Delighting World Brave 二章 七幕 ~ドラゴニア防衛戦 世界貫通の一撃 神力解放~
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Delighting World Brave 二章 七幕(~ドラゴニア防衛戦 世界貫通の一撃 神力解放~)
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勇者ウルストを倒し、ドラゴニアに再び安全が訪れる…のもつかの間。
イビルライズはかつて世界を壊滅させた死竜たちの王、災厄の竜王を呼び寄せた。
100kmを超えよう超巨大なドラゴンが世界に咆哮を轟かせる。
そんな相手に乗り出すのは世界最強の守護神の肩書を持つ、抑止力序列第3位。
グロスト・ガディアルだった。
ヴァジャスが世界中に呼びかけを行い、そしてデーガとカタストロフが世界中にブレイブハーツの因子を広げた。
今、世界中からブレイブハーツの力がドラゴニアに集まっている。
そして、ガディアルに更に力を与える、ヴァジャスとエテルネルの力を宿したキッカ、そして神力をボルドーに与えることでその力を増幅させるカナタ。
ビライトたちもブレイブハーツを注いでいる。
ガディアルに力が集まる…だが、まだガディアルが神力解放を行い、更には災厄の竜王を倒せるほどの力が宿るにはもう少し時間がかかりそうだ―――
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「…まだだ、まだ足りん。」
ガディアルは目を閉じ、力に呑まれぬよう集中している。
世界中から集う大きな力がガディアルに集まっているのだ。簡単に受け入れる話ではない。
いくら世界最強の名を持っているとはいえ、それは少しでも油断したら自身の破滅も考えられるのだ。
「…結構…苦しいね…」
ガディアルのすぐ傍で力を放出し続けているキッカとカナタに負担がかかっている。
「キッカ、カナタ。大丈夫か?」
傍でボルドーは2人を支えるが…
「平気だよ…このぐらいなら…」
「…負けない。だって皆頑張っているんだもの。」
キッカとカナタの2人は負けじとしているが、顔色が悪いのは明らかだった。
「まだ足りねぇのか…!」
ボルドーはガディアルに尋ねるが、ガディアルは静かに頷くだけだった。
「キッカ、カナタ、まだ頑張れるか?」
「うん。」
「大丈夫、だってボルドーも傍に居るから。」
「おう、最後まで支えるからな。絶対何事もなく皆のところに戻るぞ。」
ボルドーは2人を支え続ける。
ボルドー自身は神力が完全に順応しているようで負担はかかっていないようだった。
だが、ボルドーはカナタの神力を通じないと身体と魂の同化が済んでいないが故に身動きすら取れない状態だ。
情けないと思うボルドーだが、それでも自分の声や自分の身体に流れる神力とブレイブハーツが役に立つのならと、ボルドーは2人を支え続けるのだった。
「…来る。」
ガディアルは呟く。
「来るって…まさかあんな巨体が攻めてくるってのかッ!?」
「…させぬ。あとは任せるぞ――」
ガディアルは誰かと連絡を取っているようだ。
――「おう、任されたぜ。」
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「憎い…憎い…我が前に在りしこの世界が…憎い…感じるぞ、感じるぞ…死竜の…我が仇の気配を…!!」
災厄の竜王は進行する。山脈を大きく超えるその巨体が一歩足を踏むだけで大地は大きく揺れた。
「わわっ!?」
「きゃああーーっ!!」
「皆!気を付けろッ!頭を守れッ!」
竜王から最も近い場所に位置しているコルバレー周辺では大きな地震として襲い掛かっている。
ヒューシュタットやドラゴニアも揺れる。
コルバレーほど大きな揺れではないが、ビルが立ち並ぶヒューシュタットの高層ビルは大きく横に揺れる。そしてドラゴニアは倒壊している建物が多い。
復興中の建物もまた壊れてしまうほどの大きい揺れだ。
「…奴は…私に気が付いている。私を目掛けて…来る…」
カナタは呟く。
元死竜であるカナタには分かるのだろう。
「カナタ、大丈夫か?」
