八百刃獣を呼ぶ少女
彼女は何処にでも居る少女だった、しかしたった一つ八百刃獣を召喚出来る事だけを除けば
ローランス大陸にある、歴史の長さを誇る宿場町トロが今回の舞台である。
「トーウ、出来たよ、運びな」
「はーい、女将さん」
元気良く返事をしたツインテールのウェイトレス少女が料理を運んでいく。
「お待たせしました」
ウエイトレスの少女、トーウ=バーがテーブルに料理を置く。
「何時も思うけどトーウちゃん子供なのに頑張るねー」
その客の言葉に、トーウは、拳を握り締めるが、顔では笑顔を作って答える。
「これでも十四歳なんですよ」
その言葉に、意外そうな顔をするお客。
そんな時、一組の客が取っ組み合いをはじめる。
「八百刃なんていうのは単なる伝説だって言っているだろう!」
高そうな服を着た男の言葉に、銃剣(ライフルの先に刀が付いた物を考えて)を持った男が言う。
「正しい戦いの護り手、八百刃様は本当に居られる。俺の先祖が確かに助けられたって話だ!」
「それが一番怪しいのだ! なんでそんな偉い戦いの神様がこんな田舎町に来るのだ!」
相手の男の言葉に、銃剣を持った男が反論出来ないで居る時に、トーウが言う。
「それって的外れな指摘だよ。八百刃様は、神じゃなくって、神に成る為に修行している神名者なんだから、旅していて偶々この町に立ち寄ってもおかしくないよ」
その言葉に、銃剣の男が頷く。
「そう言うことだ!」
それに対して身なりの良い男が言う。
「煩い! 第一俺は前から気に入らなかった、何でこの町は八百刃様八百刃様って崇めるのだ! 考えてみろ、もっと凄い神様は、幾らでも居るだろう」
静まる中、トーウがはっきり言う。
「それを売りにしてるからに決まってるよ」
その一言に、誰もが視線をずらす。
「解ってるおじさん? おじさんは現実的な事を言ってるみたいで実は、現実を無視してるの。こーゆー小さな町ではそうでも言って観光客を呼ばないと大変な事くらい子供でも解る事だよ」
トーウの言葉が止めをさす。
そして男が言う。
「俺が、そんな物に頼らなくても、暮らしていける町にしてみせる!」
酒場を出て行く男を見送った後、銃剣を持った男が言う。
「嬢ちゃん随分はっきり言うね」
苦い顔の男に対してトーウが言う。
「別に良いと思うよ。あちきママに聞いたもん、八百刃様がこの町に来た事があるのが真実だって」
銃剣を持った男が苦笑する。
「俺の先祖は、八百刃様に助けられた事があるらしい。語り継がれてるだけで何の証拠も無いがね」
トーウは少し考えてから言う。
「もしかして、一度手渡したってペンダント残っていないですか?」
銃剣の男は驚いた顔をする。
「どうして知っているんだ?」
トーウが苦笑する。
「さっきも言ったよ。戦争孤児のあちき達を拾ってくれたママは、八百刃様の事は八百刃様の信者必須アイテムと言われる『戦神神話』って本より詳しいんだよ」
「何時までも駄弁ってないで働きな」
女将さんの声に、トーウが慌てて、次のテーブルに行く。
夜更け、仕事が終わったトーウは、肩に幼い竜の魔獣を止まらせていた。
「珍しいよね、竜の人工魔獣それも幼竜なんて。何処で手に入れたの?」
同僚の言葉にトーウがその竜を指さして言う。
「ママからのプレゼント。空道竜って言って、あちきはクウと呼んでるよ」
「トーウのお母さんって人工魔獣を作る人?」
トーウは視線をずらしながら言う。
「違うよ、でも長く旅していたからたいていの事が出来るよ」
その言葉に、同僚も頷く。
「だからトーウは、器用なんだ」
そんな会話をしていると、トーウと同じ顔をしているが、背中に刀を背負い、髪をポニーテールにしている少女が小さな白猫と共に来た。
「セーイ、毎日おむかえありがとう」
トーウがそう言って、その少女近づくと、その少女、セーイ=バーが頷く。
「二人ともよく似てるね?」
同僚の言葉にトーウが頷く。
「でも目の色が違うから間違えられないよ」
トーウの言うとおり二人の瞳の色は違った。
トーウが碧眼で、セーイが銀眼なのだ。
「それに後ろから解る様に四人とも髪型を変えてあるの」
トーウがそう言って自分のツインテールを見せる。
「四つ子だっけ?」
同僚の言葉にトーウが頷く。
