盲目の超剣士
四つ子の中で一番重傷だった彼女は、盲目で言語障害が残る結果になった
ローランス大陸のバールズ王国西部の要塞都市ライトが今回の舞台である。
「そう言えばセーイって今何処行ってるの?」
お昼にやっと起きたホークの言葉に、洗濯物をしていたトーウが嫌味を込めて言う。
「ホークと違って、町の道場で剣術を教えるバイトしてるよ」
その言葉に、ホークが首を傾げる。
「喋れないセーイがどうやって指導するの?」
「ソウがフォローしてる。それよりそれも洗っちゃうから脱いで!」
トーウの言葉に、ホークはあっさり全部脱いで渡す。
「着替えは?」
見渡すホークにトーウは、服をナーンが作った自動洗濯装置に突っ込んでから外を指差す。
そこには、四つ子達の服が干されていた。
「まさか乾くまで裸で居ろって言うの?」
ホークが意外そうに言うが、トーウはあっさり頷く。
「これが終わったら、あちきもバイトに行かないとね」
そう言いながら出て行こうとするトーウに跳びかかるホーク。
「その服よこしなさい!」
「少しは八進で大人しくしてなよ、どうせろくな事しないんだから!」
服の取り合いが始まる。
「駐車料の集金です!」
ドアを開けた集金の男性が半裸のトーウと全裸のホークを見て、硬直する。
「これは……」
トーウがフォローしようとするが、集金の男性は鼻血を流して倒れる。
それを見てホークが一言。
「十四歳のガキの裸見て倒れるなんて、情けない」
「そんな事どうでも良いよ! タダ見されたんだよ! そうだ、見た事で脅迫して駐車料金タダにして貰うしかない!」
顔を真っ赤にしながら、必死に恥しさを誤魔化そうとするトーウであった。
「そこで怯んじゃ駄目だって言ってるよ」
軍人を目指す少年達が多く通う街道場で五歳位に見える白髪の少女が言う。
十四歳と見られる事は少ない黒髪、銀眼の少女セーイが頷く。
「解りました」
つい先日まで街道場一の問題児だった少年は大人しく従う。
その後も、セーイは、白髪の少女を通じて、少年達を指導した。
「セーイちゃんは教えるのが上手いね」
正式な師範の言葉に、白髪の少女が胸を張る。
「当然だよ」
しかし、セーイ自身は謙虚に頭を下げる。
「しかし君たちどんな関係なんだい?」
師範の男性の言葉に白髪の少女が言う。
「あたしの父親が仕えていた人の養女がセーイで、小さい頃からの知り合い」
今でも十分幼く見える白髪の少女の言葉にセーイが頷く。
「ところでセーイは何処で剣を習ったんだい?」
別の師範の質問に少し困った顔をするセーイを庇うように白髪の少女が即答する。
「さっき言ったセーイを養ってくれたお母さんが剣術の腕が凄いんだよ」
その答えに、師範の男達が頷く。
「なるほど小さい頃から修行していたんだね」
今度は普通に頷くセーイ。
時計が鳴るとセーイが白髪の少女に目線で合図をする。
「もうトーウを迎えに行く時間だから失礼します。今日もありがとうございました」
白髪の少女の言葉と同時にセーイが頭を下げて、道場を出て行く。
出て行ったセーイを見て師範の一人が言う。
「しかし、若干十四歳で子供にと言っても教えられる程の技量を見につけさせる師匠の女性の技量は只者ではないな」
その言葉に師範達が頷く。
「確かに普通の人間では難しい事だな」
「それでは神様に習ったとでも言うのか?」
その一言に爆笑する一同。
人気の無い裏道に入った所で、白髪の少女が空中で一回転して、白い子猫に変化する。
『トーウが待ってるから急がないとね』
テレパシーでそう言う、人の姿にも化けられる魔獣、百爪のソウ。
セーイが頷き歩き出した時、一人の少女が数人の軍人に囲まれて居るのを見てしまう。
「お国の為に働く我々に対して感謝の気持ちは無いのか?」
軍人の言葉に、少女が首を横に振る。
「そんな事ありません! 大変感謝しています」
すると、別の男が少女の腕を掴んで言う。
「だったらその感謝の気持ちを態度で示してもらおうか」
いやらしい顔をした言葉に、少女が目を瞑る。
周りの人間は当然の様に無視していた。
『本当に近頃の奴等は駄目だな』
ソウの言葉を無視して、セーイが近づいていく。
