第四話 昔話(前編)
イソラに連れられて海に来たメジロとツバキは、砂浜に流れ着いた流木の上で、太陽の光を反射してキラキラと光る水面を見つめていました。
イソラは、「もう森の泉には近付かない方がいい。僕らと出会うことも二度とないだろう。さようなら」と言い残すと姿を消してしまいました。
「イソラ。……そして、ミヅハ」
「何か思い出したのか?」
「……何も」
「……そうか。ここにいつまでもいたところで何も変わらない。そろそろ行くか」
メジロがツバキを背に乗せて飛び立とうとした時でした。
「マーマー。とーとー」と、一歳ほどに見える薄茶色の髪と紫色の瞳の女の子が、こちらを指差しながら砂浜をヨチヨチと歩いて近付いて来ます。
「そうね。可愛い鳥さんがいるね」と、女の子の母親と見られる長い黒髪と漆黒の瞳の十代後半ほどの女性が後を追いかけていました。
女の子がメジロに触れようとしたので、ヒョイっと避けるように飛び上がりました。
それに驚いて転んでしまった女の子が泣き出してしまったので母親が抱き上げてあやします。
その様子を見て可哀想に思ったツバキが、「ケガとかしてないかな? 少しくらい触らせてあげればいいのに」とメジロに文句を言います。
「あのなあ〜。赤ん坊は力加減を知らないんだぞ。それに思ったより力もあるし羽を痛めて飛べなくなったら困るだろ」
そう言いながらメジロが今度こそ飛び立とうとしていると、母親が女の子を抱きしめながら歌を歌い始めます。
「……この歌って」
「さっき、ミヅハが歌っていた歌と同じ。どうして?」
やがて女の子が泣きつかれて眠ってしまうと、母親は歌をやめて砂浜に腰を下ろし海を眺めます。周りには、他に誰もおらず聞こえるのは波の音だけでした。
メジロとツバキは、先ほど留まっていた流木の上に戻り母親と女の子の様子を覗うことにしました。
母親が自分の腕のなかで眠る女の子をしばらく見つめた後、何を思ったのか急に、「むかし、むかし……」とおとぎ話を聞かせるように語り始めます。
「今から千年ほど昔、ちょうど平安時代の頃、山奥の大きな泉の近くにある村に一人の女の子がいました……」
……少女は十三歳。あと二、三年もすれば、同じ村の誰かの妻となり子どもを産まなければいけませんでした。あの時代は、それが普通のことだったのです。
けれども、その普通に少女は深く苦悩し苦しんでいました。彼女は、女性の体に男性の心を持っていたためです。
そんな彼女に恋をしていた少年がいました。彼は村長の息子で、とても強欲で嫉妬深い性格でした。いずれ妻になってほしいと少女に願い出ましたが、拒絶されたことをきっかけに愛が憎しみを帯びていきました。
村には、昔から続く忌まわしい風習がありました。天災が起こるたびに泉に住む水神様に人間を生贄として捧げていたのです。