「残りの二人は、金眼のストレートと黒眼のお団子頭なんだよ」
「一度会ってみたいね」
その言葉に遠くを見るトーウ。
「世の中には会わなくても良い人間っていっぱい居ると思う」
妹の言葉に強く頷くセーイを見て同僚は、ひいた。
トーウとセーイが二人での帰り道、白い猫がテレパシーで話しをする。
『ヒバの回復は思わしくない、後一週間は掛かるよ』
その言葉に大きく溜息を吐く、トーウ。
「そうなると、やっぱウエイトレスの収入だけじゃ四人食っていけないねー」
セーイが自分の事を指さすがトーウは首を横に振る。
「セーイは駄目だよ、盲目で喋れないんだから」
その一言に、暗くなるセーイに慌ててトーウが言う。
「気にしなくても良いよ。セーイはこうやって毎日迎えに来てくれるんだから。問題はホークとナーンよ。自分の趣味ばっかで全然仕事してくれないんだから」
文句を言っている間に、二人は、住居兼移動手段、魔獣の力を動力とする大型キャンピングカーモドキ、八進に着く。
「セーイとソウは、何食べたい?」
トーウが聞くと、白い猫の魔獣、百爪、愛称ソウが答える。
『あたしは、歯ごたえあるものだったら何でも良いよ。ろくに食事できないなんてあんた達のママの時から慣れてるからね』
その言葉に、身を震わせるトーウ。
「あちき達よく飢え死にしなかったなー」
『あたしのお父さんに感謝してよね』
ソウのその言葉に強く頷くトーウとセーイだった。
二人が中に入った時、風呂上りの二人と同じ顔の金眼の少女が居た。
「お帰り」
お肌の手入れをするその少女、ホーク=バーに近づきトーウが言う。
「何でお風呂、それも湯船に入ってるの!」
その言葉にホークはあっさり答える。
「毎日の入浴は乙女の嗜みよ。ほら水替えるから、あんた達も入りなさいよ」
その言葉に、トーウが切れる。
「ふざけないで! どうしてこんな仕事がろくに無い所で足止めしているか、解ってるの!」
その言葉に、ホークは頷く。
「解ってるわよ、この八進の動力をやっている、火羽鳥、ヒバが働き過ぎでダウンしているからでしょ?」
トーウの額に血管が浮かぶ。
「だったら、休んでいるヒバに無理させてお風呂に入らないでよ」
するとホークがそっぽを向きながら言う。
「だったらお風呂ある宿に泊りましょうよ」
「あちきらにそんなお金がある訳でしょうが!」
完全に切れたトーウをセーイが必死に押さえる。
そんなトーウに対してホークが幾つかの輝石(キセキ・宝石もしくは宝石みたいに光る石)を見せて言う。
「だったら、あたしの輝石魔法で一発大金を稼がない」
「前回そう言って、大きな建物を崩壊させて、逃げなきゃいけなくなったんでしょが!」
トーウが怒鳴るとそっぽを向くホーク。
「それは、キキの所為よ」
そう言って、輝石から、一匹の蛇の魔獣、輝石蛇、キキを呼び出す。
すまなそうな顔をするキキの頭をトーウは優しく撫でて言う。
「あんたの所為じゃないからね。全部、力の制御もろくに出来ないのに、キキを使って増幅したホークが悪いの!」
ホークを睨むトーウ。
そんな中、奥から汚れまくりの髪をお団子したやっぱりトーウ達と同じ顔の少女が来て言う。
「トーウ、よく帰ってきた」
そう言って、汚れまくりの手で手を握る。
嫌そうな顔をしながら、トーウが言う。
「ナーン、何?」
その言葉にその少女、ナーン=バーが言う。
「ヒバの苦労を軽減する画期的なシステムを思いついたの」
「そう、良かったね」
流そうとするトーウにナーンが縋りつく。
「でもねでもね、それを作るにはどうしても必要なパーツが要るの、買って良い?」
そう言ってチラシを見せるナーン。
トーウは一瞥してそのチラシを破り捨てる。
「却下、金貨二十枚も出すんだったら、ヒバにめいいっぱい純度百パーセントのオイル飲ませるよ」
「でもでも……」
物欲しげに見つめるナーンを無視してトーウがキッチンに向かう。
『貧乏の天才から離れたって言うのに大変さは変らないな?』
ソウの言葉にトーウが言う。
「それでもママと一緒に居て、ママが何も食べてないのに自分たちだけご飯食べているよりましだよ。それに予測不能なトラブルでお金減っていくより、予測可能な出費だけのこっちの方がまだ増しだよ」
