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INT.11 戦う少女たちの系譜

若干、前回からの続きっぽくなっております。

 所用で町を歩いていたボルターが服屋の前を通りかかると、いつもは奥にいるはずの亭主が珍しく店の前を掃除していた。

 ボルターは少し気恥ずかしさを感じながらも、亭主に近づき挨拶する。 


「よ、オヤジさん。なんか……久しぶりだな。元気してたか?」

 特に用事もないのに顏を合わせると、なにやらくすぐったいような変な気持ちになる。


「おお、久しぶりだなあ、ボルターさん。こっちは相変わらずだよ。そうだ、冒険の書の続き、読んでくかい?」


 服屋の亭主の顔が、すこし嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか。

 たまにしか会話をする機会はないが、店主と客という以上の心の繋がりができているような、うまく言葉にはできないなにかが二人の間で芽生えようとしている――そんな気配を、ボルターは感じていた。


「そうだな、ちょうど野暮用も片付いてギルドに戻るところだったし、少し寄らせてもらってもいいか?

 ああ、でも……こないだの冒険の書じゃなくて……ちょっと初心に帰ってみようと思ってさ。もう少し若い頃の冒険に遡(さかのぼ)りたいんだ。かなり記憶が曖昧なんだが……」


 なんとなく照れくさくなり、亭主から視線を外しながらもボルターは店の奥へと案内される。


「ほお、どれくらい遡るつもりだい?」

「んー……、なんか記憶の断片に、やたら飾りがついた武器を振り回す、露出度の高い、若い女のヴィジョンが浮かぶんだ。いつの記憶かさっぱり思い出せない。そうとう昔かもしれないな。記憶力には自信があったんだけどな。……俺も歳くっちまったのかもな……」


 服屋の亭主の目がキラリと光った。


「ああ、それか! 懐かしいねえ。男は歳をとると童心に帰りたくなるっていうからねえ。

 お帰り、ボルターさん。ついにあんたもここまで来たか。

 今、お望みのを出してやるよ」


 温かな慈愛の表情を浮かべて亭主がボルターに微笑んだ。


 なんだろう……。すべてを許容してくれるこの大らかさ。

 オヤジさんの前でなら、父の肩書も、ギルドマスターの重責も、若い少女と同棲する誘惑も、すべて忘れて、一人の男として存在していられる。


 ――オヤジさん……!


 ボルターの胸に、深い感謝の気持ちがあふれてきた。


 背後でボルターが目頭を熱くして見つめていることにも気づかず、服屋の亭主は書棚から『冒険の書2』と書かれた本を出し、ボルターのテーブルへと置いた。


「おそらくお前さんの奥深くに眠る記憶は、この中にあると思う。さあ、開くがよい」


 ボルターは冒険の書のページを、震える指でめくった。

 その瞬間、ボルターは瞠目(どうもく)した。


「……そうだ。これだ……! こういうイメージなんだ! ドンピシャだぜオヤジさん!」


 その冒険の書(カタログ)にはどう考えても攻撃力が高そうではない装飾ゴテゴテのおもちゃのような武器と、どう考えても防御力が高そうではない防具(コスチューム)が掲載されていた。

 コンパクトと呼ばれるアイテムも多種多様だ。

 冒険の書に書かれている説明を読むと、このコンパクトを使わないと防具が装備(メイクアップ)できない仕組みなのだそうだ。コンパクト以外にも指輪やステッキなどのバージョンもあるらしい。


 よく分からないが最近、自分の脳内で、ここに載っているようなキラキラした武器をシャランラ〜♪ と振り回すミニスカ姿のセリのイメージが頻繁に現れるのだ。一体どうしたというのだろう。

 やはり先日、後頭部を強打した後遺症なのだろうか。


 いや、もちろんミニスカは最高だ。ぜひともセリに装備して欲しい。そして上から思いっきり踏みつけてほしい。回し蹴りでも、かかと落としでもいい。できたら三角絞めとかも……ぜひ生足で受けてみたいところだ。


「分類は……魔法少女、美少女戦士、ガールズ戦士……?

 どこで会ったんだろうな。ちっとも思い出せねえけど。

 なあ、オヤジさん? 俺的には嬉しいけどよ。女ものの戦闘服の露出ってこれでいいのか? 女戦士の間で流行ったビキニアーマーとかもそうだけどよ。

 ほとんど守られてねえじゃん。いいのか? 防具がこんなんで」


「うむ。ワシが思うにあの露出も合算しての攻撃力だと思うんじゃ。悩殺スキル『チラリズム』じゃ。

 ミニスカから見える生の太腿の破壊力はバカにならんぞ。オーバーニーやロングブーツで見せる絶対領域も捨てがたいが、ワシは厚手タイツも懐かしいのぉ……」


 防御力の話が攻撃力に変換されているが、ボルターはたいして気にもせず、冒険の書に掲載されている防具品の数々を脳内セリに着せ替えしながらページをめくり続ける。


「……あ、これすげえ好きかも。あーでも絶対着ねえだろうなぁ。似合いそうなのになぁ。惜しいなぁ、髪までそっくりな長さなのになぁ」


 ぶつぶつとつぶやくボルターの手元を亭主がのぞき込んだ。


「お! 美少女戦士VS怪人ごっこプレイか!? ええのうええのう! どれを着せるんじゃ? セーラ―服か? プリティでキュアなコスチュームか? ワシの一押しは有言実行な三姉妹(シスターズ)のミニスカ和装じゃ!! ワシは……っ! ワシはあの姉妹が大好きじゃった……っ!」


