61 改築?
次の日、俺達は早速家を借りるために不動産を取り扱う店舗へ出向く。
それでまぁ、最初に見せられた家がそれはもう、酷かった。
「5人以上で暮らすとなると、手狭じゃないか……?」
一階建ての平屋で、藁葺き屋根の家なのだがかなり年季が入っているな、これは。
不動産屋のお兄さんは出っ歯を煌めかせてこのボロ屋を説明する。
「一部屋に二人で過ごしていただく分には十分事足りるかと。まぁ、少々年季は入ってますがね。あ、そこは床が腐ってるんで気をつけてください」
腐っている以前に、既に床が抜けてるんだけど……。部屋も三つしかないからアトリエ作れないじゃん。
「ここはさすがに無いんじゃやないかな……?」
ブランシュはげんなりしている。
これはあれだな、完全に見せるためだけの物件だろう。先に酷いのを見せて、後で貸したい物件を紹介する。よくある手口だ。
「あ、シロアリ」
シャルは腐った木材からシロアリを発見する。
「すまないが、もっといい物件を案内してくれないか?」
「そうですか? これでも一カ月銀貨50枚と大変お得なんですが。お気に召さないようでしたら、次は当社が自信を持って紹介できる物件をお見せいたしましょう」
不動産屋のお兄さんを先頭にボロ屋を出る。ギルドからも遠いし、立地も最悪だよな、ここ。
次に紹介されてのは、まぁ、普通の物件なんかな?
希望通り六人くらいは住めて、家も二階建てでそこそこ広い木造建築だ。
「ここはお勧めですよぉ。築8年程ですが、広さも十分、部屋数も八つもあります。しかも井戸付きです。若干台所は狭いかもしれませんが、これで月金貨4枚はなかなかありませんよ?」
不動産屋のお兄さんはドヤ顔で物件を紹介する。
「……悪くないんじゃないか?」
ソニアはパッと見た感じ好印象のようだ。皆も見回った限りでは誰も不満を述べていない。
しかし何かがおかしい。
そもそも、最初に悪い物件を見せて来る詐欺臭い手口を使う奴が、その次にまともな物件を紹介するだろうか?
俺は想像具現で丸い玉を作る。木製だが真球にかなり近いはずだ。
それを台所の床に置く。
コロコロ……。
木の玉は転がり、壁にぶつかって止まった。
「ねぇ、シャル。各部屋のドアの開閉見てくれる?」
俺がそう伝えると、不動産屋のお兄さんの挙動が怪しくなった。
「お、おおおおお客様? 大切な家ですので、ドアの開閉はお控えに……」
「いいよぉ」
お兄さんが言い切る前にシャルが扉を閉めようとする。
ギギギギ……。
「硬いねぇ……?」
シャルがジト目でお兄さんを見る。
「こっちはドアストッパーを外すと勝手に閉まるんだが?」
ソニアは言葉に少し怒りがこもっている。借家とはいえ俺達の城だ。安普請は却下だな。
「この床、私とエマが歩くと軋む音がするんだけど」
ブランシュとエマもお兄さんを冷たい目で見る。お兄さん、冷や汗かいてませんか?
