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美園  作者: 柊聖月
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カセットテープに録音した歌

美園から退院したと連絡があった。


美園「……退院したよ。大和、家に来るの?」


大和「ああ、約束したからな……覚悟は出来てるか?」


美園「え……、ほ、本気なの?」


大和「ギター聞きたいって言ってただろ? 録音したから、カセットテープ持っていくよ」


美園「……あ、な、なんだ」


大和「え、期待してたの?」


美園「ば……バカ」


以前、ギターを聴きたいと言っていた美園。大和はそれを忘れずにテープに録音していたのだ。流石に本人の前での生歌は緊張するし、ミスはしたくなかった大和は、録音という裏技を使ったのだった。


美園「でもさ、大和、忘れてなかったんだね」


大和「当たり前だろ」


美園「楽しみにしてるよ。いつ来るの?」


大和「来週の日曜日は大丈夫か?」


美園「大丈夫だよ。じゃあ、待ってるからね」


大和「ああ」


そして約束の日曜日。大和はカセットテープを胸に、美園の家の前に立っていた。


ピンポーン、と呼び鈴を鳴らすと、家の奥から聞き馴染んだ声が響く。


美園「大和……いらっしゃい」


大和「あ、ああ、お邪魔します」


家には美園のほかに誰もいなかった。初めて入る美園の部屋には、どこか少しだけ緊張感が漂う。制服以外の私服姿を見るのも、少し大人びて見える化粧をした美園を見るのも、これが初めてのことだった。


大和「これ……」


大和はポケットから、録音済みのカセットテープを手渡した。


美園「聴いていい?」


大和と二人きりになるのは病院以来だった。あの時は手術直後だったし、何より病院という場所でもあったため、そこまで深く意識することはなかった。しかし、いざ自宅の部屋で二人きりになってみると、美園はどこかいつもの調子とは違っていた。




ラジカセの再生ボタンを押すと、カチャッという音と共に大和の歌声が流れ出した。


『季節の中で』『夏祭り』『祈り』……。


アコースティックギターの音色が優しく滲む、切ない名曲たち。大和の、高音の伸びのあるいい声がスピーカーから響く。


美園はベッドの上で膝を抱え、じっと静かに曲に耳を傾けていた。大和は、そんな美園の横顔をただ見つめていた。


やがて曲が終わり、美園がラジカセの停止ボタンを押そうとした、その時だった。


ラジカセから美園の知らないメロディが流れ出してきた。そこに重なるのは、大和のどこか訴えかけるような歌詞と、優しく響く歌声。


美園「大和……、これ、誰の歌?」


大和「……あ、消し忘れた。俺の歌……」


美園「大和が作った曲?」


大和「あ、ああ」


美園「ふ〜ん……。ねえ、このテープ、貰っていいかな?」


大和「……ああ」


部屋の中に、なんとも言えない良い雰囲気が満ちていく。しかし、そんな二人の時間を遮るように、美園の母親が帰宅した。


「会社を休んでいる間は大人しくしていなさい」と注意を受け、自然と大和も帰宅を促される形になった。


大和「ごめんな、帰るよ」


美園「ううん、わざわざ来てもらってありがとう……大和、やっぱりいい歌声だったよ」


大和「そっか……。最近、会社でも言われてるんだけどさ。美園が第一発見者だな」


美園「ふふ、また聴かせてね」


大和「あ、ああ」


大和19歳、冬。二人の距離が、また少し形を変えた季節だった。

本作品はフィクションです。登場人物・団体名等はすべて架空のものです。著作権は著者に帰属します。無断転載・複製を禁じます。

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