「平気―――じゃないけど…でも、大丈夫。皆が居るから。」
「おう、俺様たちが支えるぞッ」
「カナタ、頑張って!」
「ありがとう…2人共。」
「皆の力を1つに…眩いな、デーガ。」
「ケッ、皆の世界だ。協力してもらわねぇと困るっての。」
カタストロフとデーガは皆の姿を見る。カタストロフは皆の力が集まっていることに感動する。デーガは当然と言わんばかりの態度を見せるが笑みを浮かべている。
「あ、歩くだけで…あんなのに一撃でも食らわされたら終わりだぞ…!」
ザワつく兵士たち。ビライトたちも身震いをする。
「今、会敵した。」
神力解放しているナチュラルが報告する。
「会敵…?」
レジェリーが尋ねる。
「死竜を生んだのは彼だ。故に時間稼ぎは彼に―――アトメント・ディスタバンスに託す。」
「アトメントが?」
ナチュラルは頷く。
「タイトース・レクシアも共に向かっている。ヒューシュタットにはアリエラ・アーチャルが結界を張っている。そしてドラゴニアはグロスト・ガディアルの防御壁が健在。ワービルトには禁断魔法が使えるアルーラ・ポットが居る。三大国家の守りはある程度保たれている。」
ナチュラルは遠くに見える災厄の竜王を見る。
「しかし、奴をこれ以上進行させるわけにはいかない。故に…アトメント・ディスタバンスとタイトース・レクシアが出た。」
「アトメントとレクシアだけでどうにかなる相手なのか…?」
「足止めできる確率65%。やや不安な数値であるが現実的な数値だ。」
「無事でいてくれよ…アトメント、レクシア。」
ビライトたちは2人の無事を願う。
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「死竜、エグリマティアス…グルル…必ずこの手で始末してくれるわ…だがしかし…フフ、蚊ほどの小さな人の子などになりおって…我が敵にもならぬわ…!!」
憎しみの目でドラゴニアを見つめながら1歩、1歩と足を進め、その度に世界が揺れる。
「そしてこの世界を再び地獄に染め、我が物としてくれるわ…!!」
「ンなことさせねぇけどな。」
災厄の竜王の眼前にアトメントが現れた。
「…貴様は…何者だ…?その小さき身体で我が前に立つか。」
大きさは雲泥の差。
災厄の竜王の目よりも小さいが、その存在感はやはり神。災厄の竜王にとっては蚊も同然の大きさ。気に留めることもないだろう。
だが、災厄の竜王はアトメントの存在を感じ、問を放つ。
「俺の事は分からねぇか。悲しいもんだな。俺はお前を生み出した存在なんだぜ?」
アトメントはかつて邪神だった。そんな自分が生み出した存在である災厄の竜王はアトメントのことを認識していない。
「…我を生み出した…?貴様は…神だとでも言いたいのか…?」
「実際神なんだけど?」
「…フッハハハ、冗談を。そんな小さな身体で神を名乗るか。」
「身体のでかさなんて関係ねぇさ…試してみるか?」
構え、そして微笑んだ。
「俺は時間稼ぎだ。相手をしてやるよ。」
アトメントは指で挑発し、竜王を煽る。
「愚かな…!」
竜王は腕を振り回す。それだけで直線状の建物や植物たちが大きな音を立てて、なぎ倒される。
アトメント目掛けてそれは襲い掛かるが、アトメントはそれをなんなく躱し、竜王の傍まで行く。
「でかい分だけ小さい俺には当たらねぇ。俺はあらゆる戦い方を瞬時に見抜き、対応する力がある。」
「…!」
アトメントは笑い、神力解放する。
「俺はアトメント・ディスタバンス。戦を司る…元邪神だ。」
そして竜王の顎にアッパーを食らわせる。
「グおッ!?」
何千倍もの大きさの差がありながらアトメントの一撃は空を震わせ、竜王は数歩後退した。
「何だその力は…ッ。」
「だから俺は神様なの。お前の生みの親。」
「不愉快な奴め…ならば我が一撃を受けてみるがよいわ…!」
竜王の口が大きく開き、膨大なエネルギーが溜まっていく。そのエネルギーの波動で周囲の大地が揺れる。大きな地鳴り、そして地割れが巻き起こっている。
赤空の雲も逃げ出すように消えていき…誰も寄せ付けないほどの膨大なエネルギーだ。
「ほう。こりゃなかなか。」
アトメントは笑っているが…
「アトメント、あまり相手を煽るでない。お前が良くてもこの世界が良くない。」
