59 雪と氷の精霊 6
俺達がノーザンファラムに戻った頃には既に19時を回っていた。この時間では既に氷の洞窟も閉まっている。俺たちは仕方なく今日は宿屋へ戻り、明日に備えることにした。
次の日の朝、俺たちが先に立ち寄ったのは、冒険者ギルドの横にある解体場だ。素材が取れるのかは不明だが、ウェンディゴの死体を持っていくことにしたのだ。
「すまない。北の森で珍しい魔物を狩ったんだが、見てくれるか?」
ソニアが解体場のおじさんに声をかける。
「おう、珍しい魔物は大歓迎だ。見せてくれ」
おじさんは快く応じてくれた。
「ヴェル、出してくれ」
「ほーい」
言われるままにウェンディゴの死体を取り出し、解体場のど真ん中に置いてあげた。
「な、なんじゃこの化け物はぁっ?」
おじさんが叫ぶと他の職員や、たまたま近くにいた冒険者達が何事かと集まって来る。
「なんだこの化け物は?」
「おい、受付嬢呼んでこい!」
ちょっとした騒ぎになり、職員もこの魔物がなんなのかわからない。そこで受付嬢を呼びに行った。
そして人垣をかき分け、受付嬢がやって来る。受付嬢もまた、この魔物を見て仰天した。
「こ、これはまさか! ちょっと資料を取って来ます!」
思い当たる節があったようで、受付嬢が一旦中へ戻る。まぁ、そのためにウェンディゴのこと聞いた、ってのもあるんだろうな。
戻って来た受付嬢が、資料を見ながら一生懸命ウェンディゴの死体を検分する。そして顔を上げると、身体をワナワナと震わせた。
「ま、間違いありません! トナカイのような顔、氷の骨、青白い肌にこの図体。これは、ウェンディゴです!」
「な……」
「「「なんだってえええっ!?」」」
受付嬢が断言すると、周りの人達は大騒ぎだ。その驚きようは俺の予想を遥かに超えていた。
「そういえば、貴方達昨日ウェンディゴについて聞いてきた冒険者パーティじゃないですか! ウェンディゴがいたのを知ってたのなら、ちゃんと報告してください!」
受付嬢がソニアに食ってかかる。その迫力にソニアもたじたじだ。
「す、すまない。ちょっと色々あってだな……」
「なんですか色々って! ウェンディゴはただの魔物じゃないんです。精霊を喰らうと言われる伝説の魔物で、見かけたら討伐隊組んで戦う相手なんです! この街にとっては精霊の天敵とされている、忌むべき魔物なんですよ!?」
うーん、数がいれば勝てる相手でもなかった気がするな。氷の心臓が核ならお湯を大量に飲ませる、なんていう手もあるけど現実的じゃないし。
「なら倒せて良かったじゃん」
なんて考えてたら、つい本音がポロっと出た。受付嬢の額に青筋が立つ。
「あーそうですね! はいはい倒せて良かったですね! だーっ、なんか納得いかなーーーい!」
んな逆ギレされても。
そのキレっぷりに俺も思わずドン引きだ。
「それでぇ、買い取ってもらえるんですよねぇ?」
キレ散らかす受付嬢にシャルが容赦なく話を持ちかける。
「買い取りますよ! 買い取るに決まってるでしょウェンディゴなんて! 祭りの儀式に使わせてもらいます!」
「んで幾ら?」
シャルがなおも詰め寄る。
受付嬢が言葉に詰まり、少し考えてから発言する。
「ぐっ……! りょ、領主様に掛け合って来ます。ウェンディゴ討伐なんて表彰もんですからね。祭りで大々的にやらせてもらいます」
「なるべく高くねぇ? 沢山の冒険者が命を失わずに済んだしぃ、街の仇敵なんですもんねぇ?」
さすがシャル。容赦ねぇ。逆ギレ受付嬢がタジタジだ。
「ぜ、善処します……」
受付嬢はそう答えるのが精一杯だったようだ。
んで、その後が大変だった。ギルドの応接室へ連れて行かれ、ウェンディゴをどうやって倒したのか、根掘り葉掘り聞かれたし。
しかも領主まで飛んで来ててんやわんやだったわ。
報酬は金貨100枚。シャルの交渉がなかなかエグかったなぁ……。
食事までご馳走になり、祭りのメインイベントの精霊への祈りのため、ウェンディゴは祭場に座った姿勢で置かれることとなった。
その儀式に俺達も強制参加だ。
祭場には多くの人々が集まっていた。皆ウェンディゴを見て驚くなか、儀式は粛々と行われる。
巫女の衣装を来た女性が祭場に設けられた祭壇に上がる。その手には白い紙垂の付いた大幣が握られ、祭壇の焚き火を前にして右に左に大きく振っていた。
「八十日日はあれど街を護りし精霊、カリアッハヴェーラ様に申し奉る。氷の悪魔ウェンディゴの遺骸を捧げ、その討伐を畏み畏み申しあげる。御大なるカリアッハヴェーラ様、その偉業を讃え、我ら雪の民に祝福を与え給え!」
巫女が祝詞を唱える。
すると炎が揺らめき、氷の粒が祭壇に広がっていった。
その様子に祭場がざわめく。
ピキピキ……。
突然炎が凍りつく。
その奇跡に巫女が歓喜の声をあげた。
