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後日談的な最終話です。
それからのことは人伝に聞いた。
国王夫妻はそれまでの不和が嘘のように仲睦まじい夫婦となったそうだ。
それを受け、側妃を正妃にと推す声もあったようだが「正妃はジツィー様一人のもの、そして側妃も私一人のものです」と側妃が言ったためにその話はなくなった。
だがそう語る彼女はとても誇らしげだったそうで、今では正妃と同じ扱いをされているという。
そして第一王子クリストファーは立太子した。
11歳で王太子というのは責任が重すぎるとの意見もあったが「早く地盤を固めてあの人を迎えに行くんだ」と息巻いていたとのことで、巷では『あの人』が誰か議論や賭けの的になっている。
俺も前世の記憶にないその人物が誰なのか気になっているが、何故か皆からはため息を吐かれ、クリストファーは「殿下、可哀想に…」と呟かれている。
第二王女のティアナはクロマンス王国への輿入れを狙って色々画策中らしい。
なんでも5歳の頃にルイスに一目惚れしており、ずっと彼を狙っていたのだとか。
以前は周りから「やめておけ」と言われていたが、中身が須藤君になった途端「よし行け」と周りは応援ムードだ。
俺に対して好意的だったのも、ルイスへの態度を見て『敵ではない』と思ってくれたかららしい。
よかった、中身男で。
第二王子のガイルは変わらず馬鹿をやっている。
けれど生来の性質なのか、皆に可愛がられ甘やかされているそうだ。
王継として厳しく躾けられたクリストファーや他国への輿入れを狙って独学で勉強していたティアナとの差は甘やかし放題の周りの人間のせいでもあったらしい。
馬鹿ではあるが、どうかそのまま素直に育ってくれ。
第三王子のグウェンはガイルたちと同じ学校に通い始めた。
今まで表に出てこなかった第三王子の入学とあってしばらく話題だったが、天使のように愛らしい笑顔と優しい性格で他の生徒や先生、用務員さんなど学校中から好かれ、完全にアイドル化しているそうだ。
俺も一度見て見たかった。
例え本性がティアナと同類であったとしても。
皆はあの後王都で一度身柄を確保され、王城の一室で待機となったがすぐに釈放されていった。
「俺は親方のところへ戻る。冤罪だって伝わってから早く帰って来いってうるさいしな」
そう言って最初に帰ったのはドーパだった。
俺が彼の罪状について直接国に訴えたからだ。
事件はすぐに再捜査され、ドーパを嵌めた3人と下級裁判官は彼と入れ違いに監獄島に収監されている。
「世話になった」と言って俺の頭を軽く撫でた彼の笑顔は実に晴れやかなものであった。
「私も診療所に戻ります。ナナリーのことも心配なくなりましたし、元々あそこにいたのは側妃様の指示ですし」
その後すぐにドクトが帰って行った。
彼は貴族に逆らいはしたが結局投獄自体は側妃の指示だったので、彼女が解放と言えばそれで済むのだ。
また、俺の殺人未遂については全く実行の素振りがなかったことや、暗殺者に刺されて瀕死だった俺を救ったことで帳消しにしてほしいという俺自身の願いが聞き届けられて不問となった。
「何か困ったことがあったらいつでも頼ってくださいね」と言ってくれた彼は最後まで俺の頼りであり癒しだった。
なぜ良心ズからいなくなるのかと叫びたかったが、これが彼らの生きる道なのだから邪魔をすることはできない。
俺は泣く泣く2人を見送った。
「僕たちも帰っていいって!」
「おばさんはもういないけど、弟が待ってるから」
そう言って嬉しそうに翌日帰って行ったのは双子だった。
彼らは一応窃盗の罪があるが、側妃にちゃんと謝ったことで恩赦が受けられ解放されたのだ。
というかちょっと待って。
弟ってそれ、3人目じゃない?
あの、双子じゃなくて3つ子だった設定の時の、もう1人じゃない??
え?ということは、本当の母親は…。
気になったけど、怖いから聞くのをやめた。
「俺も帰っていいみたい。んで王家の家庭教師になることになった…」
さらに翌日、嫌そうにそう語るバッシルがクリストファーに連れられて行った。
彼も原因がガイルだったので早々に解放されるはずだったのだが、クリストファーが諦めずに彼を留まらせてどうか家庭教師にと懇願しており、ついに根負けしたらしい。
王家専属の家庭教師としてまたガイルにも教えるらしいから、ちゃんとカタツムリとナメクジは別物だって教えてやってくれな。
「ネージュも王城に帰ってきたら、俺が面倒見てあげるね」
「もちろん私もご協力いたしますから」
バッシルとクリストファーはそう言い置いて行ったが、生憎俺は自分の分身と年下の世話になる気はない。
グランプだけは皆とは異なり、王都でではあるが投獄続行となるそうだ。
彼は「俺は殴っちまってるからなぁ」と笑っていたが、実際この投獄は刑罰というよりも監視付きの謹慎扱いになっている模様。
だからグランプを引き取りに来た下級騎士団の隊長さんが「騎士団の寮だとお前脱走するから」と謹慎が牢屋になった理由を話していたのを聞いて、それってグランプがちゃんと部屋から出なければ問題なかったのではと思わないでもない。
ゲームではちゃんと復帰してたし。
立ち去る間際に「じゃーな」と気軽に告げられた別れの言葉はどこまでも彼らしくて。
つい「またどこかで」と返してしまった。
そしてハーピスと須藤君だが、彼らはまだ俺と結婚するつもりでいるらしい。
俺は監獄島の監守役を解任され第一王女の座に返り咲いたものの、国王には修道女でいたいと願い出ていた。
しかし前例のないであるため、その処遇を巡り大臣たちがあーでもないこーでもないと頭を捻っている。
そのため今は処分保留中の宙ぶらりん状態。
だから2人は今のうちになんとか俺の同意を得ようとしているのだろう。
だが俺にその意思はないし、須藤君にはティアナという新たな候補者もいるので是非諦めていただきたい。
「ネージュ、エルフの国に行こーよー」
「駄目です。三根さんはクロマンス王国に行くんです!!」
「だからどっちにも行かないってば!!」
人が減ってだいぶ広くなった一室に最後まで残った3人の決着が着くのは、まだもう少し先の話である。
読了ありがとうございました。
この後番外編がありますが、そちらは別で上げるのでこのお話はここで終わりです。
ちなみに釈放されて帰った順番は好感度に準じています。
1.ドーパ→妹のように思っている
2.ドクト→恩人
3.双子→大好きなお姉ちゃん
4.バッシル→恋愛感情あり
5.ハーピス、ルイス→執着
順位外.グランプは仲間としか思っていなかったので釈放されない、という暗喩だったりします