第七章:チート能力
新生の自分を認めて、受け止めてくれた優しい人に囲まれて幸せなキャサリンに、新たな能力が...それが吉と出るか凶と出るか...
驚きのチート能力
私は本当に幸せものです。あの日を境に変わった私をみんな受け入れてくれた。みんなの笑顔が胸にしみる。胸がいつもポカポカになった。そして、その幸せな気持ちとともに、ある欲求が吹き出した。
歌いたい!突然、胸が一杯になって歌いたくなる。そして、気付いた。今まで考えもしなかったチート能力が自分に備わっていたことに。
本当に驚いた。あんな能力が自分にあったなんて。こんな設定はゲームではなかったのに。もう、本当にあのゲームの設定とはかけ離れてしまったのかもしれない。ゲームの強制力とか本当にあればどうなるか、まだ分からないけど。
庭を散歩していた時、みんなの笑顔を思い出して、胸がポカポカした。そして、隣りにいるお兄が優しく笑いかけてくれるのを見て、とても暖かい気持ちで胸がいっぱいになった。その時、突然歌いたくなってしまい、歌ってしまった。心の限り。今の幸せな気持ちを乗せて、思い切り歌ってしまった。
その時、突然、歌とともに金色のキラキラしたものが辺りに降り注いだ。それだけでも異常なのに、降り注いだ後の草や花が急成長した。その周辺は心落ち着く空間に変貌した。そこにいると穏やかで安らかな気持ちになる。
側にいたお兄が驚きの表情で私を凝視していた。次の瞬間、驚きつつも穏やかなものに変わり、今まで見たことがないとてもゆったりとリラックスした(フニャって感じの緩んだ顔)、しきったお兄が、私の側にいた。
お兄って可愛い!いつも、きりってしてカッコよかったけど。これはこれであり。
"キャッシー......まさか......これは......。まさかの伝説級の能力。最後に現れたのは150年前。浄化と癒やし、聖属性の魔法もしくは、光魔法とも言う伝説の魔法。”
”浄化と癒やしですか?” そんな属性あったの?
”そうだよ。伝説級の魔法属性。それを持った者が現れるのは、闇属性の者が現れた時だけ。闇属性も伝説級。この2つが前回揃ったのは150年前。闇属性の者が国を闇一色に変えようとした時に、聖属性、又は光属性の者が現れ、その状況を中和することによって、国が崩壊されるのを防いだ。”
”そんなことがあったのですか?150年も前に。全然知りませんでした。”
”これは国家機密だから。知るものは限られている。私の場合は......(黒い笑顔で、優雅に微笑むお兄)自分で研究しているうちにたどり着いたので知り得た情報だよ。”
さすが、お兄!諜報活動まで超一級!国家機密にまで辿り着くなんて!
”伝説級の聖属性の魔法。”
”間違いないと思うが、両親にも確認した方が確実だね。今晩にでも家族会議をしよう。”
そう言って、お兄は部屋まで戻ることを促し、部屋へ戻った。
キャサリンの熟考
部屋で一人になると、頭を整理するのに集中できた。
聖属性、又は光属性、そして、闇属性。このゲームでは、魔法についてあまり書かれてなかったけど、なかったと思う。火、水、土、風はあった。後、特化型スキルとしての遮断、収納などはあったけど。
ヒロインはよく聞かれたくない話とかは、遮断を用いて人に聞かれないようにしていたし。収納で、ものを出したり隠したりして、証拠を作り上げて人を陥れたりしていた。でも、闇属性で人を操るとかは書かれていなかった。彼女も普通に水属性だったし。てっきり、魅了とかが使えるのかも、と推測していたのだけれど。
ゲームだから、有り得ないことがあり得るのかも、と思っていたけど、もしかしたら、違うのかも。タイプの違う五人の優秀な男性らが(しかも、国のトップになる人達、貴族社会に揉まれてきた人達が、自分の損得勘定もやらずに)一人の女性に惚れ込み、言われるままに国を巻き込むとか普通は有り得ない。そして、この身分社会で、地位の低い男爵令嬢が学園全てを支配するのは、普通に考えたら無理。
そう、それこそ、人の心を操れない限り。てっきり、ヒロインには魅了のスキルまたはゲームの強制力があるのかもと思っていたけど......魅了や強制力どころではない......のかも?
彼女の母親ととても似ているけれど、影響力の規模が違う。彼女の母親でも、十分な悪女。少なくとも百人ぐらいは不幸に落としている。普通に悪女と呼べる。人を利用し、自分の欲を満たすためには何でも使う。ヒロインはその母親の少なくとも百万倍以上の破壊力、影響力で、国を傾ける。普通の悪女ではここまでの被害を出せるはずがない。彼女が取り込むのは最高権力者である国王・皇帝とかではなく、将来は有望だけど、まだ実権を持たない攻略対象者たち。
そう考えると、たぶん間違いない。彼女は、ヒロインは闇属性。
ゲームだったら、それ程被害が出ないから、成り立つ設定だけど、それを現実化すると、被害甚大。国が滅ぶ。もしかしたら、この世界そのものが危ない。
もしこの世界に神様がいるとしたら、均衡を保つために、世界を守るために対抗馬を用意するよね。
たぶん、その対抗馬に選ばれたのが私...ということになる...のかな?