後方から応援に来たレクシアがアトメントに注意する。
「だーいじょうぶだって。こんなもん空の彼方に吹き飛ばしてやるよ。それに、こいつは時間稼ぎ。ガディアルの野郎の準備が整うまでの…な?」
「で、あれば煽る必要はないであろう。」
「ただ足止めしてるだけじゃ勿体ないじゃねぇか。それにちょっとぐらい苦戦した方が面白い。せっかく暴れられるんだから楽しもうぜ!」
「全く…そなたといい、デーガやカタストロフ、そしてガディアルと言い…血気盛んな奴らが多いのう…」
レクシアは呆れながらも、アトメントの身体に手を触れる。
「ワシの魔力を分け与えてやるから、必ずシンセライズに被害を与えるでないぞ。」
「おっ、魔法始祖様の魔力を込めてくれるなんてありがたいじゃん。」
アトメントの全身に強力な魔力が循環する。
神力解放で生えている炎の翼がより強く燃え上がり、アトメントの周囲はまるで火山のような灼熱に包まれた。
「フム…本気じゃな。アトメントよ。」
「久々の全力って奴だ。血が滾るなァ。」
アトメントはやる気十分だ。レクシアはその熱気に圧倒されながらも、調子に乗り過ぎているアトメントに少しばかり呆れていた。
だが、レクシアにはアトメントならば何事もなく事を進めるだろうという確証はあった。
煽りから起こった災厄の竜王の一撃だが、アトメント自身はこのシンセライズのことを大切に思っていること、そして自分の過去に対する罪の意識を持っていることを同志、同じ神として在るレクシアは知っているからだ。
「自分が誘発した事態じゃ。責任は取るのじゃぞ。」
「あったぼう。」
アトメントは手を大きく広げ、宙に巨大な炎を纏った隕石を生み出した。徐々に大きくなっていき、ある大きさになった瞬間、グンと一気に巨大化した。
その大きさは災厄の竜王の半分ぐらいの大きさだ。それだけではない。
アトメント自身の身体と隕石は同化しており、隕石のエネルギーを一身に抱えているのだ。
「ガディアルとの決着で使った力じゃな。」
「その話はすんなっての。結構根に持ってるんだ。」
「ホホ、それはすまんかったのう。」
アトメントはこの力でかつて邪神だった頃ガディアルと戦い、敗北したようだ。
だが、あの時アトメントは半身だったという。今のアトメントが持つこの力は完全フルパワーの状態だ。遠く離れた直線状にあるドラゴニアからも見える程の巨大隕石と災厄の竜王が衝突寸前だ。
それを見ているビライトたちも驚いているが、ナチュラルやガディアルなど、アトメントの実力を知っている者たちは何も驚いてなどおらず、これからの衝突も必ずなんとかするだろうという雰囲気を感じた。
アトメントは元邪神であるがその実力は戦を司るという名の通り、絶対の信頼を寄せているのだ。
「死ぬがよい…!!」
竜の大きな口から巨大なプラズマ光線が放たれる。
その野太い光はアトメントの同化した隕石よりも大きい。だが…
「ヌルイな!そのデカさなら俺も真似出来るぜッ!?」
アトメントは負けじと一気に巨大な隕石へと膨れ上がり、強く大きく燃え上がる。
そしてその隕石はプラズマ光線に直撃する。
激しい音がシンセライズの赤い空に響き渡り、それは遠く離れたドラゴニアまでもはっきりと聞こえていた。
周囲は小惑星のような燃えた固形物が空から隕石のように地面に落ちていく。
ヒューシュタットの方ではプラズマ光線が拡散され、大規模な電波障害が起こり電気や水道などのインフラが大きな被害を受ける。
「やれやれ。既に被害甚大ではないか…」
レクシアは落下していく隕石から発する炎は消化。その隕石が落ちていく範囲を結界で覆い、これ以上の二次被害が出ないように努める。
「クッ、クッククク…楽しいぜ…!」
アトメントは激しいぶつかり合いに興奮し、血気盛んで狂戦士のような笑みを浮かべている。
「我が光を受け止めるだと…!?」
竜王は驚くが…
「ならばこれも同時に受けるがよいわッ!」
竜王のプラズマ光線に加え、両手からは禍々しい闇の力が放たれた。
「フン!胸糞悪い力だ。あの時を思い出す。だが…」
アトメントは更に力を高め、竜王の放つ闇の力を隕石の中に取り込んでいく。
「何…?」
「悪いな。お前の光と闇の力は俺にとっては因縁でな。つまりだ…」
