第158話 相変わらずな二人(最終話)
神前で愛を誓う。倭国での結婚式は、必ず神々の誰かが立ち会ってきた。姿が見えなくとも、神は新郎新婦の愛の言葉を聞き届ける。そこで祝福が行われるのが慣わしだった。
今回、三柱の神々が立つ。契約した主人の幸せを見届け、そのささやかな願いを叶えるために。珍しく神としての人型をとった三柱は、アイリーンとルイの婚礼を大きく祝福した。
『おめでとう、リン』
ココの声と同時に、さまざまな角度から神々の祝福が重なる。契約の有無に関わらず、神々に好かれる巫女はその愛を受け止めた。笑顔で「ありがとう」を口にするアイリーンの頬に、嬉し涙が伝う。
家族からの祝い、立ち会う巫女達の優しい眼差し、その全てが新婚の二人に注がれた。
「随分と皆に愛されているようだが、俺が一番だからな」
「私もそうよ」
隣で嫉妬めいた発言をする夫に、妻は満面の笑みで答えた。お祝いの余韻は倭国の隅々まで覆い、例年を上回る繁栄をもたらすが……当事者が気づくのはまだ先の話だ。
今はただ、幸せと笑顔の満ちる舞台でそっと唇を合わせて笑い合った。
『ふむ、間違いなくおめでただな』
神様のお墨付きをもらい、アイリーンは目を見開く。まだ自覚はないし、お腹に違和感もない。けれど、神様の言葉を疑う必要はなかった。
幸福をもたらすフクロウ神は、首を忙しなく動かしながら宣言した。
『おめでた続きで、何とも忙しいことよのぉ』
「え? 誰か妊娠したの?」
姉達はそれぞれに相手を見つけたが、嫁ぐのは数カ月先だ。兄シンは婚約者候補を三人まで絞り込み、決定を待つばかり。誰が「おめでた」なのか。
『僕知ってるよ、ドラコニクス!』
ネネが子犬姿で吠える。フルール大陸の魔力の源であるドラコニクスは、定期的に倭国へ遊びにきていた。夫になる白蛇神ミミがいるからだ。その二人の卵と聞いて、ルイが目を見開いた。
「うまくすると、生きている間に約束を果たせそうだな」
ドラゴンの卵が孵ったら、名付け親になる。契約に入っていた一文が、現実味を帯びてきた。数十年のうちに孵るのであれば、長生きしなくては。そんな話で微笑みあった。
まだ膨らまぬ腹を、ルイが優しく撫でる。一緒に離れで暮らし始めて、もう半年近くだった。ビュシェルベルジェール王家の両親にも知らせないと……と、ここで気づいた。
月に一回ほど、フルール大陸へお茶会に出向いていた。だが……しばらくは陰陽術を控えた方が良いのでは? だとしたら、貿易の定期便を行う商人バローに手紙を託さなければならない。連絡方法で考え込むルイの隣で、アイリーンはけろりと爆弾発言をした。
「じゃあ、向こうのお母様やお父様にお知らせした方がいいわね。明日行く?」
「いやいや待って。赤ちゃんがいるんだよ? 陰陽術なんて使ったら危険だろ」
「そう? ルイの転移魔法より安全だと思うわ。こないだも着地に失敗したじゃない」
到着位置の計算が間違っていたようで、人の身長の二倍ほどの高さから落下した。咄嗟にココが術を使って、衝撃を緩和してくれたが……。そう考えれば、固定の陣が敷かれた屋敷に飛ぶ方が安全だ。
「絶対にダメだ。手紙だけにする」
「こういう御祝い事は早く、直接伝えた方がいいわよ」
言い合う二人の横で、昼寝から起きた白い神狐は大きく伸びをした。
『あのさ、先に倭国の家族に伝えるべきじゃない?』
「「そうよ(だ)」」
ぴたりと一致した声で同意し、二人は足早に母屋へ向かった。見送った神々は、やれやれと首を横に振る。母屋から悲鳴に近い歓喜の声が上がるまで、あと少し。それは幸せの一つの結晶だった。
終わり
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完結となります。妖退治より、どたばた騒動の方が多かったかも? 幸せになった二人の子が生まれて、魔法と陰陽術を両方使いこなしたら凄いですね(´∀`*)
近日、新しい連載を始めますので、また応援よろしくお願いします。




