VS反乱軍:午後
レミを拘束し、昼食を取りながら何処に逃げるか話し合ったカンタン達は、食堂を出た所で遅かった事を知った。
「『無敗将軍』……。何故、此処に?!」
少数の精鋭を従えて立つ先代エルヴェシウス公爵の姿を見て、セバスチャンが驚愕の声を上げた。
幾らなんでも早過ぎる。
到着は明日、早くて夜中になる筈だった。
「どうやって、こんなに早く到着出来たのだ?!」
カンタンには想像も着かなかった。
「その前に、ご挨拶致しましょう」
張りのある声で、『無敗将軍』は話し始めた。
「御久しゅう御座いますな。先王陛下に代替わりの御挨拶を申し上げた時に御会いしたのが最後かと思っておりましたが、まさか、こんな形で再会しようとは、夢にも思っておりませんでしたよ」
彼は、隠居後も鍛錬を怠っていなかったようで、武人らしい体型を維持していた。
「『エルヴェシウス公爵家』の孫娘は陛下には釣り合わなかったようで、まことに残念です」
国王なのに公爵令嬢の嫁ぎ先として相応しい人物では無かったのが残念だと言ったが、カンタンには伝わらなかった。
「フン。身分を笠に着たいけ好かない女だからな。キトリーとは比べ物にならん」
「陛下にお似合いの女性と巡り会えたようで、喜ばしい事ですな」
そう言うと、先代エルヴェシウス公爵は、カンタンに軽蔑の目を向けた。
「自主的に玉座を降りて身の丈に合った身分となってくだされば、申し分無かったのですが」
「貴様っ!」
カンタン達は憤り、セバスチャンを含む護衛騎士が斬りかかる。
『無敗将軍』と言えども、加齢で衰えている筈。
それに、指揮の才能が有っても、剣の才能があるとは限らない。
自分達は幼い頃からカンタンの側近に相応しくあるべく鍛錬してきたのだと、自負している。
「フン。この程度か」
しかし、若い彼等は知らなかった。
先代エルヴェシウス公爵が『無敗将軍』と呼ばれるようになる以前、『王国一の剣豪』と呼ばれていた事を。
勿論、今は全盛期ほどではない。
だが、それでも五本の指に入る強さを有していた。
そして、残りの四人は、彼が連れて来た精鋭である。
「馬鹿な……」
セバスチャン達があっさりと敗れた事で、カンタンの勝機は無くなった。
カンタンも剣術を習ってはいたが、セバスチャン達には及ばないからだ。
後は、誰かがタイミングよく助けに現れるしか、逃れる術は無い。
「さあ。お選びください。此処で殺されるか、降参するか」
「……。こんな事が許されると思うのか!」
カンタンは、先代エルヴェシウス公爵を睨み付けた。
「許されずとも構いませぬよ。ところで、最初の質問にお答えしましょうか」
何故、予想より早く到着出来たのか。
カンタンは改めて考えてみたが、解らなかった。
「単純な話です。我々は官軍と戦わなかったのですよ」
「何だと?! 誰かに指揮を任せて此方に来ただと?!」
「違います。官軍が、我々と戦わない事を選んだのですよ」
耳を疑う発言だった。
「は? 何と言った? 国の為に戦うべき官軍が……?」
「まあ、当然でしょうな。官軍の指揮官が、『陛下は、エルヴェシウス公爵令嬢との婚約を破棄する為に、先王陛下を弑逆した』と信じ込んでいるのではね」
何と言う誤解だと、カンタンの目の前が暗くなる。
父王が急死した事とロズリーヌとの婚約破棄を、そのように結び付ける者がいるなんて、思いも寄らなかった。
もしも、父王が亡くならなければ、カンタンは大人しくロズリーヌと結婚しただろう。
大切な父親の命を奪ってまで、キトリーとの結婚を選んだりはしない。
それなのに、自分の幸福の為なら父をも弑するような人間だと思われているなんて。
カンタンのショックは大きかった。
「し、指揮官は兎も角、官軍は国の為に戦うのだ。何故、反逆軍と戦うなと言う命に従うのだ!」
「さて。それは、私には判りかねますな。指揮官と同じ考えの者・指揮官に逆らえぬ者・周りの皆に合わせる者……。他の考えもあるでしょう」
それに、反逆された理由が理由である。
国にとって特にメリットも無い子爵令嬢と結婚する為に、国でトップクラスの財力と軍事力を持つ公爵家の体面を傷付けた。
反逆させる為に婚約破棄したと思った者もいる。
それに、国王になって数ヶ月のカンタンへよりも先王への忠誠心の方が、まだ強い。
その為、先王が決めた婚約を破棄したカンタンへの反感から、指揮官の『先王陛下を弑逆した現国王の為には戦わない』との判断に反対しなかった者も多かった。
「さて。そろそろお決まりになりましたかな? 降伏か死か。お答えを!」