 亭主はボルターから冒険の書をひったくり、自分の一押しのページを開くと感極まって机に泣き伏せた。


「お、おい、オヤジさん。泣くなよ……。大丈夫か?」

「ああ、すまない。急に切なさがこみあげてきてな。この歳になると、涙腺がもろくなってしまう。

 ああ、月子、雪子、花子よ……。お前たちはワシの……っ、ワシの……っ!

 くぅ……っ! ボルターさん! 今だけじゃよ。美少女戦士の格好は、少女のうちしか装備できん! 魔法少女の格好も、少女のうちしか装備できん! 今だけじゃよ! 月に代わってお仕置きされたいじゃろ? 火星に代わって折檻されたいじゃろ?」


「……お仕置きっ!? されてえ!! されてえに決まってんじゃねえか!! なんだよそれ!! もっと詳しく教えてくれよ!!」


 亭主は流れ落ちた涙を拳で拭うと、疲れたように微笑んだ。


「ボルターさん、まだ時間はあるかい? 良かったら、ワシの思い出話につきあってくれないか?

 こんなことを言うとおかしいかもしれんが、ワシは……お前さんといると本当の自分に戻れるような気がするんじゃ。良き夫、良き父親、良き店主……そんなしがらみから解放されて、一人の男に戻ったような……そんな気がするんじゃ」


「……お、オヤジさん! 俺もだ! 俺も……っ、俺もアンタといると、おんなじ気持ちになる!」

 ボルターは感極まって亭主の手を握りしめた。


「そうか……! お前さんもワシと同じ気持ちだったか……!

 よし、ワシの話を聞いてくれた礼に、帰りにこの中から一着、好きなのをやろう。

 長い話になるぞ? 古(いにしえ)より今日(こんにち)まで続く、戦うことを課せられた美しき少女たちの系譜の物語じゃ……。 

 ……そうさな。じゃあ、まずは一人の中華魔女の話から始めようか……」



・・・・・・



「こんにちわ。おばさん」

「あら、セリちゃん。いらっしゃい」


 袋を抱えてセリが服屋にやってきた。店頭に並んだ服には見向きもせず、まっすぐにカウンターに進むと、持っていた袋をその上に置いた。


「実は買い取って欲しい服があるんです。誰の趣味か分からないんですけど、色違いで同じデザインの服ばかり増えてきちゃって……。

 わざわざボルターがこんな変な服買ってくるとは思えないし、たぶんそういう趣味の方が着なくなった服を私に譲ってくれてるんだと思うんですけど、どうしても着るのに抵抗があって……。

 見てくださいよこれ。スカート短すぎじゃないですか? こんなの着ながら子供たちと鬼ごっこなんて絶対できないですから。……買い取り、できます?」


 服屋のおかみさんはセリの持ち込んだ衣装を一瞥すると、すぐに計算を始めた。


「ああ、はいはいこれね。いいわよ。好きな人は好きだから、すぐに買い手がつくと思うわ。全部で5点、200y(ヤクリン)でどう?」


 おかみさんが提示した値段を聞いた瞬間、セリの目が輝いた。


「わ。ホントですか? お願いします! 実は……買い取ってもらえるか分からなかったんで今日はこれしか持ってこなかったんですけど、家にまだかなりあるんです。また持ってきますね。

 ……でもあの……こういうのが好きなお客さんって、どういう方なんですか?

 こういうの着てる人、町で見たことないんですけど……」


 怪訝な表情で質問してくるセリへ、おかみさんは妖しく微笑んだ。


「ふふふ、もう少しセリちゃんが大人になったら教えてあげる。

 ところでどうだい? 今手に入ったお金でこの服なんか買って行かないかい? いい生地だから伸縮性もあって動きやすいよ! 厚手だし多少転んでも擦り切れたりしないから、鬼ごっこのときにいいんじゃないかい?」


 セリの顔がぱっと明るくなり、すぐに不安な顔つきになる。


「……高そう……ですね」

「本当なら350yなんだけどさ。特別にセリちゃんにはオマケしてあげるよ。

 280yでどうだい? さっきの臨時収入にプラス80yで買えちゃうなんてお得だよ?」


 セリは表情を目まぐるしく変化させながら長い時間悩み続け、


「………………か、買い……ます」


 結局、先ほど手に入れたばかりの臨時収入は、すぐにおかみさんの手元へとカムバックしてしまうのであった。


 こうしてこの町の経済は廻っていくのであった。




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