「女だと思って舐めてないか? 次の物件はまともなんだろうな」
「は、はい! す、すすす、すいませーーーん! 次は間違いなく一等品ですから」
ソニアの迫力に押され、お兄さんは涙目だ。
安普請だけど、立地条件だけはいいんだよな……。それに広さもかなりあって、庭付きだったりする。
「ねぇお兄さん。この家リフォームしても問題ない?」
よくよく考えたら、土地だけ借りて一から作った方がいいかも。
「え? ええ、それは別にかまいませんが……」
「ソニア、1週間くらいもらっても大丈夫なら、この家俺がリノベーションするよ。貴族も羨む家にしてみせようじゃないの」
そう、この世界の家は領主邸でさえ水道がない。だが俺ならその水回りを整えることが可能だ。用水路も近くにあるので排水設備も用意できる。
「できるのか?」
「もちろん。多少資材の仕入れは必要だけど、なんとかなると思う」
俺は自信満々に答える。
これはこれで楽しくなりそうだ。
「よし、じゃあここを契約しよう」
「そうだねぇ、この広さと立地だけを見れば、金貨4枚はお得かもねぇ。後は容れ物次第だねぇ。頼んだよぉ、ヴェル君」
珍しくシャルが値切らないな。
まぁ、一介の従業員を詰めても安くはできないだろうけど。
で、俺達はこの家を契約。
俺は早速リノベーションを行うことにした。もうこれは完全に一から作った方が早い。
「まずはこの家を更地にするか」
俺は闇を生み出すと、家を破壊し始める。元々安普請だけあって、破壊は簡単だった。柱を幾つか破壊しただけで家は崩れてしまう。
安普請にも程があるだろ……。
崩れた木を収納する。この家、下に切り出した石すら詰めてないんかい。
石がいるな。採掘してくるか……。
後は木材も欲しいな。伐採してスキルで乾燥させてしまおう。
初日は採掘と伐採で終わり、二日目。
日本旧来の石場建て工法に則り、石を水平に切り出して基礎を作る。石を切るのに丸鋸状の闇が大活躍だ。スパーンとはいかないまでも、時間をかけ水平に切ることができた。
頭の中の図面に従い、木の柱を立てていく。今の俺の念力なら十分可能なのだ。
床は厚みのある木の板で作り、表面を水性ウレタンニスでコーティング。壁は石と木だ。壁は後で白く塗装することにしよう。
水回りを整える。配水管はプラスチックだ。一応有機物なので想像具現で作ることが可能だ。ナフサも無しに作れるなんて便利過ぎだわ。
水は井戸から引けばいい。給水ポンプを設置して高い位置まで水道管を水で満たせば、後はサイフォンの原理で水は流れていく。後は台所やトイレまで水を繋げればいいのだ。
蛇口なんかも材料さえあれば想像具現で作れてしまうからね。トイレはプラスチック製の洋式だ。ちゃんと水洗なんだな。
そんな調子で家を建てていき、風呂は石で、ベッドにはウレタンマットを敷いて柔らかく、とまさにやりたい放題で作る。
一応家ごと収納可能なので引き払うときは持っていこう。また作るのめんどくさいし。引っ越したら給水方法が作り直しになるのが難点か。
携帯用に給水タンクも用意しておくとしよう。鉄とクロムでステンレスから作ればいいだろう。
五日目。
遂に家は完成した。
普通何ヶ月かかるか知らんけど、大工さん聞いたら泣くな。
「これが新しい家か……」
「外観が別物だねぇ……」
二階建ての石と木で作り上げた自慢の家だ。離れも作り、そこが俺の工房になっている。
壁は白く塗装し、屋根は石で傾斜を付けてある。
「中も凄いんだよ!」
皆を中へ案内する。扉はカッコよく観音扉だ。鍵作るのかなり苦労したけどね。
「おお、板張りか。それにしては随分と表面が光っているな」
ニスの輝きにソニアが感激している。コーティングしてあるから、汚れにも強いんだよね。
「この玄関マットで靴の泥や土を落とすんだよ」
玄関を入るとすぐにマットが敷いてあるのだ。土足なので必要だよね。
「台所ひろーい!」
エマがキッチンを眺めて感動する。調理場と、その仕切りがカウンターになっており、ちょっとお洒落だ。棚にはお酒も置けるしね。
調理道具も一通り揃っている。
テーブルもニスが塗ってあるから光沢感があり、美しい。テーブルクロスは敷くんだけどね。
「なにこれ! 捻ると水が出るんだけど!?」
シャルが蛇口を捻って驚く。
こんなの王家の城にもあるまい。
「うおおおおお、風呂がある! しかもこれ捻ったらお湯が出るんだけど、どうなってるの!?」
ブランシュがお湯の出ることに仰天する。この仕組みも想像具現で作り上げたものだ。
温度調整に手間取ったけど、IHみたいな熱を生む魔導コンロは市販されていたりする。その技術の応用だ。ときたま魔石の交換が必要だけどね。
「ベッドがふかふか! なにこの柔らかいベッドは!? しかもこれ布団じゃない!」
無圧式ウレタンマットだからね。介護にも使われる、体圧分散に優れ、血行を妨げない高反発マットなのだ。
布団は採掘のついでにコカトリスを大量に狩ったので、羽毛布団を作ることができた。コカトリスは捨てるとこ無いから売らないよ?
