バイト中、怪しい影が到来
オレたちは進学校に通ってる高校2年生だ。友達同士で同じコンビニに面接に行って、2人とも合格。
晴れてオレらは同じ職場でバカやりながら楽しく稼いでた。
そう、今日この日までは……。
春も終わりを迎える頃、青々と染まった桜の葉が落ち始める中、この俺、鈴木竜は売り場で品出しをしていた。
一方レジで暇そうに立ってる奴は友人の山田恵、気のいいお調子者だ。
俺たちが通う高校は市内でもそれなりに名の知れた進学校、厳しい風紀、校則、アルバイト全面禁止……もちろん、守るわけもなく気まぐれに応募した結果…俺たちは同じコンビニでアルバイトをしている。
竜「おーい恵、お前ヒマならこっち手伝ってくれよ。」
恵「ヤだよ今日の品出しはオマエのターンだろうが。」
恵はそっぽを向いて店の外を眺め始めた、すっとぼけたような素ぶりで鼻歌を歌い出した。
竜「ちぇっ、まあいいよ、その代わりお前に頼まれても手伝わねーかんな。」
恵「なぁーーー!?イヤなヤツだなオマエ!」
竜「どの口が言ってんだよ全く…相変わらずの自己中だな……。」
そう言葉を発しつつ竜は品出しをする手を止めず、黙々と仕事を続けていた。
店内はかなりがらんとしており、客の1人もおらず、丁度気を抜いて仕事をするにはいいタイミングだった。
竜「……ちょっと最新のジャ○プでも拝見しようかな……ムム?これはヤン○ガ!」
ちょっと雑誌の覗き見でもしてやろうかと思った竜だったが、少年誌よりもグラビアが表紙の青年誌につい目が行ってしまった。
男子たるもの健全であるべし、健全であるからこそ目が行くものである。
そう自分を納得させ表紙を穴が開くほどガン見している。
竜「ひぃ〜〜〜〜〜池田メグちゃんやっぱグラマラスだよなぁ〜〜シビれるぅ〜〜〜〜っ!」
恵「ふ、これだからお子ちゃまは…やれやれ。」
竜は夢中で表紙のグラドルにしょうもないくらいメロついている、そう、何を隠そうこのグラドルは彼の推しである。
星の数ほどいる推しの中の1人なのである。
恵「全く…オマエほどミーハーなヤツもそうそういないよ笑」
そう言ってクールぶった笑みを浮かべる恵が身を翻して外を見た時に、妙なものが視界に入った。
恵「なんだあれ…?なんか見たことあるような……?」
黒いスーツ、黒々とした頭、パリッと綺麗に整えられたワイシャツ、小太りの推定50代後半くらいの男性。
恵「げ…!?アレってまさか!?」
そうだ、見たことがある。あの冴えない顔、進学校の分際で申し訳程度の問題児に頭を抱えたであろう目の下のクマ、そして最大の特徴とも言える色の剥げた革靴。
竜「ひゃー、靴なんてよく見てるなぁ…。」
勝手にナレーションを読まないでほしいのである。
恵「竜!!アレってウチの校長だよな!?」
恵は焦った表情を浮かべて竜の方を振り返り見る。
眉間に皺を寄せ、額からは汗を浮かべやや青ざめた不安そうな顔で見つめてくる。
竜「だ、だよな……どう考えても、そーだ、そうだよなあ…………。」
にわかには信じ難いと言った表情を浮かべ、聞き手の親指の爪を噛みながらぶつぶつと現実逃避をするも、無情なことにその人影は竜たちが働くコンビニの方に向かって来ていた。
人物の影が伸び、コンビニの入り口に今にも入らんばかりに差し掛かって来た。
恵「マズい!隠れるぞ!!!」
恵は鶴の一声の如く声を張り上げ、サッとカウンターに身を隠したが、その表情から焦りは消えていなかった。
竜「お、オレはどこに…オロオロ……あわわ…………。」
行き場を失った竜はカウンターに隠れようかとも思ったが、距離がやや遠い、雑誌売り場から移動してる間に校長と鉢合わせになってしまうだろうことが見込まれる。
何を思ったのかその時、竜は雑誌売り場にしゃがみ込み足元付近の雑誌を揃え始めた。
テーレーローレーミーロー♪
その時ドアが開き、某、パッケージに表記されたパーセンテージよりも多くの増量をしていたことで有名なコンビニの入店音がなった。
その人物を隠れながら横目で見た2人だったが、やはり校長だと確信した。
どうしようもないくたびれたクマ、年相応のほうれい線、折れた線香のように短い剃り残しのヒゲ……どこをどう見ても校長に変わりはなかった。
恵(ヤバい……オレたちが…………。)
竜(ここでバイトしてるのがバレたら………!)
