325 ロリータと街歩き
満に連れられて、藤城皐月はロリータのコンカフェ、『ローゼン・プリンセス』にいた。
「皐月ってオムライス好き?」
「好きだよ。何? オムライスがお薦めなの?」
「ここのオムライスってね、キャストの子がケチャップで絵を描いてくれるんだよ」
「あぁ〜、それ知ってる。メイド服着た子がやってるの見たことがある。ここってメイド喫茶なんだ」
「ううん、ここはコンカフェ。ロリータの世界をコンセプトにしたカフェね」
「だから満姉ちゃんはここに来たかったんだ」
皐月はドリンクにトマトジュースを使ったノンアルコールカクテルを頼んだ。注文を受け取った美来は一度席を離れた。
「ねえ、満姉ちゃん。ここの店の人たちってみんなかわいいね。満姉ちゃんの着てる服が地味に見えてきた」
「地味か……。ロリータって男の人が嫌うみたいだから、皐月に嫌がられないように大人しめの服にしたんだよね〜。そうか〜。皐月がこういうの好きだってわかってたら、もっとかわいい服着てきたのにな……」
「いや、満姉ちゃんは今でもぶっちぎりでかわいいよ。俺、好きになっちゃいそう」
「そんなに気を使わなくてもいいんだよ。皐月はホストの才能がありそうだね〜。なってほしくないけど」
食事が来るまでの間、満は明日美の話をいろいろと聞いてきた。皐月が明日美の車に乗ったり、一緒に食事をした話をすると、満はとても羨ましそうにしていた。そんな満の様子を見て、皐月は明日美の家に行ったことは隠しておいた方がいいと思った。
プライベートの満は芸妓姿の時や検番で稽古をしている時と違って子供っぽく見えた。明日美の方がずっと年上に見え、同じ年だとは思えないほどだ。
皐月はもともと満のことを素敵なお姉さんだと思っていた。だが明日美のことが好き過ぎて、満のことをよく見てこなかった。こうして満と二人でいると、満がかわいいってことがよくわかる。今は満と一緒にいられることに幸せを感じている。
だが皐月は満は恋愛対象にはならないと感じていた。それは満からは自分に対して異性としての好意があるように感じないからだ。
皐月は自分のことを恋愛に対して受け身だと思っている。相手から好きだと思ってもらえないと、自分からは心を開けない。だが、相手が自分に好意を寄せていることがわかると、自分も好きになってしまうという悪い癖がある。
皐月はだんだん気が楽になってきた。これ以上女性関係が複雑になるのは嫌だったので、今からは男の友だちの遊んでいる時のようにしようと思った。
満と皐月はロリータのコンセプトカフェ、『ローゼン・プリンセス』を出て、再び街へ出た。
皐月がロリータファッションを好きだと言ったので、満が皐月にくっついてくるようになった。腕を組んだり手を繋いだりしてくるわけではないが、さっきまでは微妙に距離を取っていただけに、満の態度の変化に戸惑った。
「恥ずかしい?」
「別に。満姉ちゃんこそ俺みたいな子供と一緒に歩いていて恥ずかしくない?」
「全然だよ〜。私、一度でいいからかわいい男の子と街を歩いてみたかったんだ。だから今日は皐月が付き合ってくれたから、嬉しいんだよね〜」
「別に俺なんか大してかわいくねえだろ。それにかわいいって言われても、嬉しくねーし」
「な〜に拗てんのよ。褒めてんだから、素直に喜びなさいよ」
満と皐月はアーケードを歩きながら、ところどころで写真を撮った。満はやたらと皐月の写真を撮りたがる。
皐月も満の写真を何枚か撮ってみた。満の髪がピンクでロリータの服を着ているので、モデルの撮影をしているカメラマンのような気分になった。
商店街のアーケードを全て歩き尽した後、商店街の外周の幹線道路沿いを歩いた。
大津通沿いには皐月でも知っている全国チェーンの店が並んでいる。大資本の飲食チェーン店は地方都市でもよく見かける。むしろ地方都市には飲食チェーン店しか見かけないので、田舎から出て来た皐月には大津通には少し安心感を覚えた。
「アパレルショップって、アーケードじゃないところにもたくさんあるんだよね。いろんな道、歩いてみようか」
そろそろ買い物をしないと、何のために大須まで来たのかわからなくなる。




