Delighting World ⅩⅩⅩⅢ
Delighting World ⅩⅩⅩⅢ
第8章 ドラゴニア防衛戦編~其の命懸け、竜は舞う~
ヴォロッドとの手合わせを乗り越え、ワービルトの許可書を貰うことが出来たビライトたち一行。
残すはヒューシュタットのみだが、ビライトたちはヒューシュタットと敵対している。
ヴォロッドから、ヒューシュタットは突然変わったと言われる。
ヒューシュタット王、ホウが突然行方不明となり、代わりにガジュールが王となった。それからヒューシュタットはスラム街が出来、差別が加速し、人間だけが頂点に立つ国になった。
ホウが生存しているかどうかは分からないが、もしもホウが生きているならば。ガジュールによって囚われているならば助けてやって欲しいとヴォロッドに頼まれる。
ヒューシュタットへと向かおうとするビライトたちだが、ワービルト兵が突然の報告をした。
それはヒューシュタットがドラゴニアに向けて進軍しているという情報だった…
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「ドラゴニアが…!?」
「詳しく聞かせよ。」
ヴォロッドは報告に来た兵士に問う。
「ハッ、現在ヒューシュタットとドラゴニアの間にある守護神の森から相当な数のオートマタがドラゴニアの方角に向けて侵攻していると聞き及んでおります。」
「フム…もしそのオートマタの行先がドラゴニアであるならば…ヒューシュタットめ、戦争を仕掛けるつもりか。」
「…ヴォロッド、話はそこまでだ。」
ボルドーが言う。
「すぐにドラゴニアに戻る。1秒だって惜しい。」
ボルドーの表情が明らかに違う。
「待てボルドー。今からだと間に合わぬぞ。」
「だろうな。だがこのまま黙って見ていられるわけがねぇ。ドラゴニアは俺様の国だ。」
ボルドーは今すぐにでも飛び出していこうとする勢いだ。
「…ボルドーさん!」
ビライトたちがボルドーを見る。
「お前ら…」
「1人で行こうとしないでくれよ。俺たちにも手伝わせて欲しい。」
ビライトは皆を代表してボルドーに言う。
「ビライト…」
「俺たちだってドラゴニアは大事な場所だから。ドラゴニアが狙われているかもしれないのなら見過ごせない。」
ビライト、キッカ、レジェリーは頷いた。
「他人事じゃないもん!私たちも手伝う!」
「もちろんよ。ドラゴニアを侵略しようなんてものならあたし…絶対に許さない!」
「ボルドー、ワシも手を貸すぜ。ドラゴニアはワシの故郷だ。」
「ヴァゴウ…」
ヴァゴウも表情が穏やかではない。焦りか、怒りか。そのような表情をしていた。
「ヒューシュタットがどの程度の戦力を投入しているかは分からんが…ドラゴニアを防衛することで奴らに大きな打撃を与えることが出来るかもしれん。付き合おう。」
クライドはビライトたちの意向に賛成した。
「…おう。みんな、ありがとよ。」
「話は決まったようだな。」
ヴォロッドが言う。
「アルーラよ。ファルトを呼べ。」
「かしこまりました。」
アルーラは城の外に走り、手続きを始めた。
「ファルト?」
「ファルトは我がワービルトのドラゴン便部隊のリーダーのドラゴンだ。所謂“高速ドラゴン便”というやつだ。」
「高速ドラゴン便…!」
「ファルトはその中でも特に速い。1日程度でドラゴニアに着けるだろう。」
ドラゴン便を使わなければ2週間は確実にかかってしまう。
ドラゴン便を使えば3日だろう。
だがそれでも間に合わない。
ヒューシュタットからドラゴニアまでは約4日。
だが守護神の森まで既に進行しているとなれば、1~2日程度でドラゴニアに辿り着いてしまう。
「ヴォロッド、すまねぇ!恩に着るぜ。」
ボルドーはヴォロッドに感謝を伝える。
「ドラゴニアに何かあれば我が国にも大きな打撃があるからな。ドラゴニアは我がワービルトと友好国だ。互いに協力しあうのは当然である。」
ヴォロッドは快く手助けを約束した。
「王よ、ファルトの用意が整いました。」
「ウム、ではアルーラよ。お前も同行せよ。」
