のセリを見つめた。


「あ? 手当て? まだ教えてなかったっけか? 

 ……そんなら、奥の部屋に先行って待っててくれ。これ片したら俺も行くわ」


 セリが奥の部屋で椅子に座って待っていると、ボルターが遅れて部屋に入ってきた。珍しくボルターも真剣な表情だ。

 緊張が高まり、セリは思わず生唾を飲み込んだ。


「いいかセリ、俺はさっきこの部屋に入る前に、体のある場所を痛めつけてきた。その場所を探し当ててみろ。ただし目で探すんじゃない。心で探し当てるんだ。まずはそこからだ、やってみろ」


 詳しい説明よりも先に、いきなりの実践だった。


「う、うん……」


 セリは戸惑いながらも神経を集中させ、ボルターの感じている痛みの場所を探す。


 目ではなく心で探し当てること――ディマーズの研修でも毒を感じ取る手技を習ったセリではあったが、未だ体得はできていない。


 微量な毒は自分自身に毒が潜んでいるためなのか感知できず、反対にあまりにも強い毒の場合は、自身の毒が反応して活性化し始めてしまうためだった。


 セリの進捗が芳しくないことを察したボルターが助言する。


「……そうだな。相手をまるっと自分の中に包み込むようなイメージでやってみろ。自分の内側にとりこんで、そこから違和感を感じるところに集中していけ」


 ボルターは簡単に言うが、イメージしてみたところで痛みを感じる場所を見つけることはセリにはできない。


「む……難しいよ……、全然わかんない……」


 焦燥がそのまま顔に出ているセリを見て、ボルターは小さくため息をついた。


「しかたねえなあ。セリ、ちょっと顔上げて俺を見ろ。いいか? 俺をよく見ろ。そんで俺のことを考えろ。いいか? よし、そしたら俺の質問に答えるんだ。

 今の俺を見て、お前が一番ムラムラするところはどこだ? それが答えだ。さあ、言ってみろ」


「ちょっと! いきなり何言ってんの! 私は真面目に……っ!」


「俺だって真面目に決まってんだろ! ほら! 俺のどこにムラムラするか言え! こっちは感度が悪いお前に合わせて表現をいろいろ……!」


「もういい! ふざけるなんて最低! 人が真面目に頼んでるのに! もうボルターなんかに頼まない! 他の人に頼むから! あんたに頼んだ私がバカでしたー!」


「あ! おいコラ! セリ待て!」


 部屋から飛び出したセリは真っ先に目に入ったロキへと突撃した。


「ロキ! お願い! 私に手当てを教えて! ボルターが真面目に教えてくれないの!」


 ランチパスタをすすり途中のロキは、面食らった顔でセリを凝視した。


「え……? オ……オレ? オレでいいの? うわー、旦那に怒られそー。照れるなー。

 えー……じゃあ、改めましてセリリン? オレのどこにムラムラする?」


「貴様もか――っ!!」


 セリの怒りの斧が振り落とされた。もちろんロキはパスタを食べつつも笑いながらかわす。


「うは! セリリン、すっかりディマーズっぽくなってきたね~。その口調、ディマーズの怖い子にそっくりだ~」


 怒りで顔を真っ赤に染めたセリが、椅子に突き刺さった斧を引き抜こうと必死になっている。


「うるさい! もう! そんなんだからエヌセッズはふざけてるって言われるんだよ!

 私は真面目に覚えたいんだから! 誰かちゃんと私に真面目に……」


 言いかけたセリはカウンターにいたインディと目が合った――が。


「真面目に教えてくれないんだったらもういい!」


 セリは斧を引き抜くとそのまま叫ぶだけ叫び、エヌセッズの酒場から走り去っていった。

 静かになった酒場で、インディがポツリとつぶやいた。


「ねえ? 今俺さ、絶対セリちゃんと目が合ったはずなんだけど……もしかして無視されちゃった?」


 傷心なインディを周囲はニヤニヤ笑いながら好き勝手ネタにする。


「そりゃあ今までの素行がね」

「さすがのセリちゃんでも学習するわな」

「この流れでインディが参戦したらエロ確決定だしなー」




・・・



 乱暴に扉を開けて帰ってきたセリをレキサとロフェが驚いた顔で迎えた。


「セリ姉、どうしたの? 嫌なことあった?」


「しぇり、おこったかおしてるのよ」


「まあね! ちょっとね!

