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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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323 初めての大須商店街

 (みちる)の運転するホンダ・ビートは名古屋高速都心環状線を東別院で下りて、前津通から大津通へ入った。左右に古本屋のある上前津交差点を過ぎると、大須商店街のエリアになる。

 万松寺(ばんしょうじ)駐車場ビルに入ろうとして、駐車の順番待ちで MegaKebab の前で停まっていると、歩道を歩く人々が時折こちらを見てきた。

 だが藤城皐月(ふじしろさつき)には見世物になっているという感覚がなかった。目立ってもおかしくない自分たちに、誰も好奇の目を向けてこない。この無関心さが心地よい。これが都会なのかと、すっかりこの街を気に入った。


 時間は11時を少し回っていた。満は滑らかにビートを操り、立体駐車場のスロープをぐるぐると回りながら上った。

 8階まで上ると駐車場はガラガラだった。満は一番端の車室に一発で車を入れた。満のドライビング・テクニックは明日美(あすみ)とは雲泥の差だ。

「名古屋って都会だね」

「そうだね。でも、大須は商店街だから、大都会って感じじゃないけどね」

「豊川や豊橋に比べたら人が多くて、やっぱり大都会だよ」

 皐月は名古屋の繁華街に初めて来た。名古屋駅のビルや地下街には行ったことがあったが、大須は皐月の知っている名古屋とは全然雰囲気が違っていた。

「これからどこに行くの?」

「そうだね……。大須商店街って古着屋がたくさんあるから、まずは皐月の服を探しに行こうか。全部の店は回り切れないと思うけど、いろんな店に入ってみよう」

「俺、こんな格好で来ちゃったけど大丈夫かな?」

 皐月は母の小百合(さゆり)が買ってきたシンプルなカーディガンを地味だと感じていて、このままアパレルショップに行くのを恥ずかしいと思っていた。

「そんなことないって。カッコいいし、似合ってるよ。気にし過ぎ! それに大須はお洒落な人も、普段着の人もいろいろいるし。外国人もいっぱいいるよ。奇抜なファッションの人や、変な服着た人もいるから、すごく気楽な街だよ。私がこんな格好していても、全然目立たないんだから」


 満は運転席のシートに膝立ちして、畳まれた幌を持ち上げた。伸ばした幌をフロントガラスの上にあるロックフックにかけると簡単に幌が閉まる。リアウィンドウは透明のビニールになっていて、幌を上げた後にファスナーを閉めて張る構造になっている。

「屋根って簡単に閉まるんだね」

「簡単に開閉できるようにサンバイザーを取ったし、ソフトトップカバーをしないようにしてるよ。あと、幌を止めるホックは壊れたままにしてる。割と適当。ハハハハ」

 エレベーターで地上階まで下りると、新天地通商店街に出た。そこは全天候型アーケードで、物凄い数の人が行き交っていた。

 満の言う通り、大須には年齢から国籍まで色々なタイプの人たちがいた。しかもお祭りかというくらい大勢の人がいたので、満のピンクの髪なんて全然目立たない。

「さて……これからどこに行こうかな。メンズのアパレルショップなんて入ったことがないから、わかんないな……。とりあえず商店街をぐるっと回ってみよっか」

 満と皐月は新天地通を左へ進んだ。右手には白煙の立ち上る中に大きな白龍のオブジェがあった。

「ここってお寺?」

「そう。万松寺っていうお寺。ビルの中にあるし、看板の映像が派手だし、全然お寺っぽくないよね」

「でも中は立派なお寺って感じで、面白いね!」

 満と皐月は境内になっているビルの中に入り、お参りをして、この仏教のテーマパークのような場所で二人並んで自撮りした。その後、満が皐月一人の写真を撮った。

「後でメッセージに添付して送るね」


 万松寺通との交差点で二人は立ち往生した。行き先がまだ決まっていない。

 皐月は真っ先に目に付いた十字路の角にあるメンズ服の店を眺めてみた。派手な服やワイルドな服が売っている店で、少年向きじゃなさそうなので候補から外した。

「どうしよう……。マジでわからん。どっちに行こう……」

 満が大勢の人が行き交う中で困惑している。みんな上手に満のことを避けて行く。

「じゃあさ、まずはこの商店街を一周しよう。そうすればほとんどの店をみられるんじゃないかな。とりあえず店には入らなくて、外からチェックするみたいな」

「皐月は変なことこと言うね。外からチェックするだけって、良さそうな店なら入っちゃえばいいじゃん」

 皐月は人の多さに圧倒されて委縮していた。田舎者の自分が都会のアパレルショップに入ることが恥ずかしかったので、つい見るだけでいいと言ってしまった。


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