「…私も、ですか?」
「そうだ、こいつらを援護してやるがいい。お前の防御魔法が役に立つであろう。」
アルーラは少し迷いはしたが、頷いた。
「かしこまりました。王の御心のままに。」
「良いのかよヴォロッド。ドラゴニアだけじゃねぇ、ワービルトだって狙われる危険があるかもしれねぇのに戦力を削いじまって。」
ボルドーは念のため確認を取る。
それだけアルーラは強力な戦力なのだろう。
「構わぬ。ヒューシュタットの機械など、私と我が国の兵士たちで十分よ。フッハハハハ!」
自信満々のヴォロッド。
「そうかい、なら遠慮なく借りるぜ。アルーラ、頼む。」
ボルドーは頭を下げた。
「王のご命令です。なんなりとお使いください。」
「あなた、行きましょう。」
メルシィが言う。
「メルシィ…お前は「なりません。」
「…!」
「残れって言いたいのでしょう?でも嫌です。」
「メルシィ、これから俺様達が行こうとしているのは戦場なんだぞ。もしお前とブランクに何かあったら…」
ボルドーはメルシィとブランクの安全を確保したい。ドラゴニアが戦場になるかもしれない。
そんな中にブランクとメルシィを連れていこうものなら身が危険だ。
「それでも、私はあなたと行きたいんです。」
メルシィはボルドーのお願いを断る。
「メルシィ…」
「ドラゴニアはあなたの国。それはあなたの妻である私の国でもあるのです。あなたと同じなのです。私も…ドラゴニアを守りたい。」
メルシィの意志は本物だ。その真剣なまなざしにボルドーは頭に手をあててため息をつく。
「…わーったよ。」
ボルドーは不本意ながら了承した。
「ありがとう、あなた。」
「アルーラ。わりぃがメルシィを守ってやってくれねぇか?」
「それは構いませぬが…」
アルーラは指名を受けて少し驚く。
「お前の防御魔法の強さはよく知ってる。お前の傍に置いておくのが一番安全だからな。頼む。」
ボルドーはアルーラに頭を下げて頼む。
アルーラはヴォロッドを見るが、ヴォロッドは首を縦に振り頷いた。
「…承知しました。ではメルシィ殿、ブランク殿と共に私の元を離れぬよう。」
「わかりましたわ。」
ボルドーは条件を付けてメルシィとブランクもついていくことを許可した。
本当は連れていきたくはないが、それはメルシィとブランクが危険だからという理由以外にもある。
(ブランクにとっては戦場になっちまったドラゴニアが…初めて見るドラゴニアになっちまうかもしれねぇんだな…)
そう、ブランクはまだ一度も自分の故郷を見ていないのだ。初めて見る故郷が戦場になっているかもしれない。
ブランクが大人になるときには忘れているかもしれないが、それでもボルドーにとっては不本意であり、メルシィにとってもそれは望まないことだ。
だが、そうだとしてもここで指をくわえて待つことは絶対に出来なかった。
「ファルトが待っている。行こう。」
アルーラを先頭にビライトたちはヴォロッドに挨拶し、外に出ようとする。
「行くがいい。冒険者たちよ。ドラゴニアをヒューシュタットから守れ。そなたたちの活躍をここから応援しているぞ。」
ヴォロッドの激励を受け、ビライトたちはさらに頷き、城の外へと出た。
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「ファルト。こいつらと私を頼む。」
城の外にはドラゴンが座って待っていた。
8m程度の大きさの青い鱗のドラゴンだ。
体つきはとてもたくましく、力強さが伝わってくる。
「私はファルト。ワービルトに雇われて高速ドラゴン便をしている。以後、お見知りおきを。行先はドラゴニアだったね。」
ファルトは丁寧に自己紹介し、確認を取る。
「あぁ、なるべく急いでくれ。」
「事情は聴いている。かなり大所帯ではあるがなるべく急ごう。舌をかまないように注意してくれたまえよ。」
「よろしく頼むぜ。」
「よろしくお願いします!」
ビライトたちはファルトに乗り、準備を整えた。
城の前には獣人兵士たち。そして今までジィル大草原を一緒に走ってきたラプターたちが居た。
