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第3話 冒険者エリス

 一口に魔術と言っても、いくつかの種類に分けられる。基本的には火、水、土、風、雷、光、闇の七種類である。ただ、光と闇に関しては使用者が滅多にいないため、多くの魔術書では五種類として分けられる。


 しかし、それも厳密には間違っており、回復術(ヒーリング)やら筋力強化(ブレイブ)やら、それらに当てはまらない魔術が存在する。


 そのため、名のある魔術師による書物では魔術を属性ではなく、攻撃、防御、制御、回復、強化の五つに分類している。


 だが、それすら間違っている…なんて、いたちごっこのように議論が繰り返されているようで。


 さて、それでは何故魔術を分類しようとするのかというと、魔術師それぞれに、得手不得手があるからである。


 魔術とは可能性であり、望みを叶える手段であり、過程であり、結果である。であるなら、魔術師の心の奥深く、最も強く望むものによって、その魔術師の得意な魔術、不得意…あるいは使用不可能な魔術は変わってくるのだ。


 心に安らぎを求めるなら水が、熱い闘いを求めるなら火が、誰かを救う慈悲の心があるのなら光が、誰かを陥れようという憎悪があるのなら闇が。


 その中でも、望みを叶える手段が戦いなら攻撃が、自らやその周りを守るのなら防御が、何かを操り画策しようとするなら制御が、傷を恐れ癒しを求めるのなら回復が、自ら強くあろうとするのなら強化が。


 もちろん、どれか一つだけというわけでも、それ以外を求めるなら使えないというわけでもない。深層的な望みに近いものが得意として、遠いものが不得意として現れるのだ。


 事実、闘争心の強い者には攻撃魔術や強化魔術が、他者を思いやる者には回復魔術の使い手が多い。それらが回復魔術、あるいは攻撃魔術を使えないというわけではないが。


 さて、それではエリシアの魔術適正は、深層的な望みとは何なのか。もちろん、それは『愛』であろう。


 愛による他者との関わりを求め、愛による熱い包容を求め、愛による慈悲を求め、また、自らを愛さない人々を、世界を恨む。


 そのために、武功を挙げようと、他者からの悪意から自らを守ろうと、他者が自分を愛してくれるようにしようと、隠している心の傷を癒そうと、あるいは二度と傷つかないように強くあろうと。


 皮肉にも、愛を感じられないその環境が、他者から忌み嫌われるその環境が、あらゆる魔術を行使する稀代の魔術師を生み出したのだ。


 エリシアが魔術に出会ってからもう一年が経つだろうか。初歩的な魔術にはもうほぼ習得したと言っても過言ではない。それに、そこから一歩進んだものにまで手を出している。


 これは、師を持たず魔術書という、文字と記号と図面のみの情報伝達物での独学というならば異様な早さである。もっとも、睡眠時間と食事の時間、それと時折ある父からの用事以外の時間を魔術に費やしているため、当たり前といえば当たり前だが。


 使える魔術が強くなり、規模が大きくなれば、さすがの広さを持つ書物庫でも限界がある。そこで、中庭や屋敷の裏にある森での行使を考えたが、使用人や兵士の目に留まる恐れがあるため、断念した。


 どうすればいいか、と考えたエリシアに妙案が浮かぶ。それならいっそ、屋敷の外に出てしまえばいいのではないかと。それなら魔術の使用に困ることがないし、実(・)戦(・)も(・)経(・)験(・)で(・)き(・)る(・)か(・)も(・)し(・)れ(・)な(・)い(・)。


 今まで覚えた魔術を使えば、バレずに屋敷から抜け出すなど造作もないであろう。それに普段、書物庫にだけ入り浸っているエリシアが姿を消したところで、それがバレるとは思えない。


 それなら、と。エリシアは早速行動を起こす。思い立ってからが早いのがこの少年の美点である。


 風魔術で息や足音を消し、光と闇の魔術で陰影を作り、目立たぬように行動する。正門の真正面からなんて馬鹿なことはせずに、外壁の特に薄暗いところから風魔術で宙へと浮かび外へ飛び出す。屋敷からの脱出は案外簡単に成功した。


 現在、エリシアが最も得意としているのは風魔術といえるだろう。最初に成功させた魔術というのはもちろん、書物庫の中で使うなら、火、水、土、雷なんて滅多に使えないからだ。本が悪くなってしまう。


 そのため、風魔術、次点で光と闇を得意としている。


 屋敷から抜け出した少年を朝日が照らしている。


 その少年は髪と瞳が目立たぬようにと白いローブを深く被っている。






 エリシアが始めに向かったのはこの街に存在する冒険者ギルドである。エリシアが読んだ本によれば、冒険者とはいわゆる何でも屋で、人探しから魔物退治まで幅広く受け持つ職業だという。


 命の危険を伴う仕事も多いため、上位の冒険者は、それこそ軍や騎士団の実力者とも引けを取らない、あるいはそれ以上の実力を持つこともあるという。


 それに加え、冒険者ギルドへの登録は素顔がわからなくても、偽名でも可能であり、エリシアが魔術を磨くには打ってつけな場所であるといえる。


 早速冒険者ギルドへと向かい、建物へと入る。まだ朝も早いため、人は疎らであった。


 エリシアは受付嬢へ話しかける。


「ギルドへ登録したい」


「かしこまりました。それではお名前と役職(クラス)をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


 役職とはそのまま、パーティを組んだ際の役割のことである。エリシアならば、当てはまるのはそのまま魔術師であろう。


「役職は魔術師で、名前はエリ…えっと、エリスだ」

「魔術師のエリスさん…ですね。かしこまりました」


 冒険者登録の証である金属製のプレートを渡されると、受付嬢がエリシアへと呟いた。


「女性の冒険者というのは、ものすごく大変なんです!これから辛いことがいっぱいあるかもしれませんが、私はいつでも相談に乗りますからね?気軽に話し掛けてください!」

「あ、ああ」


 ローブで顔が見えないため、名前と声変わりもまだしていない声でエリシア、ないしエリスを女だと判断したらしい。訂正するために、姿を見せるのも面倒なため、エリシアはそのまま女ということで通すことにした。


 

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