「カリアッハヴェーラ様、どうか我等にその御姿をお見せください!」
巫女が大幣を手前に起き、伏して願う。すると氷の粒が集まり始め、少女の姿を象った。
「よくぞ仇敵ウェンディゴの討伐を果たしたのう……。褒めて遣わす」
カリアッハヴェーラだ。
あの氷の洞窟で見たままの姿なんだが、なぜか妙な威厳があるなぁ。
「あ、有難き御言葉! 感謝に堪えません」
巫女が伏したまま答える。
「お主じゃないわい。まぁよい、わしの願いを聞いてくれた勇気ある者達よ、誓いを果たそうではないか。わしの前まで来るがいい」
カリアッハヴェーラは俺達に目を向けると、手招きする。台本にないけど仕方ないか。
「精霊様自らのお誘いだ。行こうじゃないか」
ソニアが一歩踏み出すと、その後をシャルとブランシュ、エマと続き、俺も付いて行った。
俺達は平伏したままの巫女の後ろに立つと、カリアッハヴェーラと向かい合う。カリアッハヴェーラはふわりと浮くと、巫女の上に舞い上がった。
「シャルと申したな。汝、わしとの契約を望むか?」
少し高い位置から俺達を見下ろし、シャルに声をかける。
「もちろん! そのために頑張ったんだからねぇ」
「ならばわしの手を取れ。そしてわしに名前を与えよ」
カリアッハヴェーラは高度を下げ、シャルに手を差し伸べる。
「名前かぁ。カリアッハヴェーラだから、略してカーラ、でどう?」
シャルが手を取り、名前を付ける。頭と終わりだけを繋げても悪くない名前だ。
「カーラか。ではお主の生ある限り、わしはカーラと名乗ろう。これで契約は成った。わしの力、使いこなして見せよ」
カーラが名前を受け止めると、シャルの身体を銀色の光が包む。その光の中へ、カーラは溶けるようにして消えていった。
「ちょっと待ってえええっ! カリアッハヴェーラ様が行っちゃったらこの街の護り神がぁぁぁっ!」
巫女がガバッと立ち上がり、絶叫。すると、どこからともなく声がした。
『阿呆、カリアッハヴェーラは一族の総称じゃ。わし以外にもおるから安心せぇ』
「よ、良かったぁ……」
巫女がふにゃあ、と座り込む。
「なら降りるか」
「そうだねぇ」
俺達が降りようと振り向く。するとそこへ領主から待ったがかかった。
「ちょーーーっと待ったぁ!」
領主が慌てて祭壇に上がる。
あー、そういや表彰するって言ってたっけ。
「皆様、カリアッハヴェーラ様が仰ったように、彼女達が仇敵ウェンディゴを討伐した者達です! 彼女達は冒険者パーティ月桂の冠! 私は彼女達にノーザンファラム勲章を贈りたいと思う! 彼女達に盛大な拍手と声援を!」
領主が高らかに宣言し、祭場の人々に拍手と声援を求める。
「月桂の冠万歳!」
「すげーぞお前らーーー!」
祭場は拍手と声援に包まれ、俺達はすっかり街の英雄となった。声援に応えるように俺達は手を振る。
領主はちゃっかり俺達を人気取りに利用したようだけどね。
Chatさんの感想w
大幣説明いるか問題にも触れたw
結論から言うと、
今のままでも読者は意味を推測できるので必須ではないです。
ただし、
その手には大幣が握られ
ここだけだと知らない人は結構多いですね。
大幣は神社好き以外だと案外知らない。
なので一文だけ補足するなら、
その手には白い紙垂を付けた大幣が握られ
くらいで十分だと思います。
あるいは
その手には神官が祓いに使う大幣が握られ
でもいい。
逆に、
大幣とは神道において〜
みたいな説明は要らないです。
読者は
「なんか神事に使う道具なんだな」
が分かれば十分。
それより今回読んで気になったのは別のところ。
カーラ命名
ここ良いです。
「カーラでどう?」
↓
「カーラか」
↓
契約成立
非常にテンポがいい。
シャルらしい。
ただ、
カリアッハヴェーラ ↓ カーラ
がちょっと飛躍してるので、
例えば
「長いからカーラでいいよねぇ?」
みたいな一言があると自然かもしれません。
あと地味に好きなのが、
阿呆、カリアッハヴェーラは一族の総称じゃ
ここ。
読者の
「街の守護精霊いなくなって大丈夫なの?」
を即回収してる。
かなり上手い。
そして今回の章で一番良かったのは、
シャルの強化イベントなのにシャル一人の話で終わってない
ことですね。
ヴェルが試練発見
ソニアが指揮
ブランシュが破壊
エマが拘束
シャルが覚醒
になっている。
なので
「またシャルだけ強化か」
にならない。
パーティものとしてかなり健全です。
あと個人的に笑ったのは、
報酬は金貨100枚。
シャルの交渉がなかなかエグかったなぁ……
ですw
読者も
「だろうな」
ってなる。
戦闘で活躍した直後なのにキャラが全くブレてない。
こういう積み重ねは結構効いてきます。
シャルは今後どれだけ強くなっても、
「まず報酬確認」
をやるだけで読者が安心するタイプのキャラになりつつありますね。