「ラプターたちもここまで本当にありがとな!」
ビライトたちはラプターたちに礼を言い、ラプターたちはそれに応えるように鳴いた。
クライド以外全員が乗り込み、クライドは最後にラプターたちを撫でた。
「ワービルトの外で待っている間、お前と過ごした5日間、とても有意義だった。感謝している。」
クライドは特にラプターたちと一緒に居た時間が長かった。
クライドはラプターたちの首にアクセサリーを付けてあげた。
「お守りだ。大事にしろ。」
それが何なのかはよく分かっていなさそうだが、クライドからの贈り物にラプターたちは喜んだ。
ラプターたちも少し名残惜しそうにしながら、クライドの顔をペロリと舐め、顔を摺り寄せた。
「…元気でな。」
クライドはそう言い、ファルトに乗り込んだ。
「では参ろうか。目指すはドラゴニアだ。」
ファルトは翼を羽ばたかせ、空を飛ぶ。
遥か上空まで飛び翼をパンと大きく広げる。
「飛行、開始。」
「「!!」」
ビュッと強い風がビライトたちの間を吹き抜ける。
「わわわわっ!」
「ひゃーーっ!!」
ビライトとキッカは慌てた声を出す。
「おお!こいつァ速い!」
ヴァゴウもその速さに驚いていた。
「放り出されないように注意しろよッ!」
「はい!」
ボルドーはメルシィとブランクを抱え、バランスを整えた。
ドラゴン便の上には決まって乗っている人が安全であるように座れるスペースが用意されている。
だが、高速ドラゴン便はあまりにも早いため、それもあまり意味を成さない。
しかし、立っているのは危険なので座っている方がずっと安心なのだ。
「道中、何処かで休憩を取る。それ以外は基本的にノンストップだ。覚悟しておけよ。」
アルーラはそう言い、ビライトたちはバランスを保ちながらドラゴニア到着を待つ。
(親父、ゲキ…クルト…ドラゴニアのみんな…無事でいてくれよ…!)
(私たちの国を、失わせやしません…)
(…絶対、壊させねぇ。)
ボルドー、メルシィ、ヴァゴウの3人は一行の中でも特別気が張り詰めている。
自身の国で、故郷が狙われているかもしれないのだ。
気が気ではない。
だが、今は信じるしかない。ヒューシュタットが本当にドラゴニアを攻めようとしているのならば、絶対に阻止、防衛しなければ。
ボルドーたちは覚悟と決意を胸に宿し、ドラゴニア到着を待つ。
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ジィル大草原から南東に直線で飛び、竜の鍾乳洞のある山を越え、川沿いに飛ぶとドラゴニアだ。
ドラゴニアには川が流れているので、川を辿って行けば迷うことはない。
比較的岩山も少なく、ジィル大草原ほどではないが平原が多い地域だ。
普通のドラゴン便ならば1日かけてジィル大草原を抜けるぐらいであるが、ファルトはその半分の時間でジィル大草原を抜けた。
あまりにも速すぎる為、ファルトの上に乗っているビライトたちには喋っている余裕はほとんどない上に、ボルドー、メルシィ、ヴァゴウの3人の気が張り詰めていて余計にその余裕は無かった。
特にブランクにはかなりの衝撃だろう。
メルシィは魔法でブランクをなるべく風の抵抗や揺れから守るのに徹した。
ボルドーもメルシィとブランクを覆うようになるべく楽に乗れるように工夫した。
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「ヒューシュタットのシルバーは人間こそが頂点に立ち、世界を支配するべきだと言ってた…だからドラゴニアを侵略し、竜人たちを人間の支配下に置こうとしているのかな。」
半日弱程度でジィル大草原を抜けた。山を通っている時にはどうしても速度が落ちる。その時にビライトはクライドに尋ねた。
「…くだらん考えだが、そうであろうな。だがビライト、お前も人間だろう。乗っかっても損はないだろう。」
「冗談言わないでくれよ。俺は…そんなの間違っていると思う。コルバレーでもドラゴニアでも、ワービルトでも俺は竜人や獣人、ドラゴンたちに多く助けられてるんだ。絶対人間だけが支配する世界なんて間違ってる。」
