旅立ち
行き場を失った魂へ、目を隠した女性が手を伸ばす。
『……グラン……』
伸ばした手が届くことはなく、女性は消えていった。
魂だけとなっても、目に見えるほどの強い光を放つカミーユは、残りの力で全てを壊そうとしたが、ナエマがリサリサの店で買った箱を開けると、力ごと吸い込まれていく。
「グラントリー=オア」
『アアアアアア……ッ!』
蓋をすると鍵が勝手にかかった。
「……まったく、これを本当に使うことになるとは思わなかったぞ」
その箱は、ナエマの先祖が作ったとされる、魂を閉じ込めるための箱だ。本来は、悪いことに使われる道具だが、まさかこんなことに使うことになるとは、思ってもみなかっただろう。
――――マザー。
成功体達の身体が崩れていく。彼女達のクローンはもうこの世に存在しないため、救うことは出来ない。だが、彼女達は笑っていた。
「……あなた達は私の大切な子……ありがとう」
笑顔のまま、消えていく自分が作り出した子達を見送り、ジェシカは涙を拭いた。
光を放つ光翼人は、ゆっくりと瞼を上げる。目の前にいるミスティと目が合うと微笑んだ。そして、ゆっくりと辺りを見渡すと、その力で、ファタモルガナと悪魔達を全て包み込んで消し去った。
「……ミスティ、そして、この地に生きる子供達よ……私のせいで、このようなことになったことを謝らせてくれ。本当に、申し訳なかった。私はあるべき場所へ帰る。そして、いつまでもこの地を守り続けよう。それが、私にできる償いだ」
光の翼で羽ばたき、空へ舞い上がる。
「ミスティ。幸せに暮らしてくれ、それが私とクレアの願いだ」
「お父さん……」
琴音に支えられ、泣くのをこらえるミスティに微笑みかけた。
「さらばだ」
空へ吸い込まれるように消えていくのを見送ると、ジェシカがミスティの元へ来る。
「……ミスティ。あなたが、無事でよかった……」
「あの……お母さんと、どういった関係なんですか……?」
「……少し、長くなるわ」
ジェシカが語るのは、遥か昔の話。国王が病に倒れる前の事。王妃が、王子を連れて逃げた先は、国王の乳母の家だった。乳母は何も聞くことはなく彼女達を受入れてくれた。そこでは、国王の姉の娘が乳母と暮らしており、彼女は「エマ」と言った。それが、後にジェシカと名を変える女性である。頭が良い彼女は、貴族のくせに女性のくせにと勉強する自由を奪われたため、ここに家出してきたのだ。そのせいで縁談が潰れたと、親子の縁を切られたが何も気にしていない。――――国に彼女のことが一切記録として残っていないのはそのせいである。
それから1か月後……王が亡くなったその日に、王妃は病に倒れてしまう。医者を呼べば、ここに隠れていることがバレてしまう。そう考えた王妃は、乳母とエマに王子を託して姿を消した。
「部屋に残されていた手紙に、すべてが書いてあったわ。王様に逃げろと言われて逃げて来たこと、光翼人……全て、カミーユ――――彼の仕業だと。最後に、彼からクレアという女性を救ってほしいと書かれていて、私は家を飛び出した」
頭の回転が速いエマは、どうすればいいかを全て計算し、怪しまれずに彼に近づいたのだ。だが、クレアの居場所が分からぬまま月日は流れ……やっと彼女を探し出した。
「クレアと施設で過ごした日々は、楽しかったわ。子供達も彼女と遊ぶのを喜んでいた。クレアも、自分が愛する人との子を授かっていることに気が付いて、前を向いて進もうとしていたのよ。……だけど、すべて壊されてしまった」
約束を果たせなかった。だから、ミスティを保護し、せめてこの子だけはと思っていたのに……また悲劇は起こってしまう。頭が良い、勉強ができる。だから、何だというのだろう。自分の無力さに打ちひしがれる。自分の願いは何1つ叶わないという絶望。
「でも、最後に叶ったわ」
ジェシカは、集まって来ていたこの場で戦ってくれた彼女達にお礼を言った。
「これで、全て終わった」
「――終わったけど、それどうするの?」
エクレールが指さすのは、カミーユの魂を封印した箱。ナエマはそれなら心配ないと返した。この箱は、行先が決まっているという。
悪魔の気配に、マーガレットがリボルバーを構えた。
「悪魔⁉」
『ああ、危害を加えるつもりはありませんよ。それを受け取りに来ただけです』
現れたのは、グラキエスと呼ばれていた上級悪魔だった。ナエマから箱を受け取ると、満足げだ。
『我が主が、世話になった礼がしたいというので、回収させてもらいますね。では、ごきげんよう』
悪魔の王が、世話になった礼がしたいということは……地獄に落ちて、そこで消滅。人として転生することは出来ないということだ。エクレールは「ご愁傷様~」と手を振った。
「……と、いうわけだ。帰るぞ」
「ええ」
ジェシカはミスティに向かって微笑みかける。どうか、幸せに――――と。
遠くから仲間の声が聞こえてくる。
「さ、帰ろう」
彼女達は、仲間の元へと歩き出したのだった――――。
かくして、ジャクリーヌは無事に結婚の儀を終える。それは、旅立ちの合図。役目を終えた琴音は、皆に別れを告げて、国へ帰った。エスメラルダも、世界を見たいと言うミスティを連れて、エアバイクでの旅に戻っている。
ヴァルキュリア達は自警団として活動していた。それから、数ヶ月に、ヒースクリフがリハビリを開始したという吉報が入り、ヴェロニカが大泣きすることになる。
ダリアは、というと……念願の1人旅へ出発している。マーガレットは、単独行動を取ったことが原因で、見習いに降格となっていた。カトリーヌがジャクリーヌに残り、指導をしているが、度々雷を落とされている。
「…………当分、のんびり出来そうだな」
マーガレットからの手紙に、ヴァルキュリア達からの手紙、それそれに目を通し、バッグにしまう。モニカから餞別だと貰った契約武器に右手で触れてから、空を見上げた。
「さてっと、次は何処に行くか……」
ダリアは、何処までも続く道を歩き出したのだった――――。
ありがとうございました。