アトメントの顔が邪神のように鋭くなりそして赤い眼光で竜王を見て笑う。
「対策済みなんだよ。」
アトメントの身体から溢れ出るは邪神だったかつての自分が持っていたどす黒い負の力。
それは邪神から解放された時に消えたはずの力のはずだ。だが、アトメントはそれを保有していたのだ。
「ホホ、あやつめ。シンセライズの為ならば邪神となり戦うことすらも望むか。」
レクシアは微笑んだ。アトメントは邪神の力を持ちながらも立派な世界を守る抑止力であり、八神の一柱だ。
それは例え世界を破滅に追いやった力であろうともアトメントの支配下となれば、それは善にもなる。カタストロフやデーガが持つ、魔王の力と同じようなものだ。
「我が闇が…光が…!」
「光と闇は決して相容れることはできねぇ。2つの力は反発しあう。だが…強い闇は光を飲み込み、強い光は闇を飲み込む。俺にはその両方を掌握する強
い光と闇を持つ。」
アトメントの持つ邪神の力は強い闇。そしてこの世界を守りたいと思う心、そして神として身に宿す神力は強い光だ。
「てめぇの光も闇も全部俺のモンだ。それにだ…俺はお前如きの力よりも――“もっと強い光と闇を知っている”。」
「何だと…!ッ、オオッ!?」
驚く竜王。そして力を吸収して隕石ごと身体に突撃したアトメントは竜王のバランスを崩し、転倒させたのだ。
山脈よりも遥かに巨大な大きさを誇る竜王の転倒は大地を更に大きく揺らした。
レクシアの結界によりそれはある程度は抑え込まれるが、ここから最寄りの町や村ではそれなりに大きな地震となり襲い掛かっていた。
「アトメントよ、手加減をせんか。」
「ハハッ!楽しいぜッ!あーあ。もうそろそろ終わっちまうのもったいねぇなぁ!!」
「…聞いとらんわい。」
レクシアは呆れる。
そして、レクシアは感じ取っていた。ドラゴニアの方では間もなく準備が終わろうとしている。
世界中からたくさんの力が集まり、それはドラゴニアを明るく照らしていた。
それはアトメントも感じ取っているようで、アトメントは仕上げに竜王を神力で拘束し、地獄の炎を浴びせた。
「この程度の炎で我が屈するかッ…!このような真似をして…何のつもりだッ…!」
「言ったろ。俺は時間稼ぎなの。そんな時間稼ぎに足止めされてるなんてお前もその程度ってことだよ。」
アトメントはドラゴニアの方角を横目に言う。
「…許さぬ…我に恥をかかせおって…!許さぬぞおおッ!!」
竜王は再び立ち上がり、アトメントに爪をふりかざす。
「だから遅いって――――あ?」
アトメントは一瞬思考が停止した。
身体が一瞬止まったような気がした。そして、アトメントの隕石に爪が直撃し、隕石が解除されてアトメントは地面に激しく叩きつけられた。
「いっっっ―――!!!」
遥か空から地面に叩きつけられたアトメントに激痛が走る。
「アトメントーーッ、オオッ!?」
レクシアも同じく身体が一瞬止まったような感覚のあと、腕で弾かれる。
地面の激突は避けられたが、全身に大きな打撃を受けたレクシアは項垂れる。
「―――邪魔をするか…!!」
竜王は虚空に叫ぶ。
(お前が雑魚に苦戦してるからちょっと手を貸してやったのさ。)
イビルライズの声が響く。
「…ッ、イビルライズの干渉か…!油断したぜ…」
アトメントは全身を強く打ってしまい、動くことが難しい状態になってしまった。神力解放も解除されてしまったアトメントはため息をつく。
「あんなでけぇ身体じゃそりゃ一撃食らったらこうなるわなぁ……つーことで、あと頼んだわ。」
アトメントはそう言い、ドラゴニアに居るガディアルたちに託すことにした。
―――
「アトメントが…!」
「調子に乗るからだ馬鹿。」
ビライトたちからもその様子は見えている。
心配をよそにデーガは呆れる。
「心配しなくてあのぐらいじゃ死にはしねぇよ。ただしばらくは動けんだろうな。」
「…ッ、まだなのか…!」
ビライトはガディアルを見る。ガディアルは目を閉じ、意識を集中したままピクリとも動かない。
その瞬間にもキッカたちは力を与え続け、そして世界中の人々もまた力を送り続けている。
(やはりボクが力を貸さないと駄目みたいだね。)
「!イビルライズ…ッ!」
響き渡るイビルライズの声にガディアル以外の全員が反応する。
