10話 冷やし狼と裏切りの狼
冷たい……、今俺は姉から氷漬けにされている最中だ。
苦行だろう、もう氷山ってぐらいの大きさの氷塊になっている自分の姿が見える。
しかし、段々と掴めてきた、この氷を体の一部だと考えて――――動かす!
そして俺は立ち上がった、その巨体で地を揺らし、天に向かって咆哮を上げる。
その衝撃で空が揺れる――――。
「い、いかん!」
姫様が何か叫んでいるが気付けなかった――――。
空はそのまま砕け散った、いやそうじゃない……屋敷の結界が壊れたのだ、俺の咆哮で。
「くっ……仕方ない、皆急いで元の姿へと戻れ、奴らが来てしまうぞ」
そう言うと俺以外は、メイド服に戻っていた。
だが、――――俺は元には戻れなかった、戻り方がわからないし――――それに、俺にはもう奴が見えていた。
俺は下にいる姫様達を一瞥し、屋敷の裏の林の中に跳躍したんだ。
奴は間一髪のところで気づいて避けやがった。
俺は木々をなぎ払い踏み倒し、土埃を上げて着地した。
「氷山狼……フェンリルですか、懐かしいですねぇ」
枯れた爺さんのような声が聞こえた。
「誰だお前、俺になんかようか?」
俺は唸りながら威嚇する。
「いえいえ、別に貴方よりも貴方のお姫様を探してましてね?」
土埃が晴れ、月明かりに照らされたそいつは……狼の頭を持つ神父風の男だった。
「何者だ、お前」
そういうのが精一杯だった。
「私ですかね、私はゲレリウス、しがない神父で姫様からジェイルの呪いを受けたものです」
ジェイル――――脳内でその狼情報を引き出し、驚愕した。
この男は危険だ――――ここでどうにかしなければみんながやば――――
そう思った瞬間俺に光の柱が降り注いだ。
氷が溶かされる――――これは魔法か?
「終わりましたか、実に呆気のない……いえ違いますか、流石はシスターセレスティ、見事な神聖魔法でした。」
林の奥から少女が出てくる、あれは、俺が狼となった夜にあったあの女か!
「お褒めに預かり光栄です、後は吸血鬼を始末するだけですか?」
「いえいえ、先ほど感じ取った気配は残り五つ、眷属が四人いると見るべきでしょうな」
「左様ですか、では始末して参ります」
そういうと女はこちらに背を向けた――――チャンスだ、俺が死んだものだと思っているらしい。
ちっと寝てたがそんなやわじゃねぇ!俺は光の速さで女を後ろから突き飛ばした。
――――そして臭う、血の匂い、そりゃ光の速さで突っ込むなんてしたら、普通の人間なら死んじまうよな。
女のほうこそ呆気なく死んだ、俺が殺した七人目だ。
神父がこちらを睨んでいる、だが奴は自分の部下が死んだ――――ということには全く心が動いていないようだった。
こいつ――――こいつが本当に、姫様の昔の眷属を全滅させた、裏切りの狼男だっていうのか――――?
俺が脳内にいる狼から聞いた話だ、奴は狼になってすぐに姫様に忠誠を誓ったそうだが、それは演技だった、奴はその一週間後に眷属たちを次々に殺していった。
俺の中にいる狼の何人かも奴の犠牲者がいるらしい。
どうする――――?
今の突撃で光の力は失われてしまったらしい、元々眷属と光の魔法は相性が悪いらしい、まさに万事休すだった。




