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番外編SS

感想で続きが見たいというご希望をいただいたのでSSを書きました。イザベルの話を書くつもりが、いつの間にか影たちの話になっていました……。

 やっほー!オレ、トープだよ。

 オレってば王国一やかましい影って評判なんだぜ?知ってる?


 影って?影は影だよ。王家の暗部を司る者たち。カッコいいだろ?だから本名も明かせないんだよねー。その中でもオレは王太子付きのシュエット班に所属してる。

 まぁ王太子付きって言ってもシュエット班はあんまり王太子の側にいることはないけど。十年前に王太子殿下が婚約してから婚約者のテレーズ様の護衛が主な任務になったからね。






「今日はどうだった?」

「はい。毎日毎日毎日テレーズ様のご様子を逐一報告させる殿下は気持ちが悪いと再認識致しました」

「ぶふっ!!!」


 スリ姉の遠慮のカケラもない物言いにオレは思い切り噴き出した。

 今日も最高の切れ味だぜスリ姉!


 オレたちは毎日、夕食を終えて部屋に戻ったエミリアン殿下にその日の報告を上げる。今日の警護はオレとスリ姉。スリ姉の方がベテランだし頭イイから、スリ姉と組む時はいつもスリ姉がしゃべる。


 王家の影は王族相手でもジキトウ?んーと、いきなり部屋に行って話しかけてもいいことになってる。シュエット(リーダー)が「任務のトクセージョー」とか言ってた気がするけどよく覚えてねーや。

 それにしたって罰せられてもおかしくない発言だけど、スリ姉はエミリアン殿下の乳母の末娘らしくって、殿下とは産まれた時からの付き合いだからいっつもこんな感じ。

 殿下も殿下で見た目は儚げな美青年のクセに神経は鋼鉄製なもんだから、スリ姉に吹雪でももう少しあったけーんじゃねぇのって目で見られても何も感じないらしい。


「そうか、気をつけるよ。じゃあ今日のテレーズの動向を報告して。命令だよ」

「チッ……畏まりました。朝は七時に起床。朝食にはーーーーー」


 笑顔で嫌みをスルーされたスリ姉はあからさまに舌打ちをして報告を始めた。笑い続けてたら報告の合間に鋭い蹴りが飛んできて危うくかわす。

 スリ姉はテレーズ様大好きだもんなー。だからといって命令無視して動向を隠したり嘘の報告をしたりはしないのがプロだしカッケーと思う。蹴りはあぶねーけど。入ってたら肋骨折れんじゃね?


「ーーーーー以上です。恐らくアロシュ家は近日中に何か仕掛けて来るかと」

「そうか。ではしばらく学園内の護衛責任者はシュエットに任せる。サブはスリかアレニエに。しばらく忙しくなるが後日埋め合わせはするから」

「畏まりました、シュエットには私から申し伝えます」

「ありがとう。よろしく」


 影の仕事は巷で想像されているよりずっとちゃんとしてる。休みはきちんと貰えるし、基本給以外に場合によっては危険手当も付く。裏切られたらシャレになんないからかな?




 殿下の部屋から出るとスリ姉はサッと当たりを見渡して誰もいないことを確認した。そんであっという間に窓から飛び出して行った。

 最短経路でフォートレル邸に向かったんだろうなー。オレに声かけなかったってことはオレは今日これで上がっていいってことだ。ラッキー。スリ姉の方は分単位で残業代を請求するんだろうなー。いやースリ姉クールだわー。