その言葉にソウが言う。
『五十歩百歩な気がするが?』
大きく溜息を吐く、トーウであった。
「お待たせしました」
そう言って、料理をテーブルにおいていくトーウ。
「今日も元気だね」
昨日の銃剣の男、ハイソン=ローンドの言葉に頷くトーウ。
「まーね、問題ある姉妹が多い分、頑張らないと」
そんな呑気な会話をしてきた時、昨日の男の声が響く。
「逃げてくれ! 急いで逃げてくれ!」
ハイソンとトーウが慌てて、外に出てその男に追いつく。
「いきなりどうした!」
その言葉に、昨日の男、パドラック=メルド=ハールスが言う。
「新型の人工魔獣の合成実験に失敗したのだ、暴走して直ぐにも街中で暴れだす」
その言葉にハイソンがパドラックを殴る。
「なんて事をしてくれたんだ!」
パドラックが何かを堪えるように言う。
「私は、この町を八百刃の名前を使わなければ暮らしていけない田舎町から抜け出させたかったのだ!」
その言葉に誰も何も言えなくなった。
そうしている間に、数十匹の狼型の人工魔獣が街に迫ってくる。
ハイソンは銃剣を構えて言う。
「とにかく避難を急がせろ!」
パドラックが頷いた時、その前に出たトーウが言う。
「あの人工魔獣始末したら、金貨三十二枚くれますか?」
その言葉にパドラックは、藁にも縋る気持ちで言う。
「あれを沈めてくれるのだったら、その程度の金くらい払う。しかし、そんな事は不可能だ!」
それに対して、トーウが掌を向ける。
「前金で金貨十枚をお願いします」
その言葉にやけになっていたパドラックがサイフを投げる。
「あの人工魔獣を止められるなら幾らでももってけ!」
トーウが微笑む。
「毎度あり」
そして人工魔獣達の方を向いて右手を突き出す。
『東刃の名の下に、その力を解放せよ、空道竜』
トーウの右手に『東刃』の文字が浮かび上がる。
すると、トーウがつれていた幼竜の魔獣、空道竜、クウが巨大化して空中で円を作る。
トーウはその円の中心に手を向けたまま呪文を続ける。
『八百刃の神名の元に、代行者、東刃が求めん、空道竜が造りし道を通り、八百刃獣よ、御力を示し給え、闘威狼』
すると、クウが作った円より、一体の狼の魔獣が現れる。
『久しぶりだな東刃、息災か?』
その言葉にトーウが笑顔で答える。
「はい、ママも元気ですよね?」
その言葉に狼の魔獣、闘威狼が沈黙する。
冷や汗を垂らしながらトーウが言う。
「また卵料理の食べすぎで、都会の中心で飢えてるんですか?」
『あいつは何百年経っても変らんよ』
諦めきった溜息を吐く闘威狼にトーウが金貨十枚を差し出す。
「これママに渡してください」
闘威狼がそれを器用に受け取るという。
『毎回すまないな。本当に孝行娘を持ったな。さてそんな孝行娘の為に頑張るか』
すると、闘威狼は、周囲の人工魔獣が放つ闘気を喰らい、巨大化して、その爪であっという間に人工魔獣達を滅ぼす。
『それでは早く帰らないと、本気で死体に間違えられそうなので帰るぞ』
そう言って空道竜が作った円から帰っていく。
ハイソンが呆然とした表情で言う。
「君は何者なんだ?」
トーウは少し困った顔をして言う。
「一応、八百刃様の代行者って事に成ってます。本来なら地上に出れない神様の代わりに力を与えられた人の事何だけど、ママが、八百刃様が戦場跡で死にかけていたあちき達を助けるために、神様になる為の力を振り絞ってあちき達を代行者にしてくれたの」
驚くハイソンにトーウは自分の瞳を指さして言う。
「だから四つ子なのに瞳の色が違うんですよ」
そしてトーウはサイフから残り二十二枚の金貨を抜き出して、パドラックに返す。
「これで、旅が続けられます」
そして去っていくトーウの後姿を見送る町民達であった。
「それでどうして君がまだウエイトレスの仕事しているんだ?」
数日後、酒場に来たハイソンが、ウエイトレスをしているトーウを見つけて言った。
「八進の改造もありますから。なにより、いきなり抜けたら酒場に迷惑かかってしまいますよ」
その言葉に女将が頷く。
「そうだよ代行者かなんだか知らないけど、給料払ってるんだからきちっと仕事してもらわないとね」
激しく何かが間違ってる気がするハイソンであったが、誰もそれを指摘出来なかった。




