プロローグ
先月、彼女と入籍した。
大好きな嫁は、いつだって出迎えてくれる。
そう、包丁を持って飛びつくのだ。
「ぎゃぁぁああ!!」
反射的に飛び退く。
だが、そのまま腹にめり込んできた。
「拓ちゃんおかえり!!」
背後に手を回され、
俺の背筋に寒気が走る。
「刺さるー!刺さるってばー!!」
潤んだ瞳に荒い息。
俺を見上げ、小首を傾げる。
(か、可愛い)
俺は、この日常を疑ったことがなかった。
──その代償を知るのは、ずっと後になる。
イチャイチャを期待している諸君。
すまないが、新婚にも定休日は存在する。
嫁が寝静まった頃、
暗闇の中でノートパソコンを立ち上げる。
画面に表示されるのは──
騒団スレッド【既婚者相談スレ】
画面を見ながら、
躊躇いなく、打ち込んでいく。
この場所だけが、唯一の逃げ場だった。
名前:Tちゃん
『初めまして。
俺は新婚ホヤホヤのリア充です。
結婚してる人に相談があるのですが、誰かいますか?』
打ち込んでから、すぐに画面が動いた。
名前:リア充爆発しろ
『爆散バンザイ\(^o^)/』
予想通りのコメント。
この時間でも、人はいる。
確信した俺は、続きを打ち込んだ。
名前:Tちゃん
『実は……結婚してから妻が変なんです。
包丁持って抱きついてくるし、
手ぶらで安心したと思ったら──
熟したメロンが顔面に飛んでくるんです。』
そこまで書き終えると、
胸のつっかえを吐き出すように息をついた。
名前:リア充爆発しろ
『自慢しやがって!
メロンごと爆ぜろ\(^o^)/』
名前:オーパンツー
『続きを教えろください。
パンツ脱いで待ってます。』
やっと、誰かに話せた。
コメントが増えてきて、
少しだけ気が緩む。
名前:Tちゃん
『嫁のスキンシップは、
いつも命がけになるので、毎回注意しているのですが……
嫌われてるのか? と考えたこともあります。
でも、エロい顔で襲ってくるんです。
何故だと思いますか?』
どうせ返ってくるのは、冷やかしだと思っていた。
しかし目の前にあるのは、同じ既婚者の書き込み。
名前:しろうさ
『初めまして。
私は妻と結婚して十年になりますが、新婚さんが羨ましいです。
うちも昔は行ってきますのキスとかしてたのに、今では声をかけても無視ですよ。
流石に包丁は危ないですが、奥さんが甘えているのも今だけですよ^^』
ベテランの人が言うことは、説得力が違うなぁ。
数年後にはうちも……武装解除はされてないな。
名前:Tちゃん
『しろうささん。
コメントありがとうございます。
結婚十年なんですか!?羨ましいです。
普段の嫁を見ていると、
将来も変わってない気がします(汗)
それでも、愛してる。
最期まで添い遂げてみせます。』
ふと、時計を見る。
時刻は深夜一時を回っていた。
スレ住人に挨拶と感謝を述べ、
画面を閉じようとした時にコメントがついた。
名前:オーパンツー
『パンツ脱いでたので、防御力ゼロです。』
……俺はそっとパソコンを閉じた。




