第157話 美しく装った結婚式
美しい装飾の施された姿見の前で、アイリーンは微笑む。一族の伝統衣装である十二単を着て、結った髪に鼈甲の簪を挿して。姿見はルイ経由で贈られた。義母になる王妃と側妃からのプレゼントだ。お礼に簪を返したところ、使い方を教えに通う羽目になったのは懐かしい思い出だった。
紺色から毛先に向けてグラデーションになった青髪は、結い上げると交じり合って模様のようだ。毛先の色を利用して、上手に纏めた侍女の横でキエも満足そうに頷いた。
「綺麗ですよ、姫様」
「ありがとう」
別の侍女が施した化粧は、白く抜けるような色をしている。襟の内側まできっちり塗って、ところどころに頬紅を入れた。目の縁に黒を入れ、僅かに紅も載せる。これで格段に色っぽさが増す。最後に唇へ筆で紅を重ねた。
貝裏に塗られた玉虫色の紅は、水で溶くと美しい赤に変化する。姉アオイの贈り物だった。化粧筆の入った蒔絵の箱は、ヒスイが用意した。どちらも美しく、花嫁になる妹への気持ちがこもっている。
十二単を用意した父、兄シンは花簪を贈ってくれた。家族の用意した品で身を包み、鏡に映るのは幸せそうな女性だ。もう少女と表現する年齢ではなかった。十七歳になったアイリーンは、青紫の瞳を細める。
頬の丸さは消え、母親にそっくりの美女が鏡の中で瞬く。アイリーンは小さな声で、お母様と唇を動かした。そのあと、小さな礼を付け足して。母親の顔は覚えていない。ただ、父セイランの「そっくりになった」の言葉と、似顔絵が手元に残るだけ。
少し顔を動かせば、嬉しそうに頬を緩めるキエが目に入った。鏡越しに視線を合わせ、口角を持ち上げる。今日の私は幸せな花嫁で、ルイの奥さん。誰より美しくなれる唯一の儀式よ。
呼びに来た兄姉が、妹を見て固まった。最初に声を上げたのは、シンだ。
「本当に綺麗だ、幸せになるんだよ。リン」
「驚くほど綺麗だわ、瑠璃姫様にそっくり」
母の顔を知る姉アオイは、泣き出しそうな顔で褒める。
「結婚おめでとう、リン。こんなに綺麗だと、義弟が襲いかからないか心配よ」
祝福の言葉に重ねて、ちょっと物騒な心配を口にしたヒスイは、片目を瞑って戯けた。ありがとうと月並みなお礼しか出てこない。
「さあ、行こう」
儀式が行われる舞台まで、兄の手で進む。手前で父セイランに替わり、舞台で待つ夫ルイと並ぶのだ。長い裾を捌いて歩きながら、着飾った兄や姉の装いを褒めた。
たどり着いた舞台は、式紙に囲まれている。清める意味で張られた縄をくぐり、舞台の上で待つルイに微笑みかけた。本当なら白無垢が正装なのだけれど、どうしても十二単がよかったの。
あなたの色に染まるのではなく、染めるのでもなく。互いの色を足していきたいから。すでに持つ色を消す必要はない。
舞台の祭壇に、三柱の神が現れた。整った顔と正装の神々は、榊の飾られた祭壇の向こう側で笑みを浮かべる。ココは白い立派な尻尾を生やした青年姿、少年と呼ぶ幼さを感じさせるネネは犬耳をぴこぴこ動かす。妖艶で中性的な外見のミミは肌に鱗が透けていた。
しずしずと進んだアイリーンは、父セイランに一礼してルイに並ぶ。正面の祭壇に向かい、二人はゆっくりと頭を下げた。