 ……あ。ねえ、レキサって手当てできる? 私に教えてくれない?」


「あー……、ごめん。僕はあんまりそれ得意じゃない……」


 申し訳なさそうな顔のレキサの隣で、ロフェが元気いっぱいに跳ねている。


「ろふぇはできるのよ! しぇりにおしえられるのよ!」


「ああ、そうだったね。ロフェは前にレッドのこと助けてくれたもんね。じゃあロフェ先生、私に手当てを教えてください」


 かしこまって頭を下げたセリに、ロフェはまんざらでもない表情で講義を始めた。


「ふふん。じゃあしぇり、ろふぇのいうことをしっかりきくのよ。

 じゃあまずろふぇのことをみて、ムラムラするばしょはどこかをこたえるのよ」


 セリは顔から床に倒れ込んだ。

 そして頭をめちゃくちゃに掻きむしった。


「き――――っ! この家の教育方針っ! いい加減もう黙ってらんないっ! ここの父親ホント最低っ! こんな小さい子に変なこと教えてもう許せなーいっ!」


 髪をかきむしりながらわめくセリをロフェが静かに諭した。


「しぇり、おちつくのよ。ムラムラすることはいきてるってことなのよ。エロスはタナトスとあいはんするかんけいで、ムラムラはエロスのほとばしるパトスなのよ。

 てあてはいきるためのわざだからてあてにムラムラはひつようふかけつなのよ。それがりかいできないじょうはしぇりはいつまでもてあてができないままなのよ」


「……ロフェ……ごめん……言ってること難しすぎて全然分かんない……」


 ロフェはもったいぶったように咳払いをし、厳かな態度で膝をついているセリを見下ろした。


「おお、おろかなしぇりよ。エロスをわらうものはエロスになくのだぞ。

 そしてムラムラをばかにするものは、ムラムラによってみをほろぼすのだよ」


「ロ……ロフェ先生っ!」


 調子に乗ってる妹と、藁にもすがる思いで妹に低姿勢なセリをなんとも言えない複雑な思いでレキサは見つめる。


「セリ姉、別に今はディマーズにいるわけだし、そんな慌てて手当てを覚えようとしなくったっていいんじゃない?

 ただでさえギルドかけ持ちなんて大変だから普通の人はやらないみたいだし……」


 頑張り過ぎのきらいがあるセリを気遣い、レキサがやんわり声をかける。


「覚えなきゃなの! だって私のディマーズでの呼び名、よりにもよって『エヌセッズ』なんだよ!

 エヌセッズって呼ばれてるのにエヌセッズの技がなんにも使えないなんてめちゃくちゃカッコ悪いもん!

 ただでさえディマーズの仕事難しいし複雑だし面倒くさいし覚えらんないし失敗ばっかりだし、アダリーには『相手の胃を痛くすることだけは一丁前のエヌセッズだな』なんて嫌味言われるし!

 悔しいから手当てできるようになって帰るの! みんながケガしたときくらい役に立ちたいし、エヌセッズって呼ばれるからには私だってエヌセッズとして役に立ちたいの!」


 必死な剣幕のセリに、レキサは何も言えなくなる。


 そこへ――。


「ふふ……セリったら、お困りのようね……」


 玄関のドアが開き、ボロボロのカロナが家に入ってきた。

 セリの表情が5割増で輝き出す。


「カ……カロナ姉さまぁ!!」


「話は聞いたわよセリ、私があなたに手当てを教えてあげる。

 さあ! 私のどこにムラムラするのか言ってごらんなさい!」


「全てですっ! その美しく艷やかな髪がなぜか今日はやけに乱れていらっしゃるのもレアで素敵ですっ! 強敵と戦った直後のように、傷だらけのお姿も戦の女神のごとく、高潔なる美しさを醸し出していらっしゃる!」


「そうよセリ! さあ! 今こそそのほとばしるパトスを傷ついた私にぶつけてみなさい!」


 両手を広げ、全てを受け止めようとする慈悲深き女神のごときカロナの姿に、セリの第七感(セブン・センシズ)が目覚めた!


「カロナ姉さまの痛いの痛いのぉ、飛んでけコノヤロ――――っ!」


 セリの両手から、かめはめ波級の膨大な気が放出し、カロナを包みこんだ。


「やるじゃないセリ。合格よ」


「……え……? 私……手当て……できたんですか……?」


「見事だったわよ。さあ、今の感覚を忘れないうちに繰り返し練習するわよ」


「は……はい!」



 修行に盛り上がるセリとカロナを離れたところで眺めながら、レキサとロフェは静かに言葉をかわす。


「あのおねいしゃん、ようやくあなざーでぃめんしょんからかいほうされてよかったわよね」


「お父さん、結構怒ってたからね……。酒代が大損害だ……って頭抱えてたし」


「ろふぇね、こないだおといれにおきたとき、あのおねいしゃんの手があくうかんからニョキって出てきたの見ておしっこチビリそうになったのよ」


「それ僕もあった。でももっと怖いのは、瞬時に現れた父さんに、また亜空間に押し込まれていくときのカロナさんの悲鳴だよね。

 潰れたモンスターの断末魔みたいな……実はちょっとトラウマだったりするかも……」


「もうこわいさけびも聞かなくていいね。にいに、よかったね」


「うん。きっとセリ姉に手当てを教えてあげる条件で解放してもらえたのかもね」


「しぇり、うれしそうなのよ。しぇりはイケメンよりきれいなおねえしゃんにエロスがムラムラほとばしるタイプだったのよ」


「……うーん、インディさんみたいなおじさんよりはマシだけど……、セリ姉、本当にそれでいいのかなあ」


 おしまい。


お待たせしました。

アルケウスの298話、近日中に投稿します。

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