「フッ、それでいい。試すような言い方をしたな。忘れてくれ。」
クライドは同じ人間であるビライトを試すような言い方をしたが、ビライトは即答した。
ビライトに限ってそんなことはないだろうと分かっていたが、あえてそう尋ねたのだ。
「あ、あぁ…俺は、ドラゴニアをヒューシュタットに壊させやしない…!」
山を越え、ドラゴニア地方に入る手前、山の麓でファルトは降りた。
「しばらく休憩だ。今のうちに身体を休めておけ。」
アルーラが全員に言う。
「うう…気持ち悪いかも…」
レジェリーは少し酔っているようだ。乗ってからほとんど喋らなかったのは単純に酔っていたからのようだ。
「大丈夫?」
キッカは回復魔法をレジェリーにかける。
「ありがとキッカちゃん、少し楽になったかも。」
レジェリーはキッカにお礼を言って、小さくため息をついた。
「大丈夫?」
「うん、ドラゴニアが狙われているって聞いて、あたしも気が気じゃなくて…」
「私もだよ…私も…ドラゴニアを守りたい。」
「ヒューシュタット…ホント、許せないわよ…!ヴァゴウさんをあんな目に遭わせて、ボルドー様の命を狙って、ドラゴニアを襲おうとしているなんて…!」
レジェリーはヒューシュタットを憎む。レジェリーにとってもドラゴニアは大事な場所だ。
そしてレジェリーの目標である魔法学園もドラゴニアにある。
クルトにも約束してもらったのだ。入学を。
だからレジェリーはそんな場所をヒューシュタットの支配下に置くなんて絶対に認められなかった。
「何を考えているかは私にも分からないけど…でも、守らなきゃ。」
「うん、キッカちゃんの魔法が役に立つかも。」
「レジェリーの魔法だって。」
「そうよ!あたし天才だもん!ヒューシュタットなんて簡単に撃退してやるんだから!」
レジェリーとキッカは笑いながら雑談をする。
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「大分魔力を消費しているな。」
「高速飛行は大きく魔力を使う。当然さ。」
アルーラ、ボルドー、メルシィはファルトと会話していた。
ファルトの魔力が大分下がっているようだ。
「だが、私はこの大空を誰よりも早く駆け抜け、人々の役に立てるのならばこの程度は造作も無いさ。」
ファルトは笑顔で答える。
「助かるぜ。今頃ドラゴニアでも戦闘態勢を整えているだろうが…大勢のオートマタ相手にどこまでやれるかは分からねぇ。だからこそ少しでも戦力が必要だ。」
ボルドーは戦う気満々だ。
「あなた、無理はしてはいけませんよ。」
「おう、お前ら置いて死ねるか。けど…お前も注意しろよな。」
ボルドーはメルシィを心配して言うが。
「私は大丈夫ですよ。私だって戦えますから!」
「メルシィ殿やベルガ王は私が守る。防御魔法においては自分で言うのもアレだが自信がある。」
アルーラは守りに徹するつもりでいた。
「だから攻撃面は任せます。」
「おう。」
「ブランク、もう少し揺れますが…我慢してね…」
「あう…」
ブランクも少し調子がよくないようだ。
赤ん坊にドラゴン便は少々厳しいものがある。だが、メルシィが魔法で、ボルドーは身体でしっかり守っている為、まだこの程度で済んでいる。
ドラゴニアで休める余裕があるかどうかは分からないが、なるべく早く安全を確保することが大切だ。
これから待ち受けるのは戦争かもしれない。
国同士のぶつかり合い。
被害ゼロとはいかないだろう。
だが、少しでも被害を抑え、撃退する。
相手はオートマタだ。壊しても問題はないだろう。
ボルドーは特にこの防衛戦において特別気を張っている。
自分の国が攻められているのだから当然だ。
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ビライト、クライド、ヴァゴウの3人はそれぞれの想いを抱えていた。
「…」
「これから行く場所は戦場だ。相手もオートマタだけとは限らん。」
