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折れた翼の英雄譚  作者: 猫の人
3章 英雄の台頭(王国歴145~148年)
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エピローグ:役者と傭兵の言葉遊び

 気が付くのは遅かったが、結局は途中でイルムが考えた通りの展開であった。

 騎士団長の一人が他の団長にも内緒でイルムを使った裏切者の炙り出し、囮作戦を実行したというのが、今回の騒動の真相であった。

 もちろん、イルムを軍に入れるために交渉に来たシャリーもその事を知っていた。ジャンは知らなかったようであるが。



「シャリーも、最初からグルだった訳か」

「申し訳ありません。身内の数人が裏切っているかもしれない事は分かったのですが、明確な証拠が無ければ何もできませんので。

 どうしても、罠にかけるための“何か”が必要だったんです」

「ま、怒ってはいないけど。お金ももらえるし」


 イルムは裏切った部下をシャリー経由で軍に引き渡した。

 連れてきた騎士については約束したとおり、ちゃんとした扱いをすること、可能な限り殺さないようにとお願いをしている。


 鹵獲した馬2頭についてはイルムの預かりとなり、今回の褒美として正式に授与されることとなる。

 管理などを考えると要らないという事も考えたイルムだが、シャリーの伝手で世話が出来る人を用意してくれるらしく、ならば問題ないかと受け入れている。

 食費などの維持費については、軍からの給与を考えれば出せない額でもなかった。最悪は馬肉コースであったが。



「イルム、怪我は無い?」

「イルム、心配したよ」

「ちゃんと無事だったから。ごめんな、心配かけて」


「やっぱりイルムの当番と私たちの当番は合わせないとダメ」

「何かあってからじゃ遅いの。“次”は、無いから」

「いや、無理じゃないか? 今回みたいに、上の意思が関わってくると、断り切れないだろうし」

「「軍を辞めよう? イルム」」

「まぁ、餌の仕事は終わったしなぁ。辞めさせてもらえる、か?」


 今回の件で、事後に話を聞いたルーナとネリーはとても怒っていた。

 イルムだったから良かったものの、下手をするとイルムは連れ去られ、二度と会えなくなるかもしれなかったからだ。

 二人はイルムの事を信頼しているものの、イルムが何でもできる超人ではない事も知っている。人間にはできない事など山ほどあり、たとえイルムであろうと数十人の騎士に囲まれてしまえば不覚を取るかもしれない事を知っている。でなければ、村での一件は起きなかっただろう。

 二人は運が悪ければ人が簡単に死ぬことを、実感をもって知っている。家族を簡単に失ったのだから。


 だからこそ、二人は軍に対しかなり悪い印象を抱いてしまった。



 ただ、イルムの方は今回の件をそこまで気にしていない。

 自分の身の安全は確保しつつ動いていたわけで、軍の思惑に乗ったのも自分の意思と判断からである。状況に抗えず流されたわけではない。

 嫁に心配をかけてしまったことは反省せねばならないが、そう大きな危険に晒されたという自覚が薄い。ちょっと特殊な仕事を割り振られた、程度の認識である。


 当然の事だが、軍を辞められそうであるのなら、それに越したことは無い。最初からできれば軍を辞めたいという思いはあるし、それが許されるなら万々歳だ。

 イルムは話を横で聞いているシャリーに視線を向けた。


「残念ですが、今回のダーレン攻略が終わるまではお付き合い願います。

 その後に関しては、私からは何とも。配置換えはあると思いますが、すぐに辞めさせようと、辞めてもらっても構わない、とはならないと思います。

 イルム隊長は、お強いですから」


 イルムの視線に対し、シャリーは苦笑しながら答える。

 たぶんも何も、思った通りにはならないだろうからだ。優秀な人材がある(・・)なら、使い潰すのが貴族的な考えなのである。イルムの戦闘能力の高さを知ったのだから、きっと前線に出されるんじゃないかと推測する。

 建前で言われていた魔法関連の話がどこまで本気か分からないが、それ次第だろうなぁ、とも。



「ま、いいさ。しばらくは前線に出なくていいだろうし、馬もいるからいざって時は逃げるだけだ。

 契約したときの内容と話が変われば従う理由は無いし、報酬は分捕れば済むし。

 その結果がどうなろうと、それは自業自得って奴だろ」

「……ええっと。穏便に、お願いしますね?」

「それは俺が考える事じゃないな。団長サマが約束を守るなら、俺も約束の範囲内で手を貸すだけだ。それ以外の事は知らないね」

「善処、します」


 今回はいいように使われたイルムだが、最後にシャリーへ脅しをかけ、それで手打ちとしておいた。

 契約外の仕事を振ってきたのに思うところが無いわけではないが、仕事なのだからと、それを飲み込むだけの度量は持ち合わせている。何度もいいように使われてやる気は無いと主張をして釘をさすが、追加報酬、馬の件で今回は相殺だと匂わせた。


 そんなイルムの拙い交渉術に、貴族らしい教育を受けているシャリーは冷や汗をかきつつ、言葉を濁す。

 どうやっても守れそうにない約束だけに、明言を避けた形だ。



 シャリーは、知人であるジャンの事を思い出した。

 イルムを相手に、絶対に嘘はつくなと。約束は守れと。そうすればイルムは従うからと。彼は、そうシャリーに忠告していた。

 そうして、最後にされた忠告も思い出し、無意識につばを飲み込む。


「イルムは、嘘つきや裏切り者に容赦はしない」


 早く配置換えをしてもらおう。後任にすべて託して自分は別の場所で戦おう。

 シャリーは、心からそう思った。

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