出番なしの人たちの酒場
2部終了からだいたい3ヶ月〜半年後くらいのストーリーです。
<赤の章>終了後の話ではありません。
一部のメンバーは、邪眼の力によって『メタ認知スキル』が覚醒しています。なんじゃそりゃ。
ディマーズでの初休暇を取得したセリは、数ヶ月ぶりにグレイスメイアの町に戻ってきた。
家に顔を出したセリは、さっそくレキサとロフェに手を取られ、エヌセッズの酒場にあいさつに向かった。
「お父さん! セリ姉が帰ってきたよ!」
「しぇりのおかえりなのよ! おむかえなのよ!」
久しぶりに戻ってきたセリに、レキサもロフェも嬉しさがあふれてハイテンションだ。
「ちょっと、大げさだって。そんな大声出さなくてもいいからさ……!」
気恥ずかしくなったセリは、赤い顔をしながらレキサとロフェをたしなめる。
そんなセリを、ガッツポーズをしたボルターが出迎えた。
「ようし! ようやく帰ってきやがったな! 待ちくたびれたぜ! お前が来ればこっちは無敵! こっからは俺たちのターンだぜ!!」
エヌセッズ内に鬨が上がる。いったいなんの勝利宣言なのだろうか。セリには分からない。
ギルドの天井には横断幕がかかっている。読んでみると『ようこそ! 出番なき者たちの楽園へ!』とかかれている。やっぱり意味がわからない。
しかし、ボルターのやることで意味がわかったことは一度もないので、セリは理解するのを早々にあきらめた。
セリのもとへ、ギルドメンバーではないのに、いつもエヌセッズにあらわれるレヴァーミが近づいた。
「おかえり〜セリリ~ン、でもひどいよ~。
ロッキーに会ったんなら、『あれ? 親友のレヴァーミは? 一緒じゃないの?』って聞いてくれなきゃ~!」
「……え? ロキ? 会ってないけど……? ねえロキ? 会ってないよね?」
セリは仲間とくつろいでいるロキに、困惑顔で問いかける。
「ん? ああ、そうね~、今んところはね~」
そう答えるロキの肩には、『ずるいぞ裏切りもん』と書かれた肩掛けが装備されていた。
「おいレキサ、お前もちゃんと装備しろよ。ズルして外してんじゃねえぞ」
ボルターがレキサに、ロキがつけているものと同じ肩掛けを渡す。
「ちょっとボルター! なにいじわるしてんの! やめなさいよ大人げない! なんの遊びか知らないけど!」
セリがボルターに文句を言う。
しかし、レキサは自信に満ちた笑みを浮かべて、それを受け取った。
「いいんだよ、セリ姉。この装備はね、選ばれた者しか装備できない特別なものなんだ。そうだよね、ロキさん?」
「まあな。俺とお前の二人だけしか、今のところ装備できるやつはいないな……」
答えるロキも自信みなぎる余裕の表情だ。またの名をドヤ顔という。
「だまれうらぎりもーん!」
「ちくしょー! うらやましくなんかないもんねー!」
「お前らだって、もう出番なくなったくせに偉そうに言うなー!」
エヌセッズの面々が口々にヤジを飛ばしてくるが、二人は意にも介さない。
「……レキサ……? なんかしばらく見てない間に、ちょっと大人っぽくなった?」
「そう? まあ、ちょっといろいろあってね……」
セリの問いかけに言葉を濁すレキサは、少し大人の雰囲気になっている。数ヶ月離れていただけなのに、ずいぶんと成長したようだ。いったいレキサに何があったのだろうか。
ロフェはもともと歳の割に、妙に大人顔負けなところがあるから、自分が離れていた期間に、どれだけ成長したのか知るのは恐ろしくもある。
セリは嬉しいようなさみしいような、複雑な気持ちでレキサとロフェのことを見つめた。
「あ。そうそう。ところでな、セリちゃん」
「はい!?」
突然ボルターから『ちゃん』付けで呼ばれ、セリは気持ち悪さで鳥肌が立った。
「ねえセリちゃん、ボクはせっかくセリちゃんが帰ってきたわけだし、今日の晩ごはんはセリちゃんの作ったオムライスが食べたいわけだ。どうだろうセリちゃん。ボクのために愛情込めたオムライスを作ってくれないかなあ?」
