31 ソニアの手で
「二手に分かれて回り込むよ!」
エマとブランシュ、ソニアとシャルがそれぞれ反対方向から回り込む。
オーガが狙ったのはブランシュとエマだ。身体を二人に向ける。周りは平原だ。逃げ道はない。
「こっち向けよ!」
俺は石を取り出し、念力でオーガにぶつける。しかしオーガは俺を一瞥すると、無視してブランシュとエマに向かって走る。
「くそっ、何かないか!」
オーガは手を広げ、エマを捕まえに行く。
「させない!」
ブランシュがその指めがけ、跳び上がってミスリルアクスを振り下ろした。
オーガの右手の指2本を斬り落とすと、オーガは痛みに手を引く。
さらにブランシュは身体を回転させると、ミスリルアクスをオーガの足首にぶつけた。その間にエマが逃げる。ブランシュも距離を取ろうと後ろへ走り抜けた。
とにかく落とし穴へ。
それが作戦の第一歩なのだ。
オーガは足首から出血。骨には異常ないらしく、ゆったりした動きで後ろを振り向く。やはり小回りは利かないらしい。
オーガは大股で歩き、ブランシュを追う。ブランシュとエマがソニア達と合流した。俺も4人と合流。一箇所に固まる。
恐らく、奴は俺達が固まると、まとめて吹き飛ばそうとするだろう。
さっきみたいに。
「ウガーッ!」
再びオーガが跳ぶ。
やはり来たか!
「散開!」
すぐに全員が散らばる。
俺が逃げたのは上空だ。
オーガが着地する。
地面が揺れた。俺はオーガに接近する。オーガが立ち上がると、奴の顔面まで僅か1メートルだった。
「これでも喰らえ!」
収納から取り出したのは塩酸だ。これ、目に入ると最悪失明するんだよな。丸一日かけてたくさん作ってやったんだ。存分に味わってくれ。
ぶわしゃあっ!
オーガの目に大量の塩酸をぶちまける。
「ガアアアアアッ!」
オーガが顔を両手で覆い、ふらふらと後ろへよろめく。そこにあるのは落とし穴だ。
オーガは落とし穴の上に足を踏み入れる。その自重で魔法の防壁が割れると、オーガは落とし穴に沈む。
オーガは落とし穴に座り込むように嵌った。これで毒の杭が刺さったはずだ。
オーガは悲鳴をあげるが、立てないようだ。
「やった!」
「よし、チャーンス!」
俺は想像具現で水を生成。水球を作り上げ、オーガの顔を覆い尽くす。
「シャル!」
「待ってたよぉっ、氷結烈砲!」
凶悪な冷気の波動がオーガの顔を襲う。オーガの顔にまとわりついていた水は、奴の手ごと氷塊へと姿を変える。
そしてオーガの身体はあちこち腫れ上がっており、毒が回り始めたことを示唆していた。身体にも力が入りにくくなっているはず。
「ソニア!」
「おう!」
俺は念力でソニアを高く持ち上げる。この戦いに終止符を打つ!
それは、ソニアの手で行うべきだと俺は思う。
「いくよ!」
「やってくれ!」
ソニアに運動エネルギーを与え射出。剣を突き出し、オーガに迫る。
身体が痺れるのか、オーガの動きが小さい。これなら!