(君たちの国を完膚なきまでに滅ぼしてあげよう。)
「何だと…!?」
ボルドーがそう呟いた瞬間だ。
ドラゴニアの上空の空間が歪む。
そして―――
「なっ…!!」
「わ、わわっ!!」
竜王が現れたのだ。空間を利用して一気にドラゴニアの上空へと移動してきたのだ。
竜王の巨体は国全土を覆うほど巨大で、ドラゴニアは竜王の影で覆われる。
「おいおい…シャレにならねぇぞ…!」
冷や汗を流すボルドー。そしてそれを見つめるカナタ。
「…災厄の竜王…!」
「感じるぞ…感じるぞおおおおッ!!!エグリマティアスゥゥゥゥッ!!!!」
咆哮で国全体が大きく揺れる。
「きゃっ…!!!」
「危ねぇ!」
振動でフラつくキッカをボルドーが支える。
「あ、ありがと…」
「あぁ。けどよ…あんなのどうしろってんだ…!それにこのままだとドラゴニアが…!」
国民たちが悲鳴をあげ、パニックで混乱している。上空に国全体を覆えるほどの超巨大生物が現れ、そしてドラゴニアを狙っているのだ。
「…私を、狙っているんだ…だから…」
カナタは何処かへ向かおうとするが…
「カナタ!」
ボルドーはカナタの腕をつかむ。
「…私がここから離れたら…!」
「あんなでかい奴に追われちまってるなら何処に逃げても一緒だ。だったら…ここに居ろ。」
「でも…」
「何があっても一緒だ。俺様たちは家族なんだからよ。」
ボルドーはカナタを1人にはしない。
「私も一緒に居るよ。」
「…ありがとう。」
キッカも笑顔でカナタに言う。手を握り上空を見る。
「…私に…災厄の竜王と戦える力があれば…」
カナタはそう呟くが…
「…力なら貰っている。」
ガディアルが呟いた。
「ガディアル…」
「―――来た。」
ガディアルの目が開く。
そして…
――ドッ
「…?」
「…なんだ…?」
大地が…心臓が鼓動打つように揺れた。
そして―――赤空の雲が開け、空までも揺れているように見えた。
大地も、森も、空も―――
全てがドックンと脈打った。
そこには確かに大きな力を強く感じた。
「…!」
「なんだこれ…!」
ビライトたちもその力を感じていた。
「これ…ガディアルの…?」
レジェリーがカタストロフに聞き、カタストロフは頷いた。
「始まるぞ。」
カタストロフはそう呟き、レジェリーを抱える。
「カタストロフ…?」
「皆も何かに掴まった方が良い。これから起こることは…この世の全てを凌駕する…世界貫通の一撃だ。」
「…!」
カタストロフの言葉にビライトたちは近くの建物、柱などに掴まる。レジェリーはカタストロフと一緒にその時を見届ける。
――
「どうなってんだ…?何か変だぜ。」
ドラゴニアに向かうヴァゴウとファルトもこの異変に気が付いていた。
何か大きな力が…途方もない力がドラゴニアに集まってる。そしてそれが世界中に影響しており、世界中で何か鼓動のようなものが蠢いている。そんな感覚だ。
「それにあのでっけぇドラゴン…一体何が起こってやがるんだ。さっきまで東の方に居たのに急にドラゴニアに現れたりしやがって…!」
「もう少しでドラゴニアだ。飛ばすぞ。」
「おう、頼むぜファルト!」
ヴァゴウとファルトは合流するために急ぎドラゴニアに向かう…
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ガディアルの周囲には世界中から集まった力、そしてキッカたちが与えた力が纏われている。
そして…
「…神力…解放。」
ガディアルのその一言で―――世界全土がドッと鼓動を鳴らした。
「…!」
身体の芯を貫くような鼓動が全員の身体全体に伝わる。
「空の遥か向こうから何かが押し寄せてくるような…なんだこのプレッシャーは…!」
ザワつく一行。そして竜王もまた、その力の大きさに気づき…
「何だこの力は…!これは…これは…」
竜王は驚き、そして地面目掛けて突進しようとする。
「止めねばならぬ…これだけはッ!!」
竜王の口からプラズマ光線が放たれる。
「ヤベェ!!」
巨大な口から放たれる光線はドラゴニアの城下町全てを簡単に呑み込めるほどだ。
「カナタ!キッカッ!!」
「ボルドー!」
「ボルドーさん!!」
ボルドーは傍に居る2人を庇うように隠す。
(メルシィ…ブランクッ!!)