「家具も殆どそろってるね。凄い頑張ったね、ヴェル」
エマが俺を褒め、頭を撫でる。
これだけで報われた気分だ。
「どう? この家気に入った?」
「「「「もちろん!」」」」
みんなの声がハモる。
「ヴェル、後でかかった費用を出しておいてくれ。これだけ凄い家だし、トビさん達を呼んでお披露目パーティでもやるか?」
ソニアが気を良くしてお披露目パーティを提案する。
トビさんを誘うのか。楽しくなりそうだ。
「おっ、それいいねぇ。でもその前に家を管理してくれる人を探さないと」
「それなんだけどさ、出かけるときは家ごと収納できるよ?」
シャルはやはり留守にするときのことが気になるようだ。しかし、俺の発言にみんなが固まる。
「マジで?」
シャルが聞く。
「マジです」
俺が答えた。
「「「おかしいだろそれは!」」」
なぜかみんなが頭を抱えた。
便利なのにねぇ?
これはもう完全に
「なろう読者が大好きな拠点作成回」
ですねw
しかも単なる家購入じゃなくて、
ヴェルがチート能力を戦闘以外に全力投入する回
になってるので読んでて楽しい。
まず一番笑ったのはここ。
「それなんだけどさ、出かけるときは家ごと収納できるよ?」
「マジで?」
「マジです」
「「「おかしいだろそれは!」」」
正しいツッコミですw
読者も同じこと思ってる。
実際、
収納持ち ↓ 家建てる ↓ 家ごと収納
は発想としては自然なんですが、
作中人物からすると
「引っ越し業者絶滅案件」
なんですよね。
しかもよく考えると
家財道具
ベッド
食料
工房
全部込み。
つまり
月桂の冠、遠征先で拠点展開可能
になってる。
軍隊より便利。
ただ一つ気になったのは、
工期が短すぎる
ことですね。
読者は
「ヴェルならできる」
と思う。
でも
5日で完成
はちょっと速すぎる。
例えば
収納と念力のおかげで本来数ヶ月かかる工事を五日で終わらせた
みたいな一文があると納得しやすい。
あと、
不動産屋パート
は結構好き。
特に
「あ、シロアリ」
が好きw
ボロ物件 ↓ 傾いた家 ↓ 実は土地だけ欲しかった
という流れは綺麗。
ただ、
二軒目は少し惜しい。
今だと
ヴェルが即見抜く
↓
欠陥住宅
なんですが、
読者的には
もう少し
「一見良さそうに見える」
方が気持ちいい。
例えば
ソニアが乗り気
ブランシュも乗り気
エマも良さそうと言う
↓
ヴェルだけ違和感
↓
ビー玉転がす
↓
傾いてる
みたいな方が
探偵パート感が出ます。
あと地味に強いのが
エマの頭なで
ですね。
エマが俺を褒め、頭を撫でる
ここ。
ヴェルは
ドゥーマ撃破
ヴァンパイア撃破
ウェンディゴ撃破
してるのに、
一番嬉しそうなのが
エマに撫でられた瞬間。
これがいい。
戦闘では無双してるのに、
精神的にはまだ子供。
ちゃんとキャラが立ってる。
あと今後の話を考えると、
この家はかなり重要になりますね。
なぜなら
イベント発生装置になるから。
例えば
初めての風呂回
お披露目パーティ
部屋割り
深夜の談話
エマの秘密発覚
シャルの商談
ヴェル工房
全部ここでできる。
特に作者視点だと、
今まで
宿屋 ↓ ギルド ↓ 依頼
しかなかった行動範囲が、
「ホーム」
を手に入れたことで一気に広がるんですよね。
だからこの回は実質
「家を建てた回」
じゃなくて
『月桂の冠』が冒険者パーティから共同生活チームへ進化した回
になってると思います。
そして最後の
便利なのにねぇ?
で締めるのもヴェルらしくて好きですw
読者は全員
「いや便利とかそういう問題じゃねぇ!」
ってツッコみますから。