恵・竜(オレたちは終わりだ………………!!)
2人の心が合致してることを互いに確信した2人は、目配せ…も、出来そうにないので念を飛ばし合うことにした。
恵(竜…!聞こえるか!!マズいぞ、校長のお出ましだ!一刻も早く作戦を考えるぞ!!)
竜(ヤバい!!!恵!校長だと!?なんでこんなところに来るんだ!?早く、早く隠れたいのになんとかしないと!!)
全然噛み合うことのない2人の念は行き場を失い2人の頭を抜けたあとどことなく飛んでいく。
その様はまるでタンポポの綿毛のように儚く、どこか風情を感じる。
校長「ふう……コーヒーでも買うか……。」
恵「ドキ!?」
まさかとは思うがレジ前で購入するタイプのコーヒーではないだろうな?マシンでセルフでやるタイプではないだろうな?と、冷や汗が止まらなくなって来た恵は、カウンターの陰に隠れたまま動くことも出来ない。
校長「…………いや、やっぱりまた今度にしよう……。」
恵「ホッ……。」
校長ではなく恵がホッと一息ついた。
そんな束の間の安堵も知らぬまま、校長は雑誌コーナーに足を向けた。
恵(ヤバい!!!!そっちには……っ!!竜ゥッ!!!!!)
そう、雑誌コーナーではいまだに竜が雑誌を並べていた、このままでは顔を見られてしまう。
だがそんな恵の気も知らぬと言わんばかりに、竜はその場から決して動かなかった。
そしてついに動き出した校長が竜の半径50センチ圏内に入り込んでしまった。
校長「ん?キミ…どこかで…………?」
竜「……す………………ね……………………。」
校長「ん?」
ゆっくりと竜は立ち上がる、震えや焦り一つ感じないその姿に恵は目が離せなかった。
竜「いや…知らないっすね………………。」
そこにいたのは知らない顔、誰だろう、恵が知る竜の顔ではない。
やけに中心に寄った目と鼻と口、なのに横に広がった小鼻、唇はめくれ歯は剥き出し、前髪は乱れて清潔感がない。
紛れもなくその男は他人である。
校長「おや…人違いだったみたいだ……。」
恵は死んだ、友達の身体に他人の顔がついてるからだ。
声を殺して地べたを拳で音が出ないように殴りつけている姿は竜が見たら「そんなつもりじゃ…」と言い出すまさかの副産物であろうこと間違い無い。
竜「あ、どぞっス…掃除してくるんで……。」
声もボソボソとした喋りで、俯きながら校長に一礼してその場を後にした。
校長に背を向け、恵のいるカウンターに向かって一直線に歩いてくる竜の顔はまだ他人のままだった。
恵「ブッ!!………ングww°々〆○ヒッwヒッヒッw〆1☆4×%ヒィッ↑!!」
声を必死に殺しながら大爆笑する恵を見て初めて自分の顔が他人のままなことに気がついた竜はハッと正気に戻って、忍び足で恵の元に駆け寄る。
竜「す、スマンスマンお前のこと考えてなかッ、グフッw」
恵「なんでオメーも笑ってんだよwwwだめだ誰だオメーwヒィッ↑ww」
竜「メンゴメンゴ。」
てへぺろと、舌を出し反省の意を述べる竜の方をいまだ見ることができずに笑いを堪え、四つん這いのまま背中を震わす恵。
笑いながらもようやく合流できた再会を喜び、2人で作戦を立てることになった。