真顔でボク発言をする気色の悪いボルターへ、セリは真顔で問いかけた。
「……大丈夫? 頭打ったの? 気色悪いよ? その頭に巻いてる包帯と、その気色の悪い言動が関連してるんだよね……? 気色悪いからやめたほうがいいよ。本当に気色悪いから」
「なんだよ。こうやっておねだりされるのが好きなんじゃねえのかよ」
あっさり素に戻ったボルターに、セリは怒鳴った。
「好きなわけないでしょ! こんな気色の悪いもん、喜ぶ人がどこにいるの!?」
セリに怒鳴られたボルターは、驚愕の表情を示す。
「……ほ、母性本能をくすぐられて、キュンキュンするんじゃないのか……?」
「……あんた、自分の年齢わかって言ってんの……?」
セリが不快を全面に表現した表情でボルターを睨む。そんなセリをボルターも睨み返す。
「あえて年上の男がときおり見せる幼い仕草にキュンとくるんだろうが! お前だって俺にキュンキュンしてただろ!?」
キレるボルターに対し、セリも負けじとキレ返す。
「ばっかじゃないの!? いつ私があんたにキュンキュンしたっていうのよ!? いい加減なこと言わないで!」
「照れんなよ。お前、言ってただろ?
『ねえ、ボルター……。私……あんたのことちゃんと好きかもしれないよ……』って……」
「ぎゃあああぁぁぁぁっ!!」
悲鳴をあげてセリが抜き放った斧が、ボルターの顔面めがけて飛んだ。ボルターは間一髪でそれをよける。セリの斧は壁に深く突き刺さった。
「おわっ! 危ねえ!! なにすんだお前!」
「言ってない言ってない言ってない!! あんたねえっ!! な、何言ってんのよ!? バカじゃないのっ!!」
ボルターは壁に刺さった斧を抜いた。
「お前、なんでこの斧がこんなにきれいに壁に刺さるんだよ……。まさかお前、この斧……研ぎやがったな!?」
「当たり前でしょ! 斧なのに薪も割れないなんて使い道なさすぎでしょうが!」
「コンセプトが台無しだろうが! お前なあ! この斧がどういう斧だったか説明しただろうが! こんなにキレッキレにしちまったら、人の腕くらい簡単に切り落とせちまうだろうが!」
「そんなひどいこと、私がするわけないでしょ!?」
「いーや、分かんねえぞ。とある悪党が改心したから見逃してくれってシーンのときに、『よし。なら、証文を置いていけ』とか言って利き腕バッサリ切り落としちまったりするんだろうが!」
セリは一瞬息を飲み、キラキラした目でボルターを見上げた。
「…………それ、かっこいいね……。それだと殺さずに改心させられるの? すごいね、その人……腕一本で改心……」
「ほらやっぱりするんだろうが!!」
「し……しないってば! ……でも一応参考までに、それをやった人を紹介して!」
珍しく興奮して顔が上気しているセリを見て、ボルターは叫ぶ。
「会わせてたまるかあ!!」
ちなみに、その相手はビーゼットディーのエチゾウである。
会ったが最後、セリの収拾がつかなくなるのは、ボルターは嫌というほど学習済みだ。会わせるどころか名前も言うわけにはいかない。
仲良く声を張り上げて言い争いをしているボルターとセリを眺めながら、ロキたちエヌセッズのメンバーはほほえましく見守っている。
「やっぱセリちゃんがいると、にぎやかだなあ」
「おれ、明日セリちゃんのオムライス食べたいなあ」
「エロエロもいいけどドキドキもたまには食べたくなるよな」
「あ、俺ひらめいた。『エロエロよりドキドキを♡ セリ、ついにグラビアデビュー!』ってのは?」
「いや、それじゃあ姐さんに太刀打ちできないな。姐さんはあれからすげえタイトルを連発してるらしい……」
エヌセッズのメンバーが紙を出し合い、急遽サブタイトル打ち合わせ会に発展する。
「袋とじネタ、まだ引っ張ってんのかい……」
ロキがうんざりしながらぼやく横で、メフェナが不敵に微笑んだのであった。