下で見守ってる2人のことが頭に過るが、間に合わない。ならばせめてこの2人だけでも。
ボルドーは必死に2人を庇おうと動く。
「わああっ!?」
「カタストロフ!」
「大丈夫だ、信じろ。」
「…!」
ビライトたちも目を瞑る。
レジェリーはカタストロフにしがみつく。カタストロフはガディアルを信じ、クライドは上空を見上げる。
だが、その光線がドラゴニアを吞み込むことは無かった。
「…――…あ?」
ボルドーは上を見る。
「…」
「ガディアル…!」
光線よりも遥かに小さいはずのガディアルが上空でそれを受け止めていた。
ガディアルの全身からは黄色い雷、白い雷、黒い雷と3色の雷が暴れ狂うように纏われており、それがバチバチと大きな音を立てている。
「…何…!その、力は…!!我の――!」
「…生憎だが、光闇の所有者は貴様だけではない。ここにも居る。」
ガディアルは力を込め、竜王の放った光線に電流を流し込み、大きな音を立てて消失させた。
「何…!なっ、なっ…!?」
そして―――一瞬だった。
ガディアルから竜王まではかなりの距離があるはずだ。だがガディアルは一瞬にして竜王の前まで移動していたのだ。
「ハアァッ!!」
ガディアルの雷を纏った拳が竜王の顔面に直撃した。
「ガアアッ!?」
その一撃で巨大な竜王の全身に雷が広がり、更に上空へと吹き飛ばされる。
「ば、馬鹿な…!こんなことが…あってたまるかァ!!」
竜王は再び光線を繰り出すが、ガディアルは涼しい顔でそれをあっさり受け止め、先程のように消失させた。
「…この力を長時間使っていると世界が疲弊してしまうのでな。早急に済ませるぞ。」
ガディアルはそう言い、竜王の前に再び移動し、一撃、腹部に拳を食らわせる。
「グッ…オオオオッ!!」
それだけではない。そのまま拳を前に押し出し、ドラゴニアから離れていく。行先は竜王が最初に現れた東部だ。
「ガッ、おお…!おのれェッ…!」
竜王は反撃をしようとするが…
「身体が…動か―――!!」
「…もう貴様は指一つ動かすことは出来ぬ。」
ガディアルは先ほどの拳一撃で自分より遥かに大きい竜王の身体を麻痺させたのだ。
「舐めるなぁッ!!」
竜王は口から光線を放つ。ガディアルはあえてそれを全身で受けるが…
「グッハハ!!油断したな……何ッ…!?」
「…くだらぬ一撃だ。」
ガディアルには傷1つついていない。
いや、ついた傷が即座に塞がって体力も何も減ってすらいないのだ。
ガディアルの持つ権能の1つ。自身が神になってから得た力…彼が持つ光の力を組み合わせた超再生能力。
自身の魔力が尽きない限りガディアルに傷がつくことはなく、無限に体力が減らない状態を生み出すことが出来るのだ。
そしてガディアルは世界を守る最後の砦として創生の神エテルネルから加護を受けている為、保有している魔力はどの神と比べても比較にならぬほど膨大のものだ。例え100回、1000回、いや、それ以上傷つけてもガディアルには何の問題にもならぬほどの――
――
「す、すごい…これが…世界最強の守護神の力なんだ…!」
ドラゴニアでその様子を見ているビライトたちは口が塞がらないほど驚いている。
ブレイブハーツが使えない。ただそれだけの為にイビルライズを倒すことが出来ないが、それ以外の相手ならば誰が来ようと彼が負けることは無いのだろう。
そう思わせる程、圧倒的だった。
自分よりも遥かに大きいドラゴンを拳一つで行動不能にし、渾身の一撃を受けても傷1つもついていない。
「…格が違う。」
先程まで行動を共にしていたクライドは、ワービルトで見せていたガディアルの力などもはや簡単なことであったのだと思い知らされた。
「大丈夫だと言ったろ?アイツは格が違うんだよ。」
デーガは驚くビライトたちに言う。
