オレたち結局似たもの同士
竜「あ…あー…………。」
竜は慌てて身を翻し、校長の亡骸を後にする。
今はちょっとどうしようもないと判断したからである。
恵「オイ!!お前何やってるんだよ!!!」
声は小さくヒソヒソとしていながらも、憤りが隠せない恵はやや語気を荒げながらそう吐き出す。
竜「す、すまん…こんなはずじゃあなかったんだ!!……やっちまったよぉ…………。」
竜は元の竜の顔に戻り、大きく肩を動かした後、ふーーーっと長いため息を吐き出すと、その場にへたりとしゃがみ込んだ。
空気が抜け萎んだ風船のように、げんなりどんよりとしている。
そこまで落ち込まなくても……。
恵「オマエが自信満々な時はいっつもこうだ……!全く!」
竜「ひ、ひぃ〜〜〜〜〜〜…な、なんてゆーか、オレのしたことが裏目に出るなんて……オロオロ……あわわ……。」
恵「まあ、やっちまったモンは仕方ねえ、ここはこの恵様に任せておきな、オレのスゴウデ掃除テクニックで追い払ってやるよ。」
竜「ほ、ほんとか!!!!あ………ありがとう!!!メシアや………恵、オマエってやつは!!」
うわーんと、情けない声を上げながら上半身を預けるように恵に抱きつく。
うんうんと頷き、竜の背中を優しくポンポンと叩く恵の姿はまるでヒーローさながら、いや、菩薩のようにさえ見える。
恵「まあここは一つ、やってやんよ。」
すくっと立ち上がり、陽の光を全身に受けた恵の影が床に落ちる。
竜「か…輝いてる…………。」
老眼鏡はおもむろにハタキに手を掛け、スパッと勢いよく壁掛けのフックから奪い取ると、ズンズンと勇ましい足取りで校長のいる方角に向かった。
一歩また一歩と進むたび、大きく自信あり気に揺れるハタキを持つ手は、まるで竜の父親…工務店を営む親父が自身のレク○スを洗車している時のようだった。
竜(………あ…そういやオヤジ…レ○サスこの間力み過ぎて傷つけてたよな…………。)
竜が校長に作戦を仕掛けに行った時と同じような予感を、今度は恵に感じていた。
恵「スミマセーーーーーーンッ!!!清掃しまァーーーーーーーーーーーす!」
急にドカ大声を出してコンビニ全体の窓をビリビリ震わせる恵。
どこかおかしくなったのかと、呆気に取られ呆然とする竜と校長をよそに恵は掃除を始める。
竜(なんぼバレないようにっつったって……声デカ過ぎやろ…………。)
校長「ず、随分元気がいいね、は、はは……。」
校長(このおっさん声でかいなあ……。)
大きなマスクと度のキツめな老眼鏡にすっかり騙された校長は、目の前の【おっさんに見える男】が、自分が勤務している学校の生徒だとは微塵も思うまい。
なんと自分のことを棚に上げておっさんだと思い込んでいるのである。
恵「あらよっとーーーーーーーーーっ!!!」
恵は思い切りハタキを振り回す、振り回す。
とにかくお客様の迷惑になるように振り回す。
普通だったらクレームものだが、今回ばかりはクレームを貰ってでもこのティーチャーという名のクリーチャーを追い出したかった。
隠れてバイトしてる2人からしたら校長とは脅威である。
校長「ゴホッ!ゴホッ……や、やめんかっ…………。」
バタバタと飛び交う蛾のように顔の周りをハタキが行き交う。
それらは時折、頬をつついたり、鼻の穴を横に押し広げたり、おデコにどどん波をねじ込んでくる。痛い。
まあまあな痛みが顔中を駆け巡る。
校長「や、やめいやめい!!当たっとるぞ!!キミ!!!」
恵「え!?ウッソーーーーーー!?スミマセーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!!」
校長の悲痛な叫びも虚しく恵の手は止まらない。ハタキは尚も飛び交い続ける。
舞い散る埃と、顔に当たる棒の先端と、ヒラヒラの部分が視界の邪魔をする。
それでも尚、止まらない!!!!!
恵「スミマセーーーー………あっ!!」
ツルンッと勢いよく片脚が後方に放り出された。
体勢を急激に崩した恵の右手は校長の頭を目掛け迫って来た。
恵「あ!危ないっ!!!!!」
校長「フンっ!!なんのそのッ!!!」
自身の危機を察知した校長は上体を逸らしてハタキの直撃を避けた、会心の一撃はこれで回避したのだった………。
だが……。
パコンッ
恵「………………っ!?」
ハタキがほんの少し、校長の頭にヒットした…別にそれはいい、それはいいのだが………。
恵「ま…まさか……………………ッ!!」
恵の目の前に、妙に光り輝く額、いや…額というにはその土地は広すぎる光景が見えた。
そしてその奥に不穏な影が見える、見たくない、いや、信じたくないがそれは……
そこには…………
校長の頭から、明らかに座標のズレた髪の毛が無力にも添えられていた。




