解放された朝に水を差す
2024年7月。文章の手直しを始めました。
鳥の声に目を覚ます。ベッドから起き上がると、カーテンを開けた。部屋に差し込む太陽の光が眩しくて、目を細める。
――ああ、なんて素敵な朝なのだろうか。
同じ部屋にマーガレットが居ない。それだけで、こんなに幸せを感じるとは思わなかった。
……迷惑かけてなきゃいいけど。
いつまで続くか分からないが、この開放された日常を神様に感謝し、有意義に使わなければ。ベッドから飛び降りると服を着替えて、朝食を食べるために部屋を後にした。
宿を出ると、港に隣接したアーケード街に向う。獲れたて新鮮な魚介料理が食べれるお店が集まるアーケード街は、朝早くからやっており、ダリアはウキウキしながらアーケード街の石畳を歩いた。
どの店にしようか悩むダリアだったが、悲鳴が聞こえて顔を向けた。数メートル先の店から男が飛び出してくる。少し遅れて、店員が店から出てくると、「誰か捕まえて!」と大きな声で叫んだ。
(無銭飲食かよ)
朝からバカなことしやがって。そう思った彼女の視界に、バケツを持った幼い女の子がヨタヨタしながら道を横切ろうとしているのが入り、逃げてくる男と衝突するのは間違いないと判断したダリアは、瞬時に魔力を足に集め、放つと同時に地面を蹴った。
「邪魔だ! どけ!」
女の子は男にその勢いのまま突き飛ばされて、石畳に頭をぶつけそうになるが、間一髪のところで受け止めると受け身を取った。
「ま、にあった……。おい、大丈夫か!?」
「……ふ、ふえぇぇぇぇん!」
突き飛ばされたことの恐怖に子供は泣きだし、アーケード街に響き渡る。
ダリアは、子供を突き飛ばした男を絶対に逃がすわけにはいかないと顔を上げると、既に腕章を着けた数人の男達に取り押さえられていた。
「……やれやれ。ったく、朝から迷惑な……」
泣いている女の子の頭を、声をかけながら優しく撫でて落ち着かせていると、傍に女の子が持っていたバケツが置かれた。顔を上げれば、男達と同じ腕章を着けた女性が立っていた。
「エビは無事よ。ルイゼ、怖い思いをさせてごめんね」
バケツを覗きこむと、少し泡は立っているが、エビに傷は無く、水も小石などのゴミが入っていない。あの、突き飛ばされて子供の手から離れたバケツを、中身をこぼすことなくキャッチしたのだ。
女性は胸元に右手を当てると、ダリアに向かって会釈をした。
「私はヴェロニカ。この子を助けてくれてありがとう。自警団を代表してお礼を言わせてもらうわ」
「自警団……なるほど。オレはダリア。昨日、ジャクリーヌについたばかりの旅人だ」
ヴェロニカは、この街に住む人達の顔をすべて覚えている。ダリアを見たことがない理由が分かって納得した。同時に、来たばかりだというのに、こんなことに巻き込んでしまって申し訳ないと心苦しくなるヴェロニカだったが、悲鳴が聞こえて慌てて振り向いた。見れば、捕まった男が自警団の1人に殴られて倒れている。ヴェロニカは溜息をつくと、ルイゼが向かおうとしていた店をダリアに教え、連れていってほしいと頭を下げて去っていった。
「ちょっと、何してるの!?」
殴られた男は口の中が切れて、血が流れていた。殴った本人は、ヴェロニカを睨みつけ、面倒な奴が来たと舌打ちをした。
「こいつが逃げようとするから殴っただけだ。いちいちうるせえんだよババア」
「誰がババアですってぇ!?」
また、自警団同士の喧嘩がはじまったよ……と、見慣れている人たちは、気にせず通り過ぎて行く。
「……ほら泣いてる場合じゃないぞ。エビ、持ってくんだろ?」
「……うん」
ダリアはバケツを持つと、空いている方の手でルイゼの手を取り歩き出す。ヴェロニカに教えてもらった店は目と鼻の先だった。お店の中から焼き魚の美味しそうな匂いが漂ってくる。騒ぎに気が付いたのだろう。窓から外を覗いていたお店の人と目が合った。気が付いたルイゼが大きく手を振ると、慌てて扉を開けて飛び出してくる。
「ルイゼ、どうしたの⁉」
「あのね、おねえちゃんがたすけてくれたの」
ダリアと同い年くらいの女性が、ハンカチでルイゼの涙を拭う。ダリアは名を名乗ると、事情を説明した。話を聞いていた女性の顔がだんだんと険しくなっていき、額に手を当てるとため息をついた。
「またか……。ルイゼを助けてくれてありがとうございます」
自分は「カラルナ」。ここで働いていると言い、バケツを受け取ると席へ案内してくれた。
「ルイゼを助けれくれたお礼に、朝食を御馳走するわ。ルイゼはいつものでいい?」
「うん!」
「えっと、さすがに悪いから……」
「いいのいいの。食べてって! 迷惑かけたお詫びお礼。あ。もしかして、お店決めてた……?」
「いや、まだ決めてなかったけど……じゃあ、お言葉に甘えて」
ルイゼと向かい合って座る。先程まで泣いていたのが嘘のように笑っていた。
運んできた水をテーブルに置いたカラルナに、オススメの朝食をお願いすると、ルイゼに話しかけた。
「いつも、手伝いしてるのか?」
「うん! あのね、おとうさんいつもがんばってるから、ルゥもがんばるの!」
「そっか。えらいな」
にこにこ嬉しそうなルイゼと対照的に、カラルナが複雑そうな表情になっていることに気が付いた。
「んーと、カラルナ。さっきのまたかってどういう意味だ?」
話を変えた方がよさそうだと判断したダリアは、もう1つ気になっていたことを聞く。ジャクリーヌの自警団について、カラルナは話し始めた。
元々、この街は王族がいなくなったことで治安が悪く、貴族と平民は対立している状態だった。そこで、中立の立場である自警団を結成することにし、傭兵たちを集めて活動を開始。最初はよかったが、だんだんと歪みが発生してしまい、さらには王族が見つかったことで騎士団が結成され、そのことに反発した自警団は内部分裂してしまった。気に入らないと暴力を振るったり、お金で解決したり……もうやりたい放題なのだと言う。
「……でも、ヴェロニカさんだけはあたしたちの味方をしてくれているの。そのせいで、仲間と対立していて……」
先ほどの「ババア」を思い出し、そういうことかと納得する。この街も様々な事情を抱えているようだ。とは言え、ジャクリーヌが新たなスタートを切るその時まではここに居たい。
(この街の厄介ごとより、マーガレットの方が厄介だし)
この街の状況を知ったら、彼女は間違いなく首を突っ込む。そのことを想像したら、寒気がした。嫌な予感しかしない。何事もなく平穏に過ぎますように。
そんな彼女の願いは、打ち砕かれることとなる――――。
「ダリアとマーガレット」
ダリアは、子供の頃からマーガレットに振り回されていた。悪気が無いからたちが悪い。口が悪くなったのはマーガレットのせい。昔は長かった髪も、マーガレットのせいで今はミディアムほど。そのきっかけになった事件はイヤミが通じないマーガレットでもさすがに落ち込んだそうです。
髪は女の命。




