第一章 第5話 束の間の休息
「そういえば、2人とも食料は買ってきてくださいましたか?」
「あ、忘れてた」
パンの匂いを嗅いだあたりまでは覚えていたのに。あの言葉の衝撃で市場の喧騒や食べ物の匂いも全部、頭から消えていた。
「また......戻る?」
セラが焦ったように後ろを指差す。
「大丈夫ですよ、食料は何食かありますので」
そう言われ、セラは安心したようにスッと肩を撫で下ろした。
「それに私が街に戻れば、どうしても翼が目立ってしまうので」
それはそうだろうな、あまりに大きい金の翼はたとえ布で隠したとしても目立つ。
「シカモマチニハ、ウカンガイルカラナ」
その言葉でハッとする。
たとえ遠い5階層に来たとしても、奴ら上層の支配からは抜け出せない。
そして、それはきっとこの先ずっと変わらない。
「その通りです。ですが2人とも、そこまで怯えなくても私がいますから」
なんでだろうな、俺が大嫌いなはずの上層の人間にどこか安心できる自分がいる。
冷静に自分の心を押し殺しているように見えるその姿に、どこか自分と似た後悔を抱えてる気がしたからかもしれない。
「ひとまず街から遠ざかりましょう」
そうして街を背に、前へとまた歩き始めた。
しばらくして、エリオットは指を差した。
「一旦、あそこで休みましょう」
そういって壊れた建物に向かった。
「やっと......休める」
「何か食べてもいいか?昨日の昼から何も食べれてない。」
色々な出来事が起きて全く食べる時間がなかった。
「ここまで来れば、羽監も見回りしていないでしょうしゆっくり休みましょう」
そうして俺たちは、冷たい地面に腰を下ろした。
落ち着いて天井を見ていると、エリオットが腰につけていたポーチの中から水筒と四角い何かを取り出した。
「その四角いのはなに?なんかレンガみたいだけど」
「これはもしもの時の兵士の非常食栄養ブロックです。口が乾燥してしまうので水と一緒に食べてください」
これが食べ物?
一階層の食べ物も見た目は酷かったけど、これはそもそも食べ物に見えないんだけど……
「そんな顔しなくても——美味しいですよ?」
エリオットはブロックをつまんで口へ運び、数回噛んだ後に水筒の飲み物を飲んだ。
俺とセラもブロックに手を伸ばし口元へ運ぶ。
「これ、本当に食べ物?」
セラがまじまじとブロックを見ていた。
「大丈夫ですから、栄養もたくさん入っていますよ」
エリオットを信じ、意を決して口へ運んだ。
見た目通り硬いし、粉?
口の水分が一気に吸われていく。
でもほんのり甘さを感じる。
でも、そんなに美味しくない。
俺は半信半疑のまま水筒に手を伸ばし、口に含んだ。
美味しい。
いい香りがする。
それにあったかい。
「何この水!?」
「これは紅茶という飲み物で、上層で育つ葉から作られるんですよ」
紅茶?そもそも水に味がついているのが初めてで驚いた。
堪えきれずにもう一口飲んでしまった。
栄養ブロックで渇いた口にこれは、正直言って悪魔の飲み物だ。
セラも隣でブロックを食べ、紅茶を口に含んだ。
その時、セラの目が大きく見開いた。
「......おいしい」
ずっと強張っていた、セラの顔が少し解けた。
「それはよかった」
エリオットもそれを聞いて少し嬉しそうだった。
そうして残りのブロックを全部食べ、水筒を飲み干した所で聞いた。
「これからどうするんだ?」
「もう少し休んでから6階層へ向かいます」
そう聞いて、俺は少し横になった。
6階層。
結界の先。
青い空を見る。
灰の先の景色はどうなっているんだろうか、青い空はどんな形なのだろうか、そんな想像をしながら俺は目を瞑った。
少しして目を開けた。
「では、そろそろいきますか」
エリオットが荷物をしまっている。
俺とセラも服装と荷物を整えて、俺たちはまた歩き始めた。