でも、なんで?
ゲーム上、私はただの悪役令嬢。設定上、大した能力もない、普通のやられ役。
王子の婚約者を回避した今、そのやられ役でさえない。
まあ、前世を思い出してから、能力アップで、かなり違うんだろうけど。
本当に対抗馬としての能力開花であれば、考えられるのは一つ。
ヒロインが闇属性に目覚めた。だからこそ、その対抗馬である聖属性・光属性の力が目覚めた。彼女は五歳でも悪女の片鱗を見せていた。そして、この五年で更にそれに磨きをかけていることだろう。そして、今、闇属性という伝説級の魔法を手に入れたとしたら?......このヒロイン、ゲームよりもさらに手強い相手かもしれない。遮断や収納などの特化型の魔法だけでも厄介なのに、更に闇属性......もう、世紀の悪党どころではない......もしかしなくても、最強最悪の敵?
そもそも、闇属性のきっかけは?
ブルブル、震えている場合ではないわね。このまま考えていると、以前囚われていた闇にまた囚われてしまう。一先ず、考えるのを止めよう。
私は一人ではない。家族がいる。頼りになる家族、友達、仲間がいる。そう、私は一人ではない。
ちょっと体を動かしてこよう!私は道場に向かった。思いっきり体を動かすとなんかスッキリした。その後、お風呂で汗を流し、一息ついた頃には、家族との夕食。そして、久々の家族団欒・会議。
家族会議
夕食後の家族団欒を家族会議に変えた久しぶりの集まり。なんか、私の覚醒後、みんな忙しくなって、こうやって集まるの本当に久しぶり。
パパンが開口一番、
”キャサリン、ラルフに聞いたのだけれど、見せてもらえるかな?”
そう言いつつ、’遮断’と言って、この部屋から音が漏れないようにした。みんなの期待の目がプレッシャーです。
息を大きく吸って吐いて、歌詞を歌うとややこしくなるので、ラ音でハミング。アヴェ・マリアを心を込めて歌う。
部屋に黄金のキラキラが降り注ぎ、家族だけでなく、コーヒーテーブルに不自然に置かれていた蕾だけの鉢植えにも降り注いだ。結果、家族全員、とても安らかな穏やかな表情を浮かべ、鉢植えは見事に花開いた。
三人は同時に頷きあい、パパンが、
”間違いない。これは、聖属性・光属性の魔法。実に感慨深い。なにせ、150年ぶりなのだから。”
と言いつつ、お悩みの様子。パパンはママンを見つめ、
”これは、国王に報告しない訳にはいかない。出来れば、隠密で闇属性の持ち主を探り、動向を伺いたかったのだが...。仕方がない、マリーザ、君も一緒に登城してくれるか?”
ママン!いよいよ、影の支配者のお出ましですか?それ程の案件ということですね。そうですよね、150年ぶりみたいだし。希少な案件で、自分の娘が関係していますもの。すみません、お世話をおかけします。心で侘びつつ見守っていると、ママンが慈愛の目とともに言ってくれた。
”大丈夫よ、キャッシー、ここはパパンとママンに任せて、ラルフと待っててね。”
そして、ハグ。ママン、暖かくて柔らかい。ホッとする。体から緊張が溶けていく。その後、パパンとお兄が同じように優しい言葉とハグをくれた。心がほっこり。
ママンがパパンと向き合ったときの、不敵な笑顔。素敵です!何が起きても、勝てる!と思わせてくれる。やっぱり、ママンが最強なんですね。
次の日、両親揃って、登城していきました。昨晩の内にお城には使いが放たれ、今日の一件を了承済みのよう。凄いな、うちの両親!即日の早朝に、国王との謁見が可能なんだから。
確かに、これは、手放せないね。だから、国王はゲームで私だけを切り離し、追放させたんだね。まあ、ヒロインにも有能認定されて、’使える人材’として利用するために、両親まで取り込んだのかも。あの両親が私を庇いもせず、切り捨てるとか、今の現実世界で考えると無理がある。ゲーム上では、両親との関係とか、お兄との関係とか、普通としか書かれていなかったし。ゲームとは違う。切り離して考えた方が良いのかも。でも、ヒロインの方は、ゲーム通りに動くかもしれないから、やっぱり、把握しておいた方が今後の役に立つのかも。
次にサブ画面が出てくるのは、どのシーンだったかな?サブ画面は毎回ついていたわけではなかった。次についていたのは?