「うおおおおっ!」
ソニアの剣がオーガの首の付け根に深々と突き刺さる。そして身体を蹴った反動で剣を引き抜き落下。
その勢いでオーガの腹に剣を突き立てた。返り血がソニアの顔を汚す。
ソニアはすぐに剣を引き抜くと、オーガから離れて脱出する。
「もう毒が回っている。凍りついた顔もあれでは壊せまい」
ソニアは剣を振って血を払うと、紙で吹き、鞘に収めた。
「しかし徹底的ね。顔を凍りつかせて窒息死、毒殺、喉を刺して出血多量。危なかったけど、なんとかなったのかな?」
ブランシュが指で死因を数えると、ふぅ、とため息をついた。
それから5分。
「オーガの死亡を確認。収納する」
俺は鑑定でオーガの死を確認。
ゆっくりと近付いて、収納する。
「勝ったんですね、私達」
「そうだねぇ、無策だと絶対やり合いたくないなぁ」
エマは喜んでいるが、シャルはため息をついている。一匹でこれだもんな。複数と出会ったら逃げるしかなさそうだ。
「すまなかったな、みんな。私のわがままにつき合わせて」
ソニアが皆に頭を下げる。
「いいっていいってぇ。それよりどう? 今夜は飲もっかぁ」
「ああ、そうだな。今からなら夜には間に合いそうだ」
俺達が戻る頃には、日は既に落ちていた。ギルドに戻ると時計の針は既に7時半。帰ってきた俺達を見て、冒険者達が集まって来た。
「月桂の冠帰還した。オーガは倒した。遺体は明日にでも引き渡そう」
ソニアが伝えると冒険者達が歓声に湧く。
受付嬢のお姉さんが涙を浮かべ、ソニアに近づいて来た。
「よく、よくご無事で……!」
お姉さんは泣きながらソニアの首に腕を回して抱きつく。
「ああ、心配かけたな」
ソニアが笑いかける。
「おかえりなさい、ソニアさん」
お姉さんは涙を湛えながら、素敵な笑顔を向けたのだった。
Chatさんの感想w
これはかなり良い決着です。
特にタイトルの「ソニアの手で」がちゃんと効いてる。
ここ、単純に「倒した」じゃないんですよね。
ヴェルは最後まで、
指揮
罠
毒
状態異常
補助
射出
を担当してる。
でも“討伐そのもの”はソニアにやらせてる。
これがめちゃくちゃ重要。
なぜなら今回の戦いって、 単なるオーガ討伐じゃなくて、
「ロジェ達が壊れた事件へのケジメ」
だから。
つまりソニアの中では、
同じDランク
同世代
冒険者仲間
止められなかった後悔
全部抱えてる。
だから最後にソニア自身の剣で決着をつける必要がある。
ここをヴェルが雷ドーンで終わらせてたら、 話のテーマが死んでた。
でも今は、
それは、ソニアの手で行うべきだと俺は思う。
この一文で、 ヴェルがちゃんと“空気を読んでる”。
以前のヴェルは、 「俺がなんとかする」 寄りだったんですが、 今は「誰がやるべきか」を理解してる。
ここ成長してます。
あと今回かなり良いのが、 「オーガ攻略が理詰め」なこと。
特にこの流れ。
毒
出血
足止め
視界破壊
落とし穴
杭
凍結
窒息
首刺し
全部積み重ね。
つまり、 「HPを削る」 じゃなく、 「大型生物を殺す」 になってる。
これ、説得力が強い。
しかもオーガが最後まで格を落としてない。
ここ偉いです。
普通だと、 罠にハマった瞬間ザコ化するんですが、
最後まで暴れそう
顔凍らせないと危険
毒だけでは止まらない
ソニアも一撃離脱
近接継戦は危険
って描写だから、 「ギリギリ勝った」 になる。
だから読後感が良い。
あと地味に好きなのここ。
オーガは落とし穴に座り込むように嵌った。
これ。
「完全に落ちた」 じゃないのがリアル。
6メートル級なら、 確かに丸ごと落ちない。
だから、
動ける
暴れられる
でも起き上がれない
っていう絶妙な状態になってる。
うまいです。
あと今回かなり良い改善点は、 ブランシュがちゃんと仕事してること。
以前だと、 火力役以外が空気になりがちだったんですが、
今回は、
指2本を斬り落とす
これがデカい。
「怪物にも人体構造がある」 って戦闘になってる。
しかも、
指を斬る ↓
掴めない ↓
エマ逃げる ↓
隊列再編
って因果が繋がってる。
このへん、かなり戦闘が上手くなってます。
あと塩酸は、 かなり“ヴェルらしい”。
正義のヒーローじゃなく、
「勝つためなら現実的に嫌な手も使う」
っていう、 この作品の味が出てる。
しかも、
丸一日かけてたくさん作ってやったんだ。
ここで努力描写にもなってる。
良い。
あとラストも綺麗です。
「おかえりなさい、ソニアさん」
ここで終わるから、 戦闘の勝利じゃなく、 “生還” がテーマになってる。
受付嬢も、 ずっと止めてたからこそ、 この涙に意味がある。
かなり後味良い締めです。
で、構成面でもここ重要。
このオーガ戦で、 月桂の冠が完全に「一人前のパーティ」になった。
ヴェル→軍師
ソニア→リーダー
エマ→防御・支援核
シャル→殲滅
ブランシュ→機動前衛
役割完成してる。
なのでこの後は、 単純な「強い魔物倒しました」より、
王都方面からの依頼
指名依頼増加
貴族案件
他パーティの嫉妬
ヴェルの危険性認知
に進めると、 自然にスケールアップできます。
かなりシリーズとして“回り始めた感”ありますね。




