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藤城皐月物語 3  作者: 音彌
第7章 大人との恋
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302 バスレクリエーション

 6時間目の授業が終わり、帰りの会が行われた。今日の日直の1分間スピーチと、学級委員からの連絡事項の伝達が終わり、最後に藤城皐月(ふじしろさつき)が修学旅行実行委員会からの話をした。

「2日目の帰りのバス移動の時に車内でみんなの好きな音楽を流そうと思っています。つきましてはみんなの好きな曲を明日の金曜日の帰りまでに実行委員の僕か筒井に教えてください。一人一曲です。ジャンルは問いません。今日の帰りからリクエストを受け付けるので、気軽に声をかけてください。以上、修学旅行実行委員会からのお知らせでした」


 朝の会や帰りの会で修学旅行実行委員から話があると、必ず教室内がざわつく。修学旅行は児童にとって小学校生活最大のイベントなので、みんなの関心が高い。今話したことは皐月と筒井美耶(つついみや)が修学旅行実行委員になって初めて二人で話し合った時に出たアイデアだ。

「質問!」

「どうぞ」

 手を挙げたのは新倉美優(にいくらみゆ)という、クラスでインスタフォロワーが最も多い少女だ。松井晴香(まついはるか)とは別の頂点にいる、クラスのカーストの最上位だ。美優は博紀の盗撮事件の解決で活躍した。

「バスレクってやらないんですか? ネットでよくバスレクやったって見るんですけど」

 教室のざわめきが大きくなってきた。帰りのバスの中での過ごし方は担任の前島先生が実行委員用に作ったプリントに、実行委員が決めるように書かれていた。その件について美耶と皐月が二人で話していた時は、音楽を流しておくだけでいいんじゃないか、というところで話が終わっていた。

 バスの中で楽しく過ごすためのレクリエーションは修学旅行実行委員の間でも話題に上っていた。しおり作りの時はまだどのクラスもバスレクの具体的なことは決まっていなくて、委員のみんなはバスレクなんて面倒でやりたくないと言っていた。

 実行委員副委員長の江嶋華鈴(えじまかりん)が先生から聞いた話によると、過去の修学旅行では帰りのバスの中は疲れて寝ちゃう子が多いので、バスレクをやらないという方針の先生もいたらしい。


「バスレク、やりたい?」

「当たり前でしょ。やりたいに決まってるじゃない」

「みんなはどう?」

 皐月がクラスの子たちの反応を確かめると、みんなもバスレクをやりたそうに見えた。まだ実行委員の仕事は終わらないな、と思った。

「じゃあ決を採ります。バスレクをやりたい人」

 クラスのほとんどの児童が手を挙げた。

「わかりました。先生、バスレクやってもいいですか?」

 皐月は華鈴から聞いた話を気にしていたので、担任の前島先生の許可が必要だと思った。前島先生のバスレクに関する方針がまだわからない。皐月は前島先生がバスレクをやらない派であってほしいと願った。

「バス内でのレクリエーションですが、移動時間内にやれることとやれないことがあります。京都から奈良への移動や、奈良市内の移動は時間が短いので、レクリエーションはなしでお願いします」

 皐月は不安な気持ちになりながら前島先生の話を聞いた。

「奈良から豊川に帰る時は移動時間が長いので、レクリエーションをやるならこの時がいいでしょう。ただ、修学旅行で疲れて寝たい人もいると思うので、クラス全体の事情を考えて30分くらいで終わるものにしてください。残りの時間は実行委員から提案された音楽を聴きながらリラックスするなり、寝るなりするのがいいでしょう」


 前島先生の提案に皐月は救われる思いがした。バスレクを考えるにしても一つか二つだけで済みそうだ。

 家で法隆寺から豊川稲荷までの移動時間を調べた時、3時間近くもあることがわかり、どうやってこの時間を過ごせばいいのか途方に暮れた。この時間をバスレクで全部埋めるとなると、大量のレクリエーションを用意しなければならない。皐月は家でバスレクのことを考える時はいつも絶望的な気分になっていた。

「じゃあ、先生から許可をもらったので、バスレクをやることにします。新倉さん、バスレク係やってもらえる?」

「えっ? 私?」

「冗談だよ。バスレク係は実行委員の俺たちがやるから。……バスレクで何をやるかは明日の帰りの会で実行委員から発表します。楽しいレクを考えておくので、期待していてください」


 帰りの会が終わってみんなが帰ろうとしているところ、皐月は美耶を呼び止めた。

「なあ、筒井。今日って何か用事とかある?」

「別にないけど」

「よかった。さっき帰りの会で言ったバスレクのことだけど、ちょっと話し合っていかない? すぐに終わるから」

「いいよ。藤城君って、いつも『すぐに終わるから』って言うよね」

 美耶に言われて皐月は初めて「すぐに終わる」が口癖だったことに気付いた。確かに自分は何でもすぐに終わらせないと気持ちが悪くなる性分だ。

「そうだっけ? さっさと終わらせて、さっさと帰りたいじゃん。筒井も早く家に帰りたいだろ?」

「私はそうでもないよ。楽しい時間だったら、ずっと続けばいいなって思ってる。藤城君は家にいる時間が一番楽しいんだね」

「そういうわけでもないんだけどね……。俺だって楽しい時間は長く続けばいいなって思うよ。修学旅行実行委員の仕事だったら下校時間ギリギリまでやってもいいって思ってるし」

 皐月は家で一人でいる時よりも、こうして美耶と一緒に実行委員をしている方が楽しいと思っていた。


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