2つ目のサブ画面がついた画面
あれは、確か......。王太子ルート。私が悪役令嬢の役。ヒロインが悪役令嬢からのイジメを嘆いているのを偶然通りかかった殿下が慰めるシーン。特別なインク(我が公爵家専用のインク)をドレスにかけられた酷い姿のヒロイン。そのサブ画面は三枚あった。
1つ目は、教室に悪役令嬢とヒロインが二人だけ。悪役令嬢とヒロインの手には一枚のメモがそれぞれ握られていた。あたかも、二人とも呼び出されたみたい。
2つ目は、ヒロインが一枚のメモを左手で収納ボックスにしまい、もう一枚は床に落とし、右手にはインクの瓶。収納ボックスを使って作られたイジメの証拠。ヒロインの顔には残酷な、とても冷え冷えとする満面の笑み。こっわ。
3つ目は、インクを自分のドレスにかけ、床に転がし、泣きながら怒鳴っている。そして、ドアは開いていて、入ってくる人集り。状況証拠が揃っている。被害者、加害者、紋章入りのインクの瓶、インクのかかって汚れたドレス、呼び出しのメモ(ヒロインへの呼び出しのメモだけが床にあった)、いかにも悲しそうに嘆くヒロイン、そして、目撃者となり得る人が5−6人。
この収納と遮断が使えたのは、ゲームの中で、ヒロインだけだったような気が...。そして、それを使いやりたい放題。状況証拠を作りまくり、抜群の演技で仲間を増やし、敵を貶める。指紋鑑定などないから、状況証拠が揃い、目撃者が揃っていれば、逃れるすべはない。
ヒロインは誰にもその事を言ってないし、気付かれていなかった。ゲームの中の誰にも気付かれないように上手く立ち回っていた。聞かれたくない事は遮断し、聞かせたいことは風で音を多くの人に聞けるようにしていたみたい。聞かれたくない、と思っていると音が響き、聞いてほしい場合は、私にしか聞こえない。
とても、用意周到で、注意深く、鉄壁の仮面をかぶっていた。ゲームプレイヤーも殆ど気付いていなかった。このサブ画面に注目した人達以外は。
ちょっと待って!
息を吸って、吐いて。ふ〜。ちょっと、落ち着こう。
.........。考えるのが怖い。出来れば、止めたい。......でも、逃げ出すことは出来ない。私には愛する家族がいるのだから。守りたいものがあるのだから。
もう一度、吸って、吐いて。ふ〜。
よし!
整理してみよう!
1.ヒロインは母親から手練手管を学び、人を陥れることに関してとても優れている。
2.ヒロインは遮断、収納という特別な魔法が使えて、ゲームの中でもそれを使って、状況証拠を作り出して、悪役令嬢たち(このゲームの場合、この令嬢たちは無実で冤罪だけど)を陥れ断罪させていた。
これだけでも、鬼畜で悪逆非道であることは間違いない。これだけでも、学院を手中に収め、将来有望な攻略対象者たちを手に入れ、邪魔な存在を断罪の上、処分して国を混乱させていた。
それに加えて、風魔法で、音を拡散させたり。それ以外でも、水魔法も使えていなかった?証拠を消すのに汚れたりしたら、洗い流したりしていたような...とにかく、彼女の役に立ちそうな魔法が使えたような気がする。一先ず、これは確信までないから、置いておくとしても......
上記の2つだけでも、十分厄介な存在。厄介どころか、最悪な存在。
ゲーム上では、ゲームの設定上では伝説級の魔法まで出てこなかった。
でも......今まさに伝説級の闇属性の魔法が出現したとなると.........
心底怖い!あの先日まで私の心を覆っていた恐怖心が戻ってきそう。体まで震えてきた......
ダメよ!あの時とは違うでしょう!
思い出すのよ!私はもう一人ではないことを。私のことを愛して支えてくれる家族がいることを。家族の笑顔を。
家族の事を考えると胸が暖かくなる。元気をくれる。
落ち着こう。
息を吸って、吐いて。深呼吸よ。ふう〜。
ヒロインが闇属性に目覚めたとは限らないし......
ダメよ!現実逃避しては。
どう考えても、それしかないでしょ!
この世界がゲームの世界、又はゲームに似た世界なら、ヒロイン以外に伝説級の魔法が使えるはずがない。でも、普通なら、ヒロインが聖属性・光属性のはずなんだけど。
まあ、このヒロイン、元々、悪の権化みたいなものだし。勿論、表面上は儚げで頼りない、つい守ってあげたくなるタイプだったけど。実際は違う。真逆だ。イヤ、真逆どころではない。そんな生やさしい存在ではない。
つまり、ヒロインは人を陥れることに関して優れていて、遮断、収納といった特化型の魔法が使えて、さらに、伝説級の魔法まで使える、ということ。
やっぱり、怖いな。
そして、せっかく王子の婚約者にならなくてすんだのに、その彼女の対抗馬であるだろう、聖属性・光属性に目覚めてしまった自分。
彼女の第一の標的から外れたと思ったのに......
この能力を隠せば、隠せれば、大丈夫かも...しれない?
.........しれなくないかも?
もっと嫌なことに気付きそう。
考えたくない、でも、......
一先ず、今は家族と話すまで、考えるのを止めよう。
今日の夕食はなんだろう?
闇属性の出現とヒロインの凶悪性。コンボは最悪。キャサリンは?家族は?王様は?どう対処するの?




