存在自体が大迷惑からの解放
書きたい話はいっぱいある。あると迷走して、ずっと更新止まってました。
溜め込んだ話の1つ、登場人物が全員女の子の話。
男子禁制。
よろしくお願いします。
賑わう港に大きな船が停泊していた。中央に聳え立つ古城を、取り囲むようにつくられた街「ジャクリーヌ」。治めていた王様が病気で亡くなってから数100年もの間、その城には誰も住んでいなかった。王妃とその息子は王が亡くなる前に行方不明になっていたのだが、本国の者が子孫を見つけだし、城へと戻って来てから丸1年が経とうとしていた。
「んー! やっぱり、陸の上が1番落ち着くー!」
船に乗ってジャクリーヌにやって来た女性は、うさぎのようにぴょんぴょん跳ねる。――マーガレット。それが彼女の名前だ。跳ねると胸元の十字架も音をたてる。彼女は、聖女教会のシスターであり、フリーの悪魔祓いだ。
「まずは魚介料理を堪能すべきだよねぇ。ね、ダリア。――あれ?」
一緒に来た友人の「ダリア」に声をかけるが、すでに彼女は遠くにいた。マーガレットの事を放置して、さっさと部屋を取りに宿へ向かっている。慌てて、マーガレットも走り出した。
「待ってよー!」
――誰が、待つか。
金魚のフンと化しているマーガレットにウンザリしているダリアは、船で聞いた宿に向う足を止めることはない。聖女教会から、迷惑料は貰っている。というか、貰わなければやっていられない。
行く先々でトラブルを起こし、街を追い出され、請け負った仕事を頼んでもいないのに手伝うと言い、失敗する。
「この街にも、どのくらい居られるか……」
考えただけで、胃が痛い。走ってくる音が近づいて来た。反射的に速歩きになったダリアは、宿「アイル亭」の看板を見つけると飛び込んだ。
「い、いらっしゃいませ……?」
カウンターにいた女性を驚かせてしまった。ダリアは、カウンターに行くと、すみませんと頭を下げる。
「部屋、空いてますか?」
「あ、はい。お1人様でよろしいですか?」
「はい。1人です」
ここにマーガレットが居ると、同じ部屋がいいと駄々をこねるため、来る前にさっさと決めてしまいたいダリアは、急いで差し出された紙にサインをした。
「あー! ダメダメー! シングルじゃなくてツイン。わたしも同じ部屋に泊まるんだから!」
慌てて飛び込んできたマーガレットを片手で押さえつけ、サインした紙を女性に渡した。
「ダリア、酷い!」
「酷くねえ。オマエと同じ部屋なんて、考えただけでもウンザリだ」
泣きつくマーガレットを突き放す。床に座り込み、大声で泣いて駄々をこねる彼女を、外から覗き込む人影があった。
「うわぁ、噂通りの存在自体が大迷惑だね……」
酷い言葉に涙が引っ込んだマーガレットは、勢い良く振り返ると、覗いている少女と目が合う。少女は、マーガレットに近寄ると会釈をした。
「ごきげんよう。シスターマーガレット。ボクはメヌエット。聖女教会に連れてくるよう頼まれて、迎えに来たよ」
「え、今すぐ? わたし、お腹空いたんだけど……」
「教会で食べればいいでしょ? あ、ダリアさん。いつもシスターマーガレットが多大なる迷惑をおかけしてます。改めて、シスターセシリアが挨拶に来ますので、どうぞゆっくりなさって下さい」
メヌエットは、ダリアに向かって深くお辞儀をしてからマーガレットの腕を掴むと、無理矢理立ち上がらせた。
「いったーいっ! 何するんですか!?」
小柄なのに、どこにそんな力があるのだろうかというくらいの力で引き上げられて、悲鳴を上げる。振り払おうとしても振り払えず、もがくマーガレットを見て、やれやれとため息をついた。
「この街に滞在する間は、聖女教会で身柄を預かるようにって、本部から司令が来てるんだよ。拒否する場合は、シスター剥奪されるけど?」
「ひ、ひ、酷い! 酷すぎる!」
「では、お騒がせしました」
「いーやー! 助けてー!」
ズルズルと引きずられて行くマーガレットに、小さく手を振るダリアの顔は晴れ晴れとしていた。つまりはこの街にいる限り、マーガレットの面倒を見なくてもいいということだ。姿が見えなくなった頃、大きくガッツポーズをしたダリアは、改めて長期滞在を伝えて、代金を支払うのだった――。
* * *
その数時間後。食事を終え、久しぶりの自由を堪能していたダリアの部屋をセシリアが訪れた。
「シスターカトリーヌから、詳しい話は聞いております。本当にありがとう御座います」
心の底からの感謝に、ダリアは引きつった笑いを浮かべた。
シスターカトリーヌとは、マーガレットの教育係だった女性だ。今は聖女教会の本部に勤務しており、ダリアへの送金と共に謝罪の手紙を送ってくる。
「シスターマーガレットは、もう少し落ち着いてくれるといいのですが……この街にいる間にシスターとしての自覚を持てるように指導いたします」
「いや、無……え、あ、よろしくお願いします」
無理と言う言葉を飲み込んだ。マーガレットとは、幼馴染だ。だからこそ分かる。無理だと。しかし、けして悪い奴ではないことも理解している。ボランティア活動ばかりで見返りを求めない。そういう子だ。
「あの、何故、聖女教会で身柄を預かることになったんですか?」
「ジャクリーヌの現状はご存知ですか? 実は王妃を迎えることが決まりまして、今問題を起こされると我々としても困るのです」
ジャクリーヌは新たなスタートを切ったのだ。マーガレットが問題を起こせば、聖女教会の立場が危うくなる。それだけは避けなければならない。
セシリアは咳払いをした。
「まあ、それはさておき、せっかくジャクリーヌに来たのですから、ゆっくりなさって下さい」
ごきげんようと去っていったセシリアを見送り、ダリアは言われなくてもそうすると嬉しそうに微笑むのだった――――。
2000文字前後で書ければいいかなと思ってます。今、そのくらいが主流なんですね……。少なすぎな気もしますが、確かにスマホなら読みやすいですね。