プロローグ
超能力。
一般にそう呼ばれる超常的能力が世界に現れたのは、二〇一二年の七月のことであった。とある新興宗教の教祖が、権威づけのために調査機関に自らの能力の調査を依頼したのがきっかけである。それ以来、二〇四一年の現在に至るまで能力者は発見され続け、現在では顕著していない潜在的能力者を含めると全世界に百万人以上の能力者がいるとされていた。
ただし、能力者といっても彼らはそれほど強い能力を保有しているわけではなかった。たとえば現在確認されている最高レベルの念力使いでも、米袋ほどの重さを持ち上げるのがせいぜいである。ゆえに、能力者の実用的な価値はほとんど皆無だと言われる。
ただし、学術的側面においては能力者の価値はきわめて高い。そのため、中韓の台頭により斜陽の時を迎えていた日本政府は、技術大国としての威信をかけて、二〇二〇年度から超能力の研究拠点として美玖波学術特区の建設を推進。従来禁止されていた人体実験などの一部許可をはじめとする法的緩和や、安定した質の良い電力供給などのインフラ整備を徹底して推し進めた。その結果、現在では美玖波学術特区は超能力を中心とする先端分野の世界的な研究拠点となっている。
この美玖波学術特区に存在する世界有数の大企業、マルドゥック・ブレイン社。そこから先日、全世界に向けて驚くべき発表がなされた。世界初の仮想現実技術(VR技術)を利用したMMORPG、EL-Onlineを半年後にリリース。それに伴い、約1500名のテスターを募って一ヶ月間のクローズドβテストをするというのである。
EL-Onlineのリリース発表に、世界は沸騰した。世界中のネットワークをたちまち「キターーーーー!」や「Yeaaaaah!!」などといった歓喜の叫びが駈け廻り、一時、ネット掲示板のスレッドのサーバーが過剰負荷でダウンするなどのトラブルが起きたほどである。
当然、EL-Onlineのβテスターには応募が殺到した。その数なんと三百万件超え。そのため、テスターになるのは二千倍もの倍率をクリアしなければならないということになった。しかも、テスターに応募するためには住所や氏名などの個人データの提出が必要だったため、一人で数十口も応募するなどといったことは極めて難しい。なので、世界中のゲーマーたちはただひたすらに己の祈った。日本でも、真偽のほどは定かではないが、神社やお寺の賽銭が大幅に増えたのだそうな。
そして迎えたテスターの当選発表当日。ゲーマーたちが大騒ぎする中、とある奇跡が起こった。二千の一という超低確率にも関わらず、自分と勝手に応募した幼馴染の二人分の権利を当てた猛者が現れたのだ――。




