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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第三章 鬼の鼓動
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影仁の闘い

 影仁は亮の亡骸をしばらく見つめていた。恐ろしく強い敵だったが、最後はあっけないものだった。これが己の力を過信し、思考を放棄した者の末路ということか。影仁の表情には微かな憐憫れんびんが混じっているようにも見えた。


「……影仁さん」


 影仁が前を見ると、薫が階段を降りてきていた。影仁の背後には、雅人と由夢がゆっくり歩み寄って来ている。影仁は壁際に寄り、雅人、薫、由夢が視界に入るようにした。一人一人の顔を見回すと頭を下げる。


「心配をかけた」


 薫は目を丸くし、健気に微笑んだ。


「いえ、無事ならそれでいいんです」


「そうです。私たちは影仁さんを助け出すために来たんですから。最終的には逆にこっちが助けてもらっちゃいましたけど」


 由夢は「あはは」とはにかむ。雅人はなにも言わなかったが、頬を緩ませていた。彼自身、感動的な場面は苦手なのだ。雅人は左耳のインカムを外し、影仁に付けさせた。


「桐崎」


『ああ、君が無事で本当に良かった』


「礼を言う。お前のおかげで仲間が犠牲にならずに済んだ」


『ふふっ。君らしくないね』


 しばらく再会の余韻に浸っていると、雅人が折を見て真剣な表情になった。


「影仁、これからどうすんだ」


「お前たちは、先に戻ってくれ。俺たちの街に」


 由夢は不安の入り混じった表情で影仁を見上げる。


「でも、影仁さんは?」


「俺は鬼人衆のリーダーを倒しに行く」


 影仁は階段の上、玉座へ繋がる扉を見上げた。薫が必死な表情で身を乗り出す。


「それなら、私たちだって……」


「いや、俺一人で行く。あいつは俺の弟なんだ」


「そ、そんな……」


 薫は先ほどまでの勢いを失い、口元を押え後ずさった。


「それに、その力も長くは持たないんだろう?」


 雅人は瞠目した。影仁の今の発言は、明らかに狂鬼化薬のことを知っているようだった。由夢は目を伏せ、薫はスカートの裾をぎゅっと握った。


「お前、なぜそれを……」


「一応は千里鬼眼でずっと見ていたんだ。あのときは自我がなかったが、今なら分かる」


 影仁は、僅かに眉尻を下げ顔を伏せる。しばらく沈黙が続いた。やがて、影仁がなにかを決心したかのようにまっすぐ顔を上げると、強い眼差しで三人を見回し深々と頭を下げる。


「『最後』に礼を言わせてくれ。ここまで尽くしてくれて、仲間になってくれて、ありがとう」


 それだけを一方的に告げると、影仁は彼らに背を向け、ただ一人城の奥へ進むのだった。かつてない清々しさを胸に。


 影仁は、両手に鋼鉄のトンファ―、腰に細剣を携え、城の最奥へと向かった。玉座の間に辿り着くと、玉座には宗次が腰かけ目を閉じていた。影仁はすぐに理解する。宗次は寝ているのではなく見ているのだ。千里鬼眼で。宗次はボロボロな鈍色のマントを羽織り、その内側にヨレヨレの旧式戦闘服を着こんでいた。かつてレジスタンスとして戦場を駆け巡っていたときのものだ。影仁はそのあどけなさが残る顔立ちと、かつて自分も着ていた戦闘服に懐かしさを感じていた。荘厳な覇気を纏ってはいるが、体は五年前から成長しておらず服はぶかぶかなまま。

 影仁がしばらく立ち尽くしていると、宗次はゆっくり目を開けた。


「やあ、兄さん。ちゃんと鬼人になれたみたいだね」


 宗次は目を細め微笑を浮かべる。その表情にはなんの画策もなく、純粋に喜んでいるように見えた。影仁は、微かに眉をしかめ低い声で応える。


「こんな力、欲しくなどなかった」


「そうかい。それは悪かったよ。僕も寂しかったんだ」


 宗次は困ったように笑いながら肩をすくめる。影仁は、宗次の能天気な反応に苛立ちを覚え、鋭い眼光を突き付けた。


「知ってることを全て話してもらう」


「まぁ、僕が知っているのは千里鬼眼で得た情報を、自分なりに推理したものぐらいだけどね」


 影仁の険しい表情に、宗次も改まったような真剣な表情で応える。もたれていた背をまっすぐに伸ばし、影仁の方へ身を乗り出した。

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