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太陽と月の夢幻郷  作者: 森野こごみ
第一章 花と鳥の子守歌

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第五話 昔話(後編)


 泉の(ほと)りに、椿(つばき)の花の木が多く()えている場所がありました。真っ赤な花が咲く時期に少女はよく足を運び、椿の花が好きな母のために一輪だけ()んで帰っていました。


 とある日の深夜、夜中に母がうなされて(なみだ)を流しているところを見た少女は、こっそりと家を抜け出し泉の(ほと)りの椿の花の前に来ていました。

 母は、お腹にいた新しい命を失ったばかりでした。父と母は、とても仲睦(なかむつ)まじい夫婦でしたが、なかなか子宝には恵まれず、ようやく授かった子が少女でした。


「なのに、どうして自分は周りと同じような感情を持てないのか?」と、両親に後ろめたさを感じていた少女は、弟か妹の存在ができることで肩の荷が降りるような気持ちになり、新しい命の誕生を誰よりも心待ちにしていました。


 少女は、一輪の椿の花を()むと泉に浮かべます。椿の花は、泉の水面に映しだされた満月(まんげつ)へ向かっていきました。

 ボンヤリとその様子をみていると、誰かが泉の中の満月の上に浮かんでいることに気付きました。


 その人は椿の花に気付いた様子で、ゆっくりと水面から体を起こすと拾い上げて見つめています。


 見た目は十二、三歳くらいで男とも女とも判別がつかない美しい顔立ちをしています。金色(こんじき)に光る瞳と銀色に輝く長い(かみ)をもつ姿は、まるで月の化身(けしん)のようでした。


 その美しさに心を奪われ胸の高鳴りが止まらなくなっていた少女から、無意識のうちに出てしまった言葉がありました。


「……水神(すいじん)様」と。


 そこまで母親が話を終えた時でした。それまでスヤスヤと眠っていた女の子が目を覚ましました。目の前にある優しげな眼差(まなざ)しに、安心しきった様子でニコニコと笑顔になります。

 母親は、そんな女の子に(ほお)ずりをして抱きしめます。親子は砂浜でしばらく遊んだ後、少しだけ海を眺めてから立ち去って行きました。


 メジロとツバキは、(だま)って二人の様子を見守っていました。


「話、最後まで聞きたかったな。……なあ、ツバキ」


「…………」


「ツバキ? 何か思い出したのか!?」


「やっぱり何も思い出せないよ。……でも」


「でも?」


「ううん。何でもない」


「……そうか。じゃあ、今度の今度こそ出発するぞ」


「うん! お願い」


 ツバキがメジロの背中にしがみつくと、かすかに椿の花の香りがしました。その匂いが、なぜかとても(なつ)かしく感じられて不思議な気分になり小さな声で(つぶや)きます。


「……そうだった。私は椿の花の妖精だった。それだけは分かっているよ」

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