「にしても、ここまでとは思ってなかったよ…」
――
ガディアルは手を前に出す。
「終わりだ。」
「クソオッ…ならば…これでも…貴様は我を殺すかぁッ!!!イビルライズよッ!アレをよこせッ!!」
竜王はイビルライズに向かって叫ぶ。
そして、現れたのは…
「…フン、小賢しい真似をする。」
ガディアルの目の前には…かつて、ガディアルが守った仲間たちの魂だった。
ガディアルがまだ神である前、遠い昔、ディスタバンスの世界で過ごした軍の仲間たち。
その中でも特にガディアルが共に歩み続けた少年、そして赤き瞳と青き瞳を持つ紅蓮色のドラゴンがガディアルを見つめている。
悲しそうな目をしているが…それは何かを訴えているように見えるが、ガディアルには全てが分かっていた。
周りに居た大勢のかつての仲間たちもガディアルを見つめている。
その目には悲しそうな顔とは別に、確かに覚悟の光が見えた。
「…あぁ、分かっているとも。」
ガディアルは小さく微笑んだ。
「むしろ感謝をするべきか…」
ガディアルは更に力を集め、今にもその一撃が放たれそうだ。
「なんだと…!貴様、目の前に居るのが誰だか分かって…」
「あぁ、分かっているとも。」
ガディアルは雷を纏った拳を竜王の顔に叩きつけた。
「グアッ!?おのれ…ッ、グアッ!?」
殴られ、顔を上げる竜王に更に一撃。
その拳には、確かに“怒り”が込められていた。
「久しぶりに顔を見れたことに感謝したいぐらいだが…残念だったな。この程度で俺が手を緩めると思ったか?」
「な…ッ…グッ…何…!」
何度も重い一撃を叩きつけ、竜王に喋る隙も与えぬほど…
「あーあ。ありゃキレてるわ。」
「怒りの感情をスキャン。」
デーガは呆れ、戦いの様子を投影し、ビライトたちに見せているナチュラルは冷静に呟いた。
「我が最愛の友たちを利用したこと。その行為がどれほど俺の怒りを掻き立てたか…その身をもって知るが良い。」
「まっ、待て…ッ…!」
ガディアルの身体に纏われた雷が更に激しい音を立てる。周囲の雲が雷を纏い、そしてガディアルに集まる。
大地は激しく揺れ、そして空気までもがガディアルに吸い寄せられていく。
世界中の魔力すらも彼に力を貸すかのように魔力の流れも激しく揺らぎ、舞い、そして東へと集まっていく。
この世の全てが今、彼に集まってる。そんな気になるほどだった。
「――“その者の雷は激しく、荒く、そして轟いた。”」
「?」
デーガが呟く。
「“大地も、空も揺れ、纏われた三色の雷は暴れ、そして爆発するように大地を抉る”」
ナチュラルが。
「“それは正に…世界を救いし希望の雷にもなり、滅びの雷ともなるだろう”」
カタストロフが。
「…その文面は…!」
抑止力たちが呟く文にボルドーは気づく。
(読んだことがあるぜ。昔、旅してた時だ。ヒューシュタットに滞在していた俺様が読んだ歴史書に記されていた…)
「“そんな暴れ狂いし爆発した雷を操りし竜は平和を望み邪神に立ち向かった。人々は誇り高き戦士である彼をこう呼んだ。”」
抑止力たち、そしてボルドーはその次の文面を言葉にする。
「“光闇の爆雷竜と。”」
―――記:ウィル・エトワス
「グッ、グアアアアアッ!!馬鹿なッ!この我がァッ!!」
「…災厄の竜王。貴方が居る世界はもう何処にも無いの。だから…もうあなたは…眠りなさい。」
ドラゴニアから強く、心から言葉にして願ったカナタ。死竜エグリマティアスとして、死竜の王である災厄の竜王へと伝わったその言葉は竜王を絶望させた。
「エ、エグリマティアスゥゥゥゥッ!!!!」
「お願い、ガディアル!全てを…消し去ってッ!!」
ガディアルの手から放たれた雷は巨大で、野太い雷の柱として打ち出された。周囲には三色の雷が纏われ、それは目の前に居たガディアルの友たちの魂ごと竜王の身体を貫いた。
