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蠱毒の鬼 -シンギュラリティオブオーガ-  作者: 高美濃四間
第二章 激動
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再生医療

「――先に行っとくぞ、光汰」


 朝の博奈高校、二年生の教室。光汰は、自分の机を漁りながら友人たちに空返事をする。一限目は移動教室だが、光汰は自分のペンケースがないことに気付き、探していた。


「どこいったんだよ~」


 なかったとしても近くの席の人に借りればいいだけなので、そこまで深刻に考えてはいない。


「伊刈くん、どうかした?」


 光汰は背後からかけられた女子の声に振り向く。


「え? あ、弓岡さん」


 光汰は少し驚いた。学校ではあまり関わらないようにと言っていたのは薫だったからだ。


「急にごめんね。もしかして、このペンケースって伊刈くんの?」


 そう言ってペンケースを差し出してくる。


「おっ、そうそう、これ探してたんだよ。ありがとう!」


 光汰はほっとしたように笑みを浮かべ、それを受け取ろうと手を伸ばす。

 すると、薫は辺りを見回し、誰もいないことを確認してから小声で囁いた。


「昨日の深夜三時頃、また死鬼が出たって桐崎さんから連絡があったわ」


 「え?」と光汰はペンケースを持ったまま固まり、薫に目を合わせた。


「くれぐれも注意するようにって。雅人さんのときも突然だったし、伊刈くんも気を付けてね」


 薫は早口にそう言うと足早に教室を出ていった。そして、光汰は一限目の授業に遅刻する。


 放課後、光汰が一人で帰ろうと正門を抜けると、浮かない顔で俯いている藍が待っていた。


「コウくん」


「あれ? 藍、どうしたの?」


 光汰は目を丸くして問うた。その日は特に藍とは帰る約束をしていなかったからだ。カップルであれば、毎日二人で下校することもあるだろうが、この二人の間では予約制であった。お互いの交友関係に影響を及ぼさないためだ。


「う、うん。ごめんね急に」


 藍は愛想笑いを浮かべる。なにか悩みがあるように見えた。


「大丈夫だよ。じゃあ帰ろっか」


 二人は歩き出す。藍は、少しそわそわと光汰の方を見ては口を開きかけ、またすぐに俯くということを繰り返した。しばらく二人とも黙って歩いていたが、耐え切れなくなった光汰がようやく口を開いた。


「なにかあった?」


 藍はビクッと肩を震わせる。


「え、えっと……コウくん、薫ちゃんと仲良かったんだなって思って」


 「んん?」と光汰は目を白黒させる。思いもよらない話題だった。


「えっとね、一限目の授業の前、コウくんと薫ちゃんが二人っきりで密着して話してたって隣のクラスの友達から聞いて……」


 光汰はダラダラと冷や汗をかき始めた。


「い、いや失くしたペンケースを届けてくれただけだって」


「あ、そうだったんだ。薫ちゃん優しいね」


 藍は緊張がとけたかのように顔をほころばせた。なんとか危機を回避しようとした光汰は、深く聞かれる前にと露骨にテンションと話題を変えた。


「そ、そうだ! 来月、遊園地行かない? 最近バイトしてお金貯まってるんだ」


 あまりにもわざとらしかったが、光汰を信じている藍は気にせず、「ゆ、遊園地……」と目を輝かせる。光汰は藍の嬉しそうな反応に心底安堵し、彼女の純真さに感謝するのだった。


「――半鬼狼や死鬼と関係があるのかは分かりませんが、不可解な情報を得ました」


 ムサシの会議室、姫川が神妙な面持ちで清悟に資料を渡す。時間はもう十八時を過ぎているが、姫川が外勤での調査から戻って来るや否や冷静さを欠いた様子で清吾の席まで駆け寄ったのだ。「有益な情報を得た」と。悠哉は外勤で遠方まで調査に行った後、そのまま帰宅するようになっているため、ここにはいない。

 清悟は食い入るように資料に目を通し始めた。


「交通事故にあった少年?」


 そこには桜山病院に入院していた患者の名前が載ってあった。


「はい。彼は数ヵ月前、交通事故で脊髄損傷を負っているんです。しかし、それがあるとき急に完治しています」


「だがそれは、医師の誤診だったと書いてあるじゃないか」


 清悟は眉を寄せ、解せないといった様子で姫川を見つめ返す。


「ええ。そうは言っているのですが、調査したところ不可解な点が多いです。当時の関係者は多くのことを語ろうとせず、まるで情報規制されているかのように、誰に聞いても同じ結論しか出てきません。それで秘密裏に当時の情報をかき集め、別の病院の医療関係者に確認したところ、彼は脊髄損傷であった可能性は高いという結論が出ました」


 清悟は腕を組み、眉間に皺を寄せて唸る。


「もし、少年が脊髄損傷であった場合、数日で完治して退院したとなると……」


「『オニノトキシンによる再生医療』です」


「……分かった。明日、内村にもこのことを話そう。で、夕方にこの少年と接触するんだ。最悪、戦闘になるかもしれない。念のため、戦闘員にも何人か声を掛けておいてくれ」


 清悟の表情は曇ったままだったが、立ち上がり指示を出した。


「はい」


 姫川は立ち上がると、今一度少年の名前を確認した。『伊刈光汰』の名を――

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