 定時で上がれたオレは足取りも軽く行きつけの定食屋に向かった。




 しばらく王都中で噂になる「男爵令嬢階段落下事件」が起こったのはそれからたったの二日後だった。


 オレも見たかったなー。あまりに予想外の動きで、普段は鉄仮面のように表情の変わらないリーダーがあっけに取られてたって当日サブについてたアレニエ姉がニヤニヤしてた。






 コトが一段落してからシュエット班全員がエミリアン殿下に召集された。もちろんテレーズ様の護衛には別の班がキッチリ送られてる。


「テレーゼにお前たちをつけておいて正解だっただろう?」


 開口一番したり顔で殿下がそんなこと言うから、すかさずスリ姉が真顔で指摘する。


「婚約者に護衛をつけるのと、つけている護衛に生活の一部始終を報告させるのは気持ち悪さが圧倒的に違います」

「スリ」

「ではリーダーはこの国の次代を担う王太子がこんな歪んだ好意の示し方しかできない変態野郎でもいいんですか? 王家の忠実な臣下として黙認するのが正しいと?」

「………………………………いくら幼馴染といえど砕けすぎた態度は示しがつきません」


 リーダーがスリ姉をたしなめたけど、畳み掛けるように詰問されて思いっきり目を逸らす。それ、殿下が変態野郎だって認めたも同然じゃね?ウケる。


 ちなみに殿下本人はこんな会話が目の前で繰り広げられてるのに、いつも通りおだやかーって感じの笑顔を浮かべてる。メンタル強すぎでしょ。笑うの我慢しすぎて腹痛くなってきた。



「さて、いいかな? 今日君たちを集めたのは、イザベル嬢の処遇が決まったからなんだ」

「いいかな? じゃないわよ。あんたの話をしてむぐっ!」

「スリちゃぁん、気持ちはわかるけど話が進まないからちょっと我慢してねぇ」


 平然と話を切り出した殿下をスリ姉がまた罵ろうとしたけど、アレニエ姐に口を塞がれた。


 ちなみにシュエット班は五人チームだからこの場にはリーダー、スリ姉、アレニエ姉、オレの他にレザールのおっさんもいるけど、おっさんは入室してからいっぺんも喋ってない。なんだったらここひと月くらい喋ったとこ見てない気がする。


 スリ姉が強制的に黙らされたのでリーダーが話を進める。


「……イザベル嬢の処遇と私どもを召集したことに何か関係が?」

「彼女を『影』候補として君たちに鍛えてもらおうかと思っていてね」

「彼女を王家の影に?」

「名案だと思わないか? 実はテレーズの案なんだけどね。彼女、度胸があるし頭も回る。それに階段から落ちた時ほぼ無傷なのが不思議なくらいの飛び込み方だったんだろう?」

「そういえばそうねぇ。あの時はテレーズ様の護衛が優先だったからあんまり気にしてなかったけど。結構な長さの階段だったし、私だったら怪我しない自信ないわぁ。スリちゃんくらい身が軽いんじゃないかしら?」


 リーダーと一緒に事件を目撃してたアレニエ姐が同意した。アレニエ姐は諜報メインだからそんな素早くないけど意外と力は強い。今も暴れるスリ姉をしれっと抑えながら会話に参加してる。

 階段落ちかー。やってみたことないけどなんか面白そー。オレも今度試してみようかな。


「それに正直な話、彼女他に行き場がないんだよね。官憲が困ってたからテレーズに話してみたら『影』候補として鍛えたらどうかって」


 天才だよね、僕の婚約者。と殿下は惚気る。もう本当どこを見てアロ何とか男爵は婚約破棄いける!と思っちゃったんだろうなー。謎。


「畏まりました。配属日が決まりましたらお教えください」

「いきなりテレーズの護衛はさせられないから、しばらく護衛班を別の『影』に頼みたい。引き継ぎも頼むよ」

「御意に」




 殿下の部屋から下がって屋敷に向かう道すがら、オレはふと思いついてリーダーに尋ねた。


「リーダー、イザベルちゃんが影に入るなら名前(コードネーム)どうすんの?」


 リーダーは少し考えて、何か思いついたように口の端を上げた。リーダーが素で笑うなんて珍しい。


「ミネ、でいいだろう」

「ミネねー、りょうかーい」


 ミネ(猫ちゃん)か。どんな子なんだろうなー?楽しみ。

 オレは鼻歌混じりで屋敷へと戻った。



 そんで早速階段から落ちてみたら、気絶してスリ姉にめっちゃ怒られた。

 

 

 

簡単な影たちの紹介

シュエット:シュエット班リーダー。諜報員としても戦闘員としても能力が高い。きっと苦労人。

トープ:班内で一番の若手。快楽主義者な面がある。階段落ちで骨折はしなかったが、しばらく身体中が痛かった。ミネちゃんすげー。

スリ:エミリアンの幼馴染。エミリアンの王太子としての器は認めているが、テレーズが絡むと本当気持ち悪いと思っている。

アレニエ:お色気お姐さん。関節技や毒などに精通。

レザール:班内最年長だがおっさんと呼ばれるとほんのりショックなお年頃。際立って無口。

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