「ガアアアッ!!!?」
「…終わりだ。災厄の竜王。」
更にはその後方にあった竜王が現れた空間すらも貫通し、空に大きな世界の狭間へと通じる道が開かれたのだ。
「皆、またいつか会おう…我が友たちよ。」
ガディアルはそう呟いた。
そんなガディアルの耳には確かに聞こえていた。友たちの声が。
(――ありがとう。)
(――ありがとうございました。将軍。)
(頑張れ。グロスト。)
(―頑張って―――グロスト。またね。)
「…あぁ。またな……ウィル。ゴードス。皆。」
空の雲は全て消え、そして大地の揺れも収まり、ただ東の空に開いた巨大な世界の狭間への入り口だけが禍々しく残る。
「ヘッ…相変わらずとんでもねぇ力だぜ…」
地面から見ていたアトメントは悔しそうに笑った。
「フム…同じ仲間とは言え、末恐ろしい者じゃ…」
レクシアは嬉しそうに微笑んでいた。
「お、終わったのか…!災厄の竜王は…?」
「消え去った。我々の勝利だ。」
「「「ワアアアアアアアーーーーーーーーーッ!!!」」」
カタストロフの一声により、ドラゴニア兵たちは歓喜の声を上げた。
「よ、よかった!なんとかドラゴニアは守られたのね!」
「ウム…良かった。」
「あぁ!本当に…!そうだ!キッカたちは!」
ビライトたちも喜び合う。そしてすぐにキッカたちのいる屋上へと向かった。
屋上でもキッカたちが力の解放をやめ、地面にへたり込んでいた。
「ハァ…ハァ…やったね…ボルドーさん、カナタ!」
「おう!へへっ!一時はどうなることかと思ったがなんとかなったなァ…」
「…さよなら…災厄の竜王。2人共…最後まで一緒に居てくれてありがとう…」
カナタの笑顔に、キッカとボルドーも微笑んだ。
「あなた!!!」
「ぱっぱ~」
「メルシィ!ブランク!」
ボルドーたちが気がかりで屋上へと上がってきたメルシィとブランク。
走り、ボルドーとカナタに勢いよく抱き着いた。
「っとと…いてぇよメルシィ。」
「…メルシィ…」
「――無事で…良かったです…!」
「あうあ!」
「…おう、約束守ったからな。メルシィ。」
「…ごめんなさい、心配かけちゃった…」
涙を流し喜ぶメルシィを見てキッカは笑う。
そして…
「キッカ!!!」
「キッカちゃんっ!!!」
ビライトとレジェリー。
そして後ろにはクライドとカタストロフが居た。
「あ、お兄ちゃんたちだ!」
「キッカ!大丈夫か!?怪我は!?身体は!?」
ビライトは慌ててキッカを心配して声を荒げる。
「だ、大丈夫だよっ!もうお兄ちゃんってば…でも、心配してくれて嬉しいよ。」
「キッカちゃん、大丈夫そうだね…良かった…!」
「うん、私役に立てたよっ!」
喜び合うビライトたちとボルドー一家。
「おおおーーーーい!!!」
「あっ!あれはファルトさん!?」
空を指さすレジェリー。そこにはファルトに乗ったヴァゴウの姿が見えた。
「オッサン!」
「ヴァゴウ!!」
手を振るビライトとボルドー。
「すまねぇ!間に合わず全部終わっちまったなッ!でも…よくやったなァ!!」
ファルトから降りて再会を喜ぶビライトたち。これで一行は全員集合だ。
「元気そうじゃねぇかボルドー!」
「ンなことねぇよ、ボロボロだぜ。」
「ガハハ!でも、生きてる!こんなに嬉しいことはねぇ!そして、また会えた!」
「そうだな…!」
ボルドーとヴァゴウは再会を喜び握手を交わした。
災厄の竜王、そして最悪の勇者を退けたビライトたち。そして東の空へ蠢く世界の狭間への入り口。その奥にイビルライズは居る。
あの向こうに…最後の戦いが待っているのだ。
大きな戦いは終わったが…まだ最後の戦いは始まっていないのだ。
そして、それは―――間もなく、始まろうとしているのだった…