326 少年はレディースが似合う
ロリータ服を着た芸妓の満は小学生男子の藤城皐月を連れて大須商店街の中の枝道を虱潰しに歩いていた。
おかしな組み合わせの二人だが、大須ではまるで目立たない。日曜日の商店街ではアニメのコスプレをした人たちをよく見かける。ときどきだが、女装したオジも歩いている。
裏通りには個性的な古着屋が多くある。衣料品店だけでなく、カフェなどの飲食店、演芸場や銭湯もある。神社や仏閣、キリスト教の教会、古墳までもある。
皐月はその中で一軒の気になる古着屋を見つけた。その店のファサードはプロヴァンス風で、白い壁は経年経過を感じさせるよう丁寧に作り込まれていた。
店内に入ると木製のディスプレイ棚が目に入った。店内の什器は全て自然素材を生かしていて、田舎風の素朴な味わいがあった。陳列された古着の中には時折鮮やかな色の服が見られる。まるで、穏やかなぬくもりの中で華やかさを誇っているように見えた。
「いらっしゃいませ」
ユーロヴィンテージをまとった女性の店員は皐月には母の小百合くらいの年齢に見えた。店内の9割はレディースで、メンズは少ししか置かれていない。皐月にはロリータを着た満には場違いの店のような気がして、気恥ずかしかった。
「今の皐月にはメンズよりもレディースの方が似合うと思うんだよね〜」
満が選んだ服はネイビーのチルデンニットベストだった。
そのベストはやや深めの白のVネックに小豆色のストライプが特徴的だ。皐月は試しにそのベストを身体に当ててみた。レディースなのに似合っていて、自分の顔がより小顔に見えるような気がした。
「皐月はまだ男っぽくないから、レディースでもいけるね。でも、そのうちウホッってなっちゃうのかな」
「なんだよ、そのウホッって?」
満はゴリラみたいな変な顔をして、ボディービルダーのポーズを真似た。せっかくかわいい格好をしているのにバカみたいだ。あまりにも満が可笑しくて笑ってしまった。
「これ買おう。まずは一着だね」
お勘定を済ませた満は店主に頼んで、今買った服に着替えさせてもらうことにした。皐月は着ていたカーディガンを脱いでベストを着た。自分の姿を鏡で見ると中学生くらいには見えたが、ちょっと女の子っぽい気がした。
「皐月、よく似合ってるね。やっぱり若い子にはチルデンニットがよく似合う。いいとこのお坊ちゃんみたい」
「それ、褒めてんの?」
「当たり前でしょ。私好みの服を選んだんだから。本当はロリータを着せたいんだけどね」
満の話を聞いていると、子どもの頃に芸妓の凛に女の子の服を着させられたことを思い出す。凛は幼馴染の栗林真理の母親の凛子だ。
満と皐月は店主にお礼を言って店を後にした。
渡された資金の残高を考えると、皐月はもう少し服を買いたいと思っていた。ベストは5000円もしなかったので、お金はまだたくさん残っている。
「ねえ、満姉ちゃん。これからどうする? 俺、もう少し服を買いたいんだけど、付き合ってもらえる?」
「いいよ、まだ門限までたっぷり時間があるし。どんな服が欲しいか決めてんの?」
「うん。古着じゃないんだけど、ストリート系の服が欲しい。俺、そういうのって持っていないから」
「へぇ〜。皐月ってそういう趣味なんだね〜」
「趣味ってわけじゃないけど、友達にストリート系の服が好きな奴がいてね、最近ちょっと影響されちゃってるんだ」
皐月はこの時、千智のことを思っていた。満のことを異性として意識していないので、遠慮なく千智のことを考えられた。
「どの店で買うとか決めてるの?」
「うん。さっき商店街を歩いていた時に、いい店を見つけた。店頭に出ている服で格好いいのがあったんだよね。お金が余ったら学校用に買おうって決めてたんだ」
「じゃあ皐月の好みの服がわかるね。楽しみだな〜」
皐月は一度歩いた道は忘れないので、お目当ての店はすぐに見つかった。幸い欲しい服は売れずに残っていた。トップスは白いシャツと黒のベストの組み合わせで、ボトムスは黒のひざ下丈のハーフパンツだ。皐月はサイズが合うかどうかが心配だった。
「このベストとハーフパンツが欲しいんだ」
「皐月はモノトーンが好きなんだね」
皐月は明日美の影響でモノトーンのコーデが好きになっていた。母の選ぶシックな色合いよりも、モノトーンの方が色にメリハリがあるところがいい。両極端な色の組み合わせが自分の性格に合っている。
「でもウエストのサイズが絶対に大きいな、これ……」
満がサイズを確認するとMサイズだった。身体の成長しきっていない皐月には大き過ぎる。Sサイズがあればいいが、この店の雰囲気からは店頭にあるだけしかないように思える。
「今はいているテーパードパンツはウエストを詰めたんだ。とりあえずこれ買って、ウエストは自分で詰めようかな」
「皐月、そんなことできるの?」
「自分ではやったことはないけど、このパンツを買った時に店の人にサイズ直しをしているところを見せてもらったんだ。要所要所で写真を撮ったから、たぶんできると思うけど……」
失敗しても糸をほどいてやり直せるので、皐月は自分でも寸法直しができそうな気がしていた。
「皐月は意欲的で偉いね〜。じゃあ買っちゃえば? オーバーサイズだったら体が大きくなってもはけるじゃん」
「そうだね……買っちゃおうかな。裁縫は家庭科でしかやったことがないけど、裁縫ができるようになったらいいよね。もしかしたら服だって作れるようになるかもしれないし」
皐月は満がお勘定をしているのを見ながら、自分は体が大きくなってもハーフパンツをはくのか、と疑問を感じ始めた。でも、この店にはMサイズしかないから受け入れるしかなかった。