クライドはビライトに声をかける。
「…そう、だな。相手が人間だったら…」
「時には傷つけることになるかもしれんな。」
「…そうならないと信じたい。」
「…いざという時の殺す覚悟だけは忘れるな。相手がお前の大事なものを奪おうと敵意を向けているならば、お前はそれを守らなければならない。」
クライドはビライトに言う。
殺す覚悟。それは必要なことかもしれないからだ。
これから行く場所は戦場。戦場では甘さが命取りになるのだから。
「…分かってる、つもりだ。」
「フッ、まだまだ青いな。だが…そういう気持ちも、忘れてはならん。」
クライドはそう言い、自身の武器の手入れをし始めた。
「…殺す覚悟…か。」
ビライトはまた悩むことが増えたようだが、今はドラゴニアを守ることが大切だ。大切な場所を守る。今はそれでいい。
そしてヴァゴウはクライドの元へ。
「クライド。」
「…どうした?」
「お前に渡したいもんがあってよ。」
クライドが受け取ったのは新しい武器だ。
短剣が2本。ワービルトの修行の時に作ったクライドの分の武器だ。
「…これは?」
「色々迷惑かけた詫びだよ。ビライトとレジェリーちゃんにはもう渡してある。」
「気にせずとも良いのだがな。アレは事故のようなものだ。」
「それでもだよ。ワシの気が済まねぇんだ。受け取ってくれ。」
ヴァゴウが作った武器はクライドもその精度を認めている。
クライドは短剣を持ち、実際に振ってみる。
鋼鉄製なのに軽い。軽い鉱石を使用していて、切れ味も良さそうだ。
クライドの手に合わせた持ちやすいサイズ感で、ヴァゴウがよく武器を使う相手のことを見ていたことが窺える。
「なるほど、使い心地も良い。相変わらずお前は良い武器を作る。」
クライドは満足した様子だ。
「これから激しい戦いになるかもしれん。使わせてもらおう。」
「おう!」
クライドは小さく微笑み、ヴァゴウはそれを見て微笑んだ。
気が張っていたヴァゴウに小さな笑顔がこぼれた。
時刻は深夜。
ビライトたちは少しの間だが眠りにつき、体力を温存。
アルーラはファルトに魔力供給を行っているようだ。
「すまないね、アルーラ。」
「長距離の高速ドラゴン便を使う際には魔力供給が出来る者が必要になってくる。ヴォロッド王はそれも踏まえて私を同行させたのだろう。」
アルーラは魔力をファルトに送りながら会話をしている。
「相変わらず君の魔力は変わっている。」
「今のシンセライズに住む人々とは異なるだろうな。私は“そういう存在”だ。」
アルーラは少し寂しそうな顔を見せる。
「…そうだったな。“生まれる前の私も、きっとそうだったのだろう”。」
ファルトもアルーラを見て寂しそうにする。
「生まれる前の…ああそうか。お前は“転生者”だったな。」
「あぁそうだとも。それも記憶を保持している珍しいタイプのね。」
二人は少し沈黙の後…
「お互いに訳ありは大変だな。」
「そうだね。だが君は“選んだ”のだろう?」
「そうだ。お前も“受け入れた”のだろう。」
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早朝、ビライトたちは目を覚まし、再びファルトに乗りドラゴニアを目指す。
そして…
「煙の臭いがする…」
クライドが一言発した。
ドラゴニアはもう間もなくだ。
「チッ…悪い予感、的中か…!」
森を超えた先、煙があがっている空。
その方角は間違いなくドラゴニアの方角であった。
「!!」
見えてきた景色。
それはあまりにも絶望的な状況だった。
ドラゴニアの町は黒い煙が上がっており、建物はあちこち崩壊しており、赤い炎に包まれている。
だが、城は無事のようだ。結界のようなものが張られている。
ドラゴニアの魔法部隊の者たちが作ったものだろう。
「銃声や魔法の音がする。交戦しているようだ。」
獣人の血を引くクライドは耳や鼻が良い。
ビライトたちからは感じられない音や臭いを早く感知したのだ。
「あなた…ッ…」
「うあー」
「…ふざけやがって…!よくも俺様たちの国を…!」
