VS反乱軍:午前
翌朝。
北部と中部の境で両軍の戦いが始まりました。
「困りましたね」
私は、陛下が援軍命令を下した南部と東部の貴族からの手紙を前に、頭を抱えました。
彼等は、援軍を断って来たのです。
アングル子爵が属する派閥が戦うべきだとか・中部貴族が戦うべきだとか・陛下が官軍を率いず王族ですらない者が指揮官と言う事は、反乱ではないのではないかだとか。
要約すればそんな内容です。
まあ、断られる事を全く想定していなかった訳では無いのですが、まさか、全家に断られるとは。
基本的に王命は断れないものですが、陛下はかなり軽んじられているようです。
カンタン陛下に従うぐらいならエルヴェシウス公爵が国王になった方がマシと、思っていたりするのでしょうか?
陛下の執務室へ報告に入ろうとした私を押し退けるように、伝令が駆け入って来ました。
「火急の知らせに御座います! 官軍は全滅! 反逆軍が王都へ向け進軍中です!」
我が国では部隊の半数が戦えなくなった場合、全滅と表現します。
仮に、全員生存していても戦えなければ全滅なので、この報告から死者数は判りません。
「ぜ、全滅だと?! 早過ぎる! レミ! 援軍は何時になる?!」
「恐れながら。援軍は参りません。見捨てられました」
私の報告に、その場にいた全員が動揺しました。
「どういう事だ?! 反逆軍に加わったと言う事か?!」
「……アングル子爵が属する派閥の方が頼りになるので、其方にお任せすると」
「派閥は関係無いだろう! 国の一大事だぞ!」
「国の一大事とは思っていないのでしょう。『無敗将軍』の狙いは陛下であって、王家ではありません。宣戦布告の際にそう主張しておりますし」
「狙いが私だけでも、国の一大事だろうが!」
私に仰られても困りますね。
「それよりも、陛下! お逃げください!」
セバスチャンが、焦った様子で促します。
「城の守りに残った官軍の数では、人数差が有り過ぎて勝てるとは思えません!」
「私は悪くないのに、逃げろと言うのか! 反逆軍の通り道の中部貴族は、戦わぬのか?!」
「それですが、此方をご覧ください」
私は、予め用意していた手書きの地図を出しました。
「中部の地図です」
「この囲まれている場所は?」
太い線で囲んで強調されている領地を見て、セバスチャンが尋ねました。
「『戦争王』陛下の時代に、ケクラン大公殿下を次期国王にと推していた方々の領地です」
「何だと?! 此処を通れば、戦わずして王都まで進軍出来ると言う事か?!」
全て領地を接していますので、そうなります。
「そうですね。ですが、これは先程申し上げた通り古い情報です。代替わりで考えを変えた所もありましょう」
「そう言えば……」
セバスチャンが、何かに気付いた様子で顔色を変えました。
「レミ! 其方は大公殿下の縁で陛下の側近になった筈!」
「……はい。その通りです」
どうやら、スパイの疑いをもたれてしまったようです。