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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第8章 修学旅行 準備編
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340 清水寺と子嶋寺の関係

 藤城皐月(ふじしろさつき)たちの班は清水寺と子嶋寺(こじまでら)の関係について調べていた。


 子嶋寺は奈良時代の創建だ。760年に孝謙(こうけん)天皇の勅願により、報恩(ほうおん)という僧が大和国高市郡に子嶋山寺を建てた。

 各種史料によると、子嶋寺は子嶋山寺と書かれている。子嶋山寺は子嶋神祠のほとりに建てられた。子嶋神祠は現在の小島神社のことだ。


「小島神社か……ウィキにはないな。他のサイトで調べるか」

 神谷秀真(かみやしゅうま)は神社が好きなので、好奇心を抑えられない。秀真の関心が主旨から逸れてきたので、他の5人で事前学習を進めた。皐月は清水寺の学習に秀真を除く4人を誘導した。


 音羽山の滝のふもとで修行していた行叡(ぎょうえい)は、夢のお告げでやって来た賢心(けんしん)にこのように伝えた。

『あなたが来るのを待ち続けていた。私は東国に修行に行く。どうかこの霊木で観音像を彫刻し、この霊地にお堂を建ててくれ』

 賢心は行叡が残した霊木に千手観音像を刻み、行叡の住んでいた粗末な小屋に安置した。これが清水寺の始まりだという。


「この話ってね、法嚴寺(ほうごんじ)でも同じ話があるんだよ」

 清水寺に話を戻してすぐ、二橋絵梨花(にはしえりか)が法厳寺の話を持ち出した。清水寺の話がなかなか進まなくて、少し空気が重くなりかかっていた。

「法嚴寺?」

「うん。今まで話してきた音羽山にある古いお寺」

「同じ話って何?」

「法嚴寺の始まりがね、清水寺とほとんど同じなの」


 法厳寺の創建は清水寺と同じ778年。

 小島寺の延鎮(えんちん)上人(=賢心)が霊夢に導かれて金色に光る水源地に辿りつき、牛尾山(音羽山)に入山。そこで行叡居士と出会った。

 時は770年だった。その8年後、天智天皇が手彫りした観音菩薩像を本尊とし、光仁天皇より勅許を賜って法厳寺が創建された。


「清水寺の縁起とほとんど同じだね。創建された年は同じだし、登場人物も同じ、ログラインも同じ。ここまで似るのって、普通パクりだよね。でも、賢心と行叡が出会ってから8年の時が経っているっていうところが興味深い」

 自分でも小説を書く吉口千由紀(よしぐちちゆき)には話の構成の類似が気になるようだ。

「江戸時代、法嚴寺は清水寺の奥の院って言われていたんだって。本尊も縁起も同じだし」


「神社でいう奥宮(おくみや)みたいなものかな」

 絵梨花の言葉に神谷秀真(かみやしゅうま)が加わってきた。

「法厳寺って元々は音羽山の山頂の音羽山権現社っていう神社だったみたいだよ」

「そうなの? 権現社ってお寺じゃないの?」

「うん。権現って仏や菩薩(ぼさつ)が人々を救うために仮の姿をとって現れることなんだけど、ここでは音羽山の神を本地垂迹説で神仏混淆にしちゃったんだろうね」

「難しくてわからない」

 皐月には秀真の言うことが理解できたが、勉強のできる栗林真理(くりばやしまり)でさえ言葉や概念が難し過ぎたようだ。


「音羽山権現社ができたのって垂仁(すいにん)天皇の時なんだ。垂仁天皇は紀元前の人で弥生時代の天皇だから、仏教伝来の前だよね。だからお寺はあり得ないから神社。音羽山権現社って、昔は別の名前で呼ばれていたんだろうね」

「すげ〜。さすが秀真(ほつま)、俺の師匠」

「いや、ネットで調べただけだし」


「『法嚴寺由来』によると、賢心の霊夢に出てきてお告げをしたのは音羽山権現社の祭神の宇賀徳生神(うがとくしょうのかみ)なんだって。頭髪は真っ白で、白の顎髭を垂し延された白装束の老翁だったらしいよ。これでスッキリした」

「なんか200歳の行叡とごっちゃになりそう」

「あっ、そうか……。僕、栗林さんの言うようにごっちゃになってたかもしれない」

「でも秀真(ほつま)の言う通り、『法嚴寺由来』にはそう書いてあるってことだよな。じゃあ、それでいいじゃん」

「由緒とか歴史なんて、当事者以外どうでもいいよね」

 皐月は自分以上に冷めたことを言う千由紀に驚いた。


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