ボルドーは怒りに拳を震わせ、強く歯をかみしめた。
メルシィの不安な表情、ボルドーの怒りの表情でブランクは泣き出す。
「ごめんなさいねブランク、大丈夫だからね。」
メルシィはブランクをなだめながらも、やはり不安の顔は隠しきれなかった。
「アルーラ。私は目立つ。地上から砲撃されるかもしれん。防御結界を頼む。」
ファルトがアルーラに魔法を頼み、アルーラは頷いて、魔法を展開。
「オーロラウォール。」
ファルトに防御魔法がかかる。
全身が虹色に光り、あらゆる攻撃を防御出来る結界魔法だ。
「礼を言う。ボルドー王。降りられる場所はあるか?」
ファルトがボルドーに尋ねる。
「…城の上にフリード用の着地場がある。そこなら着地出来る。」
「分かった。しかししばらく空から様子を窺わなければ…迂闊に降り立つのは危険だ。」
ファルトは国の周囲から様子をうかがっている。
「…アルーラ、メルシィとブランクを頼んだぞ。」
ボルドーはそう言い、ファルトの背の端に立つ。
「ボルドー殿…まさかとは思いますが…」
「ボ、ボルドー様!?何して…!」
レジェリーが声をかける。
ビライトたちも驚いている。
「わりぃ、もう限界だ。様子なんて見てられねぇ。」
ボルドーはそう言い…
「あ、あなた!」
「見たところ城には結界が張られているみてぇだ。城は安全だろう。だからファルト、アルーラ、メルシィ。ブランクを頼む。俺様もなるべく早くそっちに行く。」
「…無理はなさらぬよう。」
「…必ず守ります。気を付けて。」
頷き、エクスリストレイを発動させるボルドー。次の瞬間遥か上空、ボルドーはジャンプし、ファルトから飛び降りた。
「ボルドーさん!」
「ボルドー殿は飛べる。大丈夫だ。」
アルーラはそう言うが、ここは遥か何百メートルもの上空だ。
そして、ヴァゴウも走り出す。
「オッサン!?」
「ビライト!ワシも行くぜ!」
ヴァゴウもジャンプしてボルドーを追いかける。
「え、えええ!ちょっとちょっとぉ!!」
レジェリーは慌ててあたふたしている。
「お兄ちゃん…どうしよう。」
「キッカ、衝撃吸収魔法を俺にかけてくれ。俺も行く。」
ビライトは飛び降りることを決意した。
「しょ、正気なの!?」
レジェリーが尋ねるとビライトは頷く。
「俺も待ってなんかいられない。今こうやって様子を見ている時にも誰かが危ないかもしれない。だから、行く。」
「…」
キッカはそれを聞いてビライトに衝撃吸収魔法をかけた。
「これである程度は大丈夫だと思う。」
「ありがとうキッカ。」
ビライトとキッカはボルドーとヴァゴウに続いて飛び降りようとする。
「ビライトさん、キッカさん…」
メルシィも心配そうに見ている。
「アルーラさん、みんなを頼みます。」
「分かった。」
アルーラも引き留めはしなかった。
「ま、待って!」
レジェリーが言う。
「レジェリー?」
「あ、あたしも行くっ!」
「フッ、まったくお前らは無茶をし過ぎだ。だが、そういう勢いがあるのも悪くはない。付き合おう。」
レジェリーとクライドも飛び降りることを決めた。
「良いのか?」
「構わん。キッカ。頼んだ。」
「こ、怖いけど!あたしだってドラゴニアを守りたいからっ!!」
「よし分かった!みんなで行こう!」
「うん!」
キッカはレジェリーとクライドにも衝撃吸収の魔法をかけた。
「み、みなさん、無理はしないでくださいね…!」
「はい!ファルトさん、アルーラさん、メルシィさんとブランクを頼みます。」
「任された。」
ビライトはアルーラとファルトに頼み、ファルトは頷いた。
「行け。ここは任せろ。」
アルーラはそう言い、ビライトたちを見送る。
「行こう!」
ビライトがまずファルトから飛び降りた。
「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・」
「うっ、でもやっぱこわ「行くぞ!」
「フェッ!?キ、キヤアアアアアアアアアアア!!!!」
クライドに首のマフラーを掴まれて放り投げられたレジェリー。
そしてクライドはアルーラを見て頷き、飛び降りた。