『駄目だぞ、ヤオの力は戦うものを助ける力だぞ! 戦うものが居ない今、自分の力しか使えないから危険だ!』
ソウが慌てて制止するが、セーイは歩を止めない。
『あの程度だったら、ヤオの力なくても大丈夫だって? 馬鹿言ってるんじゃないよ! セーイ達に何かあったら、お目付け役を仰せつかっているあたしの立場ってもんが無くなるよ!』
セーイは、少女を捉える男の手を掴み、首を横に振る。
その態度に、別の軍人が言う。
「もしかしてお前も俺達に感謝の気持ちを体で示したいのか?」
ソウは溜息を吐いて言う。
『トーウ待たせているんだから、早くしろよ』
セーイは頷いた。
「セーイ遅かったね」
お店の外で待っていたトーウの言葉に、セーイがすまなそうな顔をする。
トーウは手を横に振り言う。
「良いよ、セーイだって仕事だったんだから」
それに対して、ソウがトーウの肩に飛び乗り言う。
『そんな事より、トーウからも言ってやってくれよ。セーイは自力だけで軍人に絡まれていた少女助けて居たんだぞ! 誰かが戦っていればヤオの力も使えるが、あの状態では万が一って事だって有ったんだぞ!』
トーウはセーイの表情を見て、諦めた顔をして、ソウを撫でながら言う。
「駄目だよ、セーイはそういう子だもん。でもセーイ、気をつけて、もし万が一にも怪我したら、その人たちママに殺されるよ」
その一言にセーイも顔を青くして頷く。
『あの親馬鹿だったら有り得るな』
ソウがそう言うとオロオロするセーイ。
「とにかく今回は大丈夫だったんだから次回から気をつけてね」
強く頷くセーイ。
そして、二人と一匹で八進に帰っていくのであった。
「おはようございます」
何時もの如く、通訳のソウをつれて道場についたセーイに師範の一人がすまなそうな顔をして迎えた。
「すまないが、今日からここに来るのは止めてもらえないか?」
その一言に驚くセーイ。
「どうしてですか!」
ソウが詰め寄ると、その師範が言う。
「君が昨日、軍人相手に喧嘩したのはもう聞いているよ。すまないがそういう人間を雇うわけには行かないのだ。これは昨日までのお給料だ」
渡された小額の給料にソウが文句を言おうとしたが、セーイは止める。
振り返ったソウに対して、首を横に振るセーイ。
深々と頭を下げるセーイに渋々通訳をするソウ。
「セーイは、お世話になりました。ご迷惑をおかけしてすいませんって言っています」
そして道場を後にするセーイだった。
近くの公園で、ソウが、落ち込むセーイに言う。
「気にするな、ヤオだってよくバイトを首になっていた。それでもなんとか食っていけたんだからな」
しかしセーイは大きく溜息を吐く。
そこに昨日セーイに指導受けていた少年、パストがやってくる。
「道場を首になったそうですね?」
パストの言葉にセーイが頷く。
「だからって僕に対して指導を途中で止めるなん駄目です。さー指導続けて下さい!」
その言葉にソウが呆れるが、セーイは頷き、打ち込みの練習のマネをすると、パストも理解した様に、打ち込み練習をし始める。
夕方、一通りの練習が終わった。
「指導は続けられないけど、これからの事はここに書いたって」
ソウがセーイの書いたメモをパストに差し出す。
パストはそのメモを払い捨てる。
「そんなもん要らない! 僕はずっと貴女に指導を受けたいんです!」
その言葉にセーイは静に首を横に振り、パストの手にメモを乗せて、その手を優しく包む。
「自分は旅人だから何れこの町を出て行くからそれは、無理。だけど、君の事は忘れないって言ってるよ」
ソウの通訳に、涙するパスト。
「師匠!」
その時、魔法大砲の爆発音が聞こえてきた。
『古き王国制という悪習に囚われるこの国を、我等ボルド共和国が今解放せん!』
人工魔獣に大砲を装備させた魔獣戦車に乗った、ボルド共和国の軍人からの宣戦布告に町民達が浮き足立つ。
そして本来ならその身を盾にして国民を護らないといけない軍人達がいの一番に逃げていく。
「魔獣戦車相手に戦えるかよ!」
「そうだそうだ、剣なんて役に立たない!」
そいつらは、昨日セーイに叩きのめされたあげく、道場にコネを使ってセーイを辞めさせた自称お国の為に働く軍人達だった。
当然町民の避難は遅れ、魔獣戦車の射程に捉えられる。
『これは、正義の戦いである! そしてこの一撃は悪夢を見ている国民を目覚めさせる為の一撃になろう!』
魔獣戦車に搭載された魔法大砲から爆炎の魔法が放たれる。
その着弾点には、親からはぐれた子供が居た。
「放して! 私の娘が!」
母親が必死に助けに行こうとするが、周囲の人間が止める。
「お母さん!」
誰もが少女の死を覚悟した。
爆炎による砂煙が視界を塞ぐ。
そして砂煙が晴れた時、少女を抱えて、壁に打ち付けられていたセーイが居た。
「大丈夫か!」
ソウが慌てて駆け寄る。
セーイが笑顔で少女を母親の元に向かわせるが、本人は立てない様子である。
「馬鹿が、何度も言っているでしょう! セーイ達の力は正しい戦いをする人間が居て初めて使える。それ以外ではセーイ達も普通の人間と変らないんだよ!」
その時、魔獣戦車の魔法大砲がセーイの方を向く。
『勇気はあるみたいだが、その程度の勇気は、真の正義の前では無力だという事を解らせてやる!』
ソウが、本性を開放しようとした時、パストがセーイの前に立ち、練習用の木刀を構えて言う。
「師匠は僕が護る!」
その言葉に、ボルド共和国の軍人が爆笑する。
『そんな木刀一本で、ボルド共和国最新の魔獣戦車に対抗しようというのか?』
パストが頷く。
「師匠が言っていた。武器は単なる道具でしかないって。本当に大切なのはそれを使う強い心。それがあれば絶対勝てるって!」
その言葉に、更に爆笑するボルド共和国軍人。
『馬鹿な師匠だな。まー少女を助ける為に動けなくなる愚かな奴だから仕方ないがな』
そう言って、セーイを見た時、セーイはしっかり立っていた。
驚く、パスト。
「師匠、大丈夫ですか!」
ソウが答える。
「ああ、お前のおかげだよ。お前が正しい戦いをしようとしたおかげだ」
そしてセーイは心の声で唱える。
『西刃の名の下に、我が刀に化せ、百爪』
セーイの左掌に『西刃』の文字が浮かび、ソウが一本の白い刀身の刀に化す。
『その刀は人工魔獣みたいだが、そんな刀一本でどうにかなると思ったか!』
ボルド共和国軍人の言葉に答え、魔法大砲から再び爆炎の魔法が放たれた。
セーイは、百爪の刀で一刀両断する。
言葉を無くすボルド共和国軍人達。
セーイは、魔獣戦車に向かって駆け出す。
『集中攻撃だ!』
ボルド共和国軍人がライト攻略の為に集めた、魔獣戦車十数機から一斉に魔法大砲が放たれるが、八百刃の代行者としての能力を使っているセーイにはかすりもしない。
そして、百爪の刀の一撃は、確実に魔獣戦車達を戦闘不能にしていく。
「何なんだ?」
驚くボルド共和国軍人の後ろから答えが返ってきた。
「正しい戦いの護り手、八百刃様の代行者、西刃だよ。貴方達の戦いは、間違ってるみたいだね」
振り返るとそこには、クウを本来の姿に戻した、トーウが立っていた。
「因みにあちきも代行者、東刃だよ。あちき達も虐殺は望まない。大人しく逃げるんだね」
その言葉に、ボルド共和国軍人達は駆け足で逃げ帰っていく。
「さーてこの町の責任者から、お金せしめないとね。軍人が逃げた所を突けば、かなりの金せしめられるぞ」
母親に似ずちゃっかり者のトーウだった。
倒し終わった後、セーイは腰を抜かしているパストの傍に行き微笑む。
『お前の勇気がこの町を救ったのだ』
子猫姿のソウがテレパシーでパストに告げる。
「師匠は、何者なんですか?」
それに対してセーイはパストの頭を撫でる。
『正しい戦いをする者を助ける者だ。これからも正しい戦いを心掛けろ』
去ろうとするセーイにパストが言う。
「もう行ってしまうんですね?」
頷くセーイにパストがさっき貰ったメモを握り締めて言う。
「僕は強くなります。師匠の助けが必要なくなるくらい」
セーイが笑顔で答え、そのままその場を離れるのであった。
「なんでまだ街に居るんですか?」
不満気な顔をするパストに、恥しそうな顔を手に持った荷物で隠すセーイ。
「セーイ、次の店に行くよ!」
トーウがせしめたお金で、八進の予備パーツを買い込むナーンに付き合う、セーイであった。
そして少年はまた現実が小説みたいに美しいだけじゃない事を知るのであった。




