セリ、100回イッたってよ。〜義父娘(?)飲み会〜
謎の邪眼3部作、最終エピソードです。
邪眼の力によって、空間が歪められ、異界化したエヌセッズの酒場。
もはやその地は脱出不可能。
セリは無事に邪眼の魔力から逃れ、もとの世界へ帰ることができるのか!?
あわや、セリの運命や如何に!(嘘)
アルケウス100話突破記念ストーリーです。
セリがエヌセッズの酒場に入ると、中には誰もいなかった。
「おう、セリ。ここ座れよ」
ボルターがカウンターにセリを案内する。人気のない酒場に戸惑いながら、セリはカウンターに腰をかけた。
「うん……、今日お客さんいないんだね。貸し切り?」
「まあな、せっかくの祝いごとだしな」
「……なんか照れるな……。あ、私そういえばお店の方でお酒飲むの、初めてかも」
「そういやそうだな。まあ、せっかくの祝いごとだしな。なんてったって、セリが100回イッた……」
セリはカウンターを激しく叩いて、ボルターの声をさえぎった。
「回じゃない! 話! 100話到達記念だから!」
「まあ、細かいことは気にすんなって。似たようなもんだろ?」
「細かくない! 全然違う! ちゃんと……っ!」
「ん。じゃあほら、乾杯。100話お疲れさん」
ボルターがセリの言葉を遮って、カウンター越しにカクテルを出してくる。ボルターもすでに同じものを持っていて、乾杯を催促している。
「あ……うん、ありがと……」
グラスをカチンと当て、ショートグラスのカクテルはあっという間に空になる。
「おいしー……。でもなんか酔いそうだな……。
あと、昼間からお酒飲んじゃうのって……なんか、特別な感じっぽい……。でもいいのかな、まだ晩ごはんの支度とかあるのに……」
「今日くらいいいだろ? 祝いごとだからな」
ボルターはすぐに次のカクテルを用意して、セリのテーブルに置いた。
「うん……でも私、よく考えたら100話中、出てたのって60話目までだったから……、なんか私が労われるのって、ちょっと違う気がするっていうか……」
セリは相棒である少年のことを思い、心配そうに眉を寄せた。
「でもお前、出番なくても裏でめちゃくちゃ体張ってんだろ?」
セリはボルターの言葉に、カクテルでむせた。
「……なんであんたはそうやって、まだどこにも出てない情報をさらっと口にするの? どこから情報を持ってくるの?」
「100回イカせたり、イッたりしてんだろ? めちゃくちゃ体張ってんじゃねえかよ」
「イッてないってば! なんなのさっきから!
あんたただ単にそれが言いたいだけなんでしょ!?」
「まあそう怒るなって。ほら、お前の好きなやつ出してやるから。100か……話、おつかれさんご褒美スイーツだ」
セリが大好きな店のタルトだった。そしておかわりカクテルも一緒に出てくる。すでに駆けつけ三杯だ。
「えー……なんか悪いよ私だけ……。レキサとロフェに……」
「お前んだから食え。100か……話イッた記念だ。代表者はお前だ」
「……ごめん……私ばっかりおいしいの食べてごめん……っ」
セリは相棒の少年への罪悪感から半泣きになる。
そして半泣きになりつつも、カクテルを飲み干した。
「あいつはまだこっちに来れないからな。残念だったな。完結したら食わせてやれ」
スッと流れるような早さで出てきたカクテルはすでに4杯目である。
セリは気づいていないが、アルコール度数は格段にレベルアップされていた。
「……うん。わかった……。それまでケーキ屋のおばあちゃんには長生きしてもらわないとらね。
ボルター、これおいしい……。めちゃくちゃタルトと合うね……おかわりー……」
「あのばあさんは当分死なねえと思うぞ。とりあえず、お前はもう少しこっちにいるんだろ?」
見た目は4杯目と同じだが、アルコール濃度が倍になった5杯目が登場する。
「うん、一応ね。あ、思いらした。これ、あんたにお土産のお酒」
危なっかしい手元で、セリが異次元空間から樽を出してきた。
ボルターは特にそのことについて、なんの疑問も持たずに普通に受け取った。
「……めちゃくちゃいいやつじゃねえかよ……。お前の手待ちの金で、どうやって買ってきたんだ?」
「へ? メティしゃんが買ってくれたよ?」
突然出てきた元妻の名前に、ボルターは顔をしかめた。
「……お前に女としてのプライドはないのか……?」
「蒸留酒って、よくわかんないんらもん。いろいろお店で味見させてもらってたら、メティしゃんにばったり会って、『昼間から女の子が呑んだくれてるんじゃないの』って怒られたの。
そんで代わりに選んでもらって、買ってもらったの。……もしかして高級なお酒らったの……?」
「……お前が選んだのを一緒に飲むから意義があるんだろうが。
適当に買ってきて、それを飲みながらあーでもないこーでもないって言うのが楽しいんじゃねえかよ。んな絶対当たりなやつなんか……」
ボルターは途中で言葉を飲み込んだ。
セリがしょぼんとした顔をしていたからだ。
「しーましぇん……。次はちゃんと自分で選びましゅ……。てきとーに安いの買ってあーだこーだ言いましゅ……」
そのままぷしゅ〜っと、セリはカウンターにうなだれてしまった。
「……5杯か……。お前……なかなか酒強いな」
エヌセッズ裏メニュー『お持ち帰り四天王』だけではセリを陥落できず、ボルター最強レシピ『女帝落とし』まで振る舞うことになってしまった。
まあ、これだけ飲んで意識を保てているのであれば、そんじょそこらの男でセリを酔わすことができるやつはいないだろう。
ボルターは、まずは安心した。
「……強くないれしゅ……。セリはまだまだしょーじんしないと……」
「酔ってる酔ってる。……水飲め、水」
「んん〜……。水じゃなくて、あれ飲む、あれ……。オレンジ絞った甘くてしゅっぱいの……」
「ああ、あれな。わかったわかった。酒抜きな?」
ボルターがセリの横にグラスを置くが、セリは突っ伏したまま動かない。
「寝落ちか……」
ボルターは苦笑しながら、セリを抱き上げて奥の部屋に寝かせることにした。
たまにはゆっくり休ませてやろう。
ボルターはセリの目が覚めるまで、邪眼で異界化した酒場を維持することにした。
そのあと、セリがボルターを100回イカせたのか、セリが100回イッたのかどうかは……ご想像におまかせします。