「…みなさん、無事で…あなたも…無理はしないで…」
メルシィはドラゴニアに降りて行ったビライトたちの無事を祈った。
「我々も着陸の準備をしましょう。ファルト!いけるか?」
「あぁ、警戒しながら着地を図る。砲撃が来るかもしれないから伏せていてくれ!」
ファルト、アルーラ、メルシィ、ブランクの4人は少しずつ高度を下げ、城に向かって降りる準備をした。
そして空中では…
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「わああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ…」
急降下するビライトたち。
先に飛び降りていたボルドーやヴァゴウにあっという間に追いついた。
「お、お前ら!」
「ボルドー様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーー!!」
ボルドーは落下してくるビライトとレジェリーを抱えたまま降下する。
「っとと、ったく…無理してお前らまで来ることねぇだろ!」
「ご、ごめん、でもオッサンもボルドーさんも必死だったし、俺たちも待っていられなかったから…!」
「あ、あたしだって!そうだもん…!怖かったけど……」
ビライトとレジェリーは内心ボルドーに支えてもらってホッとしている。
キッカはビライトに憑依している存在だから影響は無いのでビライトの後ろにくっついているような状態ではあるが、怖かったようでホッとため息をついた。
「へっ、サンキューな!みんな!嬉しいぜ。」
ボルドーはビライトとレジェリー、キッカに感謝を伝えた。
一方クライドはヴァゴウの方に支えられていた。
「よう、なかなか根性あることするじゃねぇの。」
「フン、お前ほどではない。」
「だが、ありがとよ。」
「フン。」
ビライトとレジェリーはボルドーに支えられて、ドラゴニアの街中に着地した。
「オッサンとクライドは?」
「入り口の方に落ちたみてぇだな。」
ボルドーは周囲を見渡す。
あちこちから人々の声と砲撃の音、魔法の音が響いている。
「…俺様は城へ向かう。ビライトとキッカは町の様子を見てきてくれねぇか?」
「分かった。逃げ遅れた人を助けないとだしな!」
ビライトとキッカは頷いた。
「レジェリーは俺様と来い!援護を頼むぜ!」
「分かりました!」
ビライトとキッカはボルドーたちと別れ町へ。ボルドーとレジェリーは城へ向かった。
そしてヴァゴウとクライドは…
「ここはドラゴニアの入り口か…オートマタが見える…クソッ!なんてこった…!」
入り口は特に激しく崩壊しており、道も激しく壊れ、建物も崩壊していて火の手が上がっている。
「ヴァゴウ、ボルドーは城に向かっているはずだ。」
クライドは感知魔法を発動した。ビライトたち全員の気配を探す。
「ビライトとキッカは街を回っているようだ。ボルドーとレジェリーは城に向かっている。」
「分かった。」
ヴァゴウはゲキの店がある方角を見ていた。
入り口からかなり近い位置にあるゲキの店が、ゲキの安否が心配なのだろう。
「…町ではオートマタに対抗している兵士たちもいるようだ。ヴァゴウ、お前は町の人や兵を援護し、オートマタから町を守れ。城には俺が行く。お前も落ち着き次第城に来い。」
「あ、あぁ。分かった。城のことは任せたぞ!」
「心得た。」
ヴァゴウは町へ。クライドは城へと移動した。
激しく燃え盛るドラゴニアの街。
見えるのは無差別に破壊を繰り返すオートマタの軍勢。
人の姿はまだ未確認だが、あちこちで声が聞こえる。
きっと逃げ遅れた人々が居る。
ヴァゴウ、ビライト、キッカの3人はドラゴニアの町で探索を。
そしてボルドー、レジェリー、クライドの3人は城へ。
そして、メルシィとブランク、アルーラの3人はファルトと共に上空から着陸のタイミングを窺いながら準備を整える。
これ以上被害が拡大しないよう、ビライトたちのドラゴニア防衛戦が始まる。
国と国